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Posted by TI-DA at

2018年03月02日

亡き友を思う~シェイプ・オブ・ウォーター レビュー

 ギレルモ・デル・トロの映画を見ると、無性に切なくなる。
 それは4年前に亡くなった友人の記憶と繋がっているからだろう。
 亡くなる少し前に、当時公開していたデル・トロのパシフィック・リムについて話をしていた(いつものように好みはあわなかった)。代表作のひとつであるヘルボーイに出てくるエイブというキャラクターがなんとなく彼に似ているなど。デル・トロの新作であり、最高傑作の呼び声も高い「シェイプ・オブ・ウォーター」を観た。相手に何も求めない、ありのままの自分をさらけ出すことができる、異形への無垢な愛というテーマは、なんとなく(なんとなく、なのだが)友人てふPにつながる。以下ネタバレあり。
 


 僕はデル・トロの熱烈なファンというわけではない。いくつかの映画は観ていて、どれも嫌いではない。傑作ダークファンタジーと呼ばれる「パンズ・ラビリンス」は、その世界観にすんなり入ることができなかったが、悲しく美しい良い映画だと思う。デル・トロの創造した異形中の異形であるペイルマンが代表的だが、彼の創る異形は恐ろしいが、どこか悲しく、切なげで、そしてどこかユーモラスだ。それは「シェイプ・オブ・ウォーター」の魚人にも継承されている。
 パンズ・ラビリンスに比べると、今回の映画はかなり計算されているようだ。意図的な性的な場面の配置、キャラクターを意図的に類型的なキャラクターにする、部分的なミュージカルという技巧などなど。それでも、あまり作り手エゴが剥き出しになった感じはしない。それは「水に形はないように、愛にも形はない」という普遍的なメッセージが、純粋に胸を打つからだろう。ラスト直前の、妄想ミュージカルにはやられた。
 アカデミー賞作品賞をもしこの映画が取ったなら、すごいことだ(監督賞はいけるかもしれない)。普遍的ではないし、どちらかというと境界線の少し向こう側の映画だが、傑作だ。この映画なら、友とも意見が合いそうだ。
  
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Posted by 仲村オルタ at 20:58

2018年01月01日

2017年極私的映画ベスト20 その2(10位から1位)

 映画を観るときは、どうしても創り手視点で見てしまう。ああ上手いなとか、やられたなとか、これは自分でも応用できそうだとか、自分ならこうするのにな、とかいった具合にだ。誰が出ているかではなく、誰が撮っているかで映画を選ぶ。ゆえに、登場人物に感情移入することはあまりない。感情移入するのは、鑑賞中よりも鑑賞後振り返ったときのほうが多いのだが、それでも劇中忘我し、涙が流れることもある。2017年No.1になったのはそんな映画であった。

特別枠2 変魚路 directed by Go Takamine
 沖縄(出身)の巨匠高嶺剛監督の18年ぶりの新作。ただそれだけで特別な作品だが、本作はあまりにも自由奔放すぎて、通常の直線的な理解では映画を理解しきれない。絵画的な鑑賞をしようにも、ヒントが少なすぎる。もはやパラダイスビューとウンタマギルーが奇跡のように思える。文脈も、映画的文法も気にしない。イメージをつなぎあわせ、その表層に浮かぶわずかな手がかりを掬い取ってみなければならない、とさえ思える。落ち着いてDVDで観てみようと思う。個人的には、幸運にもロケに立ち会うことができた思い入れのある映画だ。


特別枠3 ローガン・ラッキー(Rorgan Lucky) directed by Steven Soderberg
 ソダーバーグの引退撤回作は、ただそれだけで喜ぶべきニュースなのだが、この映画は理詰めで作ろうとするソダーバーグが、あまりにも気を抜きすぎたのか、あるいは復帰作で気合を入れすぎたのかわからないが、変魚路とはまた違う自由さに溢れ、映画としては好きなほうだが、全体にしまりが感じられず。あるいは、徹底的にゆるくつくろうとしたのだが、理詰めの監督の方法論が邪魔をしたのだろうか。監督買い筆頭グループのひとりながらランクインならず。特別枠となった。


第10位 ロスト・エモーション(Equals) directed by DRAKE DOREMUS★★★+
 製作自体は2015年だが、日本では今年公開。比較的早くリリースされたDVDにて鑑賞した。今年は良質なSF映画が多かったように思う。この映画のスタイリッシュで近未来的な雰囲気は、全編でロケに使われている安藤忠雄建築によるところが大きいだろう。感情を持つことが悪とされ、禁止された管理社会のロミオとジュリエット。美しく、哀しい映画だった。


第9位 エイリアン・コヴェナント(Alien: Covenant) directed by Ridley Scott★★★+
 御年八十歳となった巨匠サー・リドリー・スコットのエイリアン前日譚の第2作。前作プロメテウスはそこそこヒットいて、この第二作が作られることになったのだが、エイリアンを全面に登場させた本作は、興行的には散々だった模様。あれだけ次どうなんの、的な終わり方をしておいて、本人もあと二本はこの路線で撮りたいと意欲を示していたそうだが、次は少なくとも本人は撮れないかもしれない。ファスベンダー祭りと言われた本作は、第一作のホラー色よりも第二作の対決色に強いものだが、極私的には好感のもてる一作だった。また、監督作のみならず、10位のロスト・エモーションのプロデューサー、上位に出てくるブレードランナー2049のエグゼクティブ・プロデューサーとしてクレジットされているが、どれほど関与しているかわからないのだがトップ10映画三本に絡んでいる。恐るべき創造意欲である。


第8位 ディストピア/パンドラの少女(The Girl with All the Gifts) directed by Colm McCarthy ★★★+
 ゾンビ映画は一つの映画ジャンルとして確立しており、これまで様々なゾンビ映画が作られている。最近ではブラッド・ピットのワールド・ウォー・Zが「走るゾンビ」でサスペンスを生み出し新境地を見出した。既に語り尽くされた感があるジャンルだが、この映画ではゾンビ化した母親から生まれた第二世代を定義して、新しい対立と葛藤を生み出した。その世界観は新鮮で「やられた感」溢れるものだった。この設定でもう何本か撮れそうだと思える舞台設定は、それだけで成功だろう。ただ、ラストがこれでよかったのかな、と思う。徹底的に悲観的にも、あるいはハッピーエンディングであったとしても、別のエンディングのほうがよかった気がするのだが。


第7位 ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー(Rogue One/A Star Wars Story) directed by Gareth Edwards★★★+
 スター・ウォーズのスピンオフ第一弾。やたらとスター・ウォーズ史上最高傑作とのコマーシャルが繰り返されていたが、やはりオープニングクロールのないスター・ウォーズはそれだけでマジックに欠ける。エピソード4のオープニングへ繋がる物語ゆえに、エンディングがわかっていることもマイナス要素かと思われたが、ラスト近くで出てくるダースベーダーの圧倒的存在感に、それは杞憂となる。キャラクターとしては、ジェダイではないのに、自分がジェダイだと信じるチアルートと、元帝国軍ドロイドのK2-SOがよかった。一説には当初完成した映画があまりにも暗すぎて、4割超を別の監督が再撮影したというが、完成版でもトーンはシリアスで暗い。エピソード8と比べるとユーモアが極端に少ない。バトルシーンについても、ウォーカーの登場するスカリフの戦いはもっとスペクタクルが期待されたが、予想よりも地味だった気がする。映画館で見たときはあまりにも地味で、スター・ウォーズ独特の高揚感がほとんど感じられなかったのだが、DVDで再見すると、先に書いたベイダー無双シーンなど見どころもたくさんある。I am with the force,The force is with me.


第6位 ダンケルク(Dunkirk) directed by Christopher Nolan ★★★1/2
クリストファー・ノーランが全体の7割をIMAXカメラで撮影したという戦争映画。幸運にもIMAXにて観ることができてラッキーだった(沖縄には今のところIMAXシアターはない)。プロットよりも、キャラクターよりも、空間的な広がりや空撮の美しさを観るための映画だろう。真のIMAXといわれる次世代IMAXレーザー4k劇場は日本では大阪にしかない。本当はそこで観たかったのだが、それは叶わなかった。ひょっとしたら、大阪エキスポシティIMAXで観ていたらもっと上位だったかもしれないし、通常の映画館で観ていたとしたら、トップ10にも入らなかったかもしれない。それほど、劇場ファシリティに依存する映画だったと思う。


第5位 ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち(Miss Peregrine's Home for Peculiar Children) directed by Tim Burton★★★1/2
 レビューで書いたとおり、この映画はティム・バートン久々の快作であった。テーマと創り手の創造意図がぴたりとはまったときに、このような傑作ができるのだろう。
 年初にみたこの映画はトップ3に入ってもおかしくのない1本だと思ったが、今年はその後何本も傑作に巡り合うことができた。ティム・バートンといえば、次回作は「ダンボ」の実写版らしい。あまりフィットしない予感がする。


第4位 マンチェスター・バイ・ザ・シー(Manchester by the Sea)  directed by Kenneth Lonergan★★★1/2
 この映画は、過去も現在も主観も客観も継ぎ目なく映像化し、多少の混乱を招きながら、ちょうどミッドポイントあたりで明らかになる主人公の過去にあった悲劇の真相ですべてがつながるという、大胆な構成で成功している。ストーリーは悲惨な状況から、決してハッピー・エンディングではなく、監督のいうところの「ベターエンディング」で収束する。とても静かだが、温かみのあるエンディングだ。


第3位 ブレードランナー2049(Blade Runner 2049) directed by Denis Villeneuve ★★★1/2+
 リドリー・スコットの傑作ブレードランナーの続編は、「複製された男」のドゥニ・ヴィルヌーブが監督をして大正解だった。前作が、人間とレプリカントの差について問うていたものが、今回はレプリカントと実態をもたぬソフトウェアの恋愛にふれながら、レプリカントが自らの出自を追いかけるサスペンスを描く。映画の質感を維持しながら、新しい主人公の冒険譚を描く。ラスボス?もまだ健在なので、次回作もあるかもしれない。ハンス・ジマーの音楽もとてもよかった。ドゥニ・ヴィルヌーブはよほどリブートものが好きなのか、デヴィッド・リンチの壮大な失敗作デューンの再映画化が決まったという。これも期待できる。


第2位 パターソン(Paterson) directed by Jim Jarmusch★★★★
 ジム・ジャームッシュのユーモア、アイロニー、オフビート、詩的な美しさの溢れる秀作。主人公が劇中で執筆するオハイオマッチなどの詩は、現代詩人Ron Padgett によるものだが、どれも平易な言葉でイメージの広がる詩作ばかりだ。映像が詩的であり、詩のイメージが映像の美しさをひきたてる。前作オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴも素晴らしかった。昔はイメージを意図的にずらしたり重ねたりして映画を作ろとしていたが、最近は肩の力が抜けて、イメージを意図的にずらしたり重ねたりして物語を描こうとしている。ニューウェイブの旗手ももう64歳。だが、リドリー・スコットまでまだ15年もある。次回作も期待したい。


第1位 ラ・ラ・ランド(La La Land) directed by Damien Sayre Chazelle★★★★
 前作「セッション(Whiplash)」で一躍スターダム監督にのしあがったデイミアン・チャゼルが、アカデミー監督賞をとり、作品賞は幻となった一作。プレゼンターの間違いで一時は受賞かと思われたが、作品賞は結局「ムーンライト」に渡った。個人的にはこの映画のほうが圧勝だった。ミュージカルのフォーマットにのせて、スターダム映画とみせかけ、あまりにせつないラストへ呼び込む。音楽も、映像も美しい。映画ならではの表現方法だと思う。ティーザーと本編が連動してイメージを増幅するやり方も、やりすぎるとあざとくなるのだが、抑えた効果につながっている。監督としては、2015年は2位、そして2017年は1位となった。


 ということで、結果的にはトップ10のうち、5本(ティム・バートンをいれると6本)がSF映画ということで、例年にもまして偏りがある結果となった。個人的にはようやく次回作が始動したところなので、2018年は自作に生きる映画を選んでみることになるのだろう。  
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Posted by 仲村オルタ at 22:28

2017年12月29日

2017年極私的映画ベスト20 その1(20位から11位)

 今年はよく映画をみた。創作の筆は事実上ストップしており、同時に本を読むペースも落ちている。映画を観るのは創作の神様と唯一の交信の手段のような気がする。スマホ画面での分割鑑賞も含めれば、おそらくここ数年では一番見ている。
 今年はあたりの映画が多かったと思う。ゆえに、10本ではなく20本(+特別枠の数本)を選んでみた。このランキングは極私的なもので、映画の質を客観的に示したものではない。ただ、やはり自分が創作者の端くれである視点は忘れてはいないだろうと思う。劇場公開が2016年12月から2017年11月までの映画より選出している。

特別枠 マイ・ライフ・ディレクテッド・バイ・ニコラス・ウインディング・レフン(My Life Directed By Nicolas Winding Refn) 監督 リヴ・コーフィックセン

「ドライヴ」で一気に世界的にも有名な監督となったレフン監督が、その次作にあたる「オンリー・ゴッド(Only God Forgive)」を葛藤しながら苦闘しながら異国の地バンコクにて撮影する姿を、妻で女優のリヴ・コーフィックセンが監督・撮影した異色作。ホドロフスキー監督のタロット占いに励まされ?、作るべき作品として「オンリー・ゴッド」に挑むが、思うように撮れず、失敗作だと嘆き苦悩するレフン。カメラをむける妻は、励ますでもなく、私の人生はどうなるのと却ってレフンを追い詰める。挙句のはてに、たかだか10歳そこそこの娘には「たかが映画よ、世界のおわりじゃない」と言われる始末。
 レフン監督は「ドライヴ」を超えるどころか、それに匹敵する映画すらまだ撮るに至っていないと個人的には思う。今年公開された「ネオン・デーモン」も「オンリー・ゴッド」同様に、おそらくは作ろうとした意図と異なった方向に転がってしまったような気がする(そう思うとデヴィッド・リンチは凄いなと改めて思う)。それでも、この記録映画を見たいまは、ずっと見続けたい監督、ずっと応援したい監督となった。創作者は家族のなかでも孤独なのだとつくづく思う。

第20位 ワンダーウーマン(Wonder Woman) directed by Patty Jenkins★★★
 格好いいキャラクターだ。アカデミー女性監督のこのアクション映画はやたらと評判はよいが、プロットや設定がとびぬけて素晴らしいというわけでもないと思う。今年はDCはマーヴル・アベンジャーズ対抗のヒーロー大集結作ジャスティス・リーグを公開したが、こちらは更に空気みたいな一本だった。DC派を卒業しようか。DC好きというわけではなく、ただノーラン版ダークナイトが好きなだけではないか。そう思った。


第19位 マリアンヌ(Allied) directed by Robert Zemeckis)★★★
 ジャスティス・リーグと異なり強烈な葛藤をプロットの主軸にすえた快作。ワンダー・ウーマンを演じるガル・ガドットは美しくセクシーでしかも格好いいが、この映画でマリアンヌを演じるマリオン・コティヤールは、その大きな瞳でみつめられるとなんだか古傷をつつかれるような気になる。古典的なプロットの葛藤映画を熟練の技でまとめた。


第18位 ゴースト・イン・ザ・シェル(Ghost in the Shell) directed by Rupert Sanders★★★
 攻殻機動隊のハリウッド実写版。評判はあまりよくないようだが、確かにこの映画だけを観ただけではさっぱりなのかもしれない。押井版のアニメと宗方版原作の要素が全編に散りばめられているので、その差分でイメージを補いながら見ているということだろう。改めて押井版の攻殻機動隊とイノセンスは素晴らしいと思えた。


第17位 アトミック・ブロンド(Atmic Blonde)  directed by David Leitch★★★
 ここまでアクトレス優位の映画が続いた。この映画のシャーリーズ・セロンと、ゴースト・イン・ザ・シェルのスカーレット・ヨハンソンはひょっとしたら交換しても演じられたかもしれない。この映画はプロットと作り手のこだわりに差があった。羅生門のように回想として話はすすむ。しかし、それは正確な回想ではない。しかも主人公以外の視点もある。文法的におかしい気もするが、それについて矛盾は感じないのは、主人公の想像の映像化であることもありうるからだろう。映像、回想はそのひとの主観的なもので、必ずしも真実ではない。失敗すれば、映画は破綻するが、この映画は無事成立している。


第16位 ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー・リミックス(Guardians of the Galaxy Vol. 2) directed by James Gunn★★★
 前作は実はMarvel隠れた最高傑作と言われていたが、たしかに面白かった。息子に見せたら、息子も気に入ったようで、「ジュラシック・ワールド」「スター・ウォーズ」に次ぐ映画館鑑賞作となる。今回は親父泣かせの映画だった。話は無茶苦茶だが、今年映画館で泣いた映画はこの映画ともう一本くらいしかない。


第15位 ブランカとギター弾き(BLANKA) directed by 長谷井宏紀★★★
 イタリア製作、日本人監督によるフィリピンを舞台にした短編?映画(75分)__マニラのスラムに暮らす孤児のブランカは、母親を金で買うことを思いつき、盲目のギター弾きピーターと旅に出る。ピーターから得意な歌でお金を稼ぐことを教わったブランカは、レストランで歌う仕事を得てお金を稼ぎ、計画は順調に進んでいるかに思えた。しかし、そんな彼女の身に思いもよらぬ危険が迫っていた__というもの。個人的には、桜坂劇場復帰の年に観た何本かの一本で、チラシを手に取るまでそんな映画の存在自体も知らなかったのだが、観てよかった映画だ。東京にいたら、観ることがなかったかもしれない。悲惨な状況のなかで悲惨さを感じさせないひたむきさが映画全編を貫く。


第14位 ドント・ブリーズ(Don't Breathe) directed by Fede Alvarez★★★
 ヒットの仕方と作品のテイストから、去年のIt followsと比較される本作。盲目の老人宅に盗みにはいった若者が思わぬ逆襲に会い、息を潜めて逃げまくる映画だ。盲目の老人はまったく悪くないが、「逃げろ」と感情移入するのは盗みに入った若者たちのほうという、逆転構造がよいのだろう。ただ、It followsのようなスタイリッシュさはなかった。もう一本、似たような公開のされ方の映画に、Get Outがあるのだが、こちらは個人的にはまったく響かなかった。設定にリアリティが感じられなかったこと、ゆえに怖くなかったことがあるのだろう。


第13位 虐殺器官 directed by 村瀬修功★★★
 原作は伊藤計劃の代表作であり、極私的には日本SF小説史上最高傑作といえる小説。正直なところ、原作のほうが数倍良いのだが映画としても及第点だろう。小説では現実にありそうなSF兵器が多数でてくるが、そのガジェットの楽しさがあまり映画には出ていないのは残念だ。公開延期などゴタゴタしていたが、無事公開できてよかった。ハリウッドあたりで実写映画化されるとよいのだが。虐殺を引き起こす言語、という発想はあらためて素晴らしい。


第12位 アンダーワールド ブラッド・ウォーズ (Underworld: Blood Wars) directed by Anna Foerster  ★★★+
 ハリウッド大作というわけでもなく、どちらかというとB級路線で、それでも粘り強く続いているアンダーワールドシリーズの第5作。ヴァンパイア族とライカン(狼男)族の闘いに、ハイブリッド、お互いの内部抗争と裏切りが絡み、誰が味方なのか敵なのかわからないなかで物語が続く。実は結構好きなシリーズでもある。何がよいかと言えば、この構造に創り手的に惹かれているのだと思う。が、あまりにもマイナー過ぎるのか、東京にいてこの映画の公開に気づかず、結局DVDで観た。ケイト・ベッキンゼールはこのシリーズ以外で観たことがないが、闘う女のキャラクター設定はどれもよく似ているなと思ったりもする。


第11位 T2 トレインスポッティング(T2 Trainspotting) directed by Danny Boyle)★★★+
20年ぶりのトレインスポッティングの続編。舞台設定も前回の二十年後だ。カネを持ち逃げしたマーク・レントンが故郷エジンバラに帰ってくる。演じるのはユアン・マクレガーなのだが、年をとったなとつくづく思う。劇中の人物も、演じる役者も、見ている我々も等しく年をとっている。なんだかそれだけで切なくなる。二十年間何をしてきたのだろうと振り返るのは、マーク・レントンだけじゃない。同窓会的で散漫かと予想したが、以外にもきちんとまとまっていた。ジャンキーでどうしようもなく子供とも離れ離れになってしまったスパッドが、文学的才能に目覚め、自伝的小説を執筆する。物語のなかでその展開だけが唯一の救いだ。


トップ10は次回に。
  
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Posted by 仲村オルタ at 13:45

2017年12月21日

レビュー スター・ウォーズ 最後のジェダイ(ネタバレあり注意)

 筋金入りのスター・ウォーズファンを定義するとしたら、どんなだろう?
 10代の最も多感な頃にエピソード4をみてときめいた経験をもつ(僕もぎりぎり10歳だった)、シリーズのなかで最高傑作を訊かれると迷わず「帝国の逆襲」と答える、オープニングクロールを観るときはもちろん想像するだけで鳥肌が立つ、 スクリーン一杯にミレニアム・ファルコンが駆け巡るだけで嬉しくなる……云々。
 エピソード8 最後のジェダイは、賛否別れるという。批評家の評判は概ねよいが、ファンは激しく反発する人も多いという。なぜだろう。僕は絶賛派だ。エピソード7フォースの覚醒の懐古趣味も嫌いではないが、むしろこのチャレンジングなエピソード8を評価する。劇中カイロ・レンが言うように、過去と決別し今の自分を肯定する、という強いメッセージを帯びた意欲作。監督・脚本をつとめたライアン・ジョンソンの勝利である。以下ネタバレあり。
let the past die. Kill it, if you have to. That’s the only way to become what you are meant to be!



 繰り返しになるが、前作「フォースの覚醒」は映画的に褒める要素は殆どないにも関わらず、それでも好きか嫌いかで言えば好きな映画で、2016年(公開は2015年12月)の極私的No.1となった。エピソード4のストーリーをなぞり、戸惑いを生むような要素を排除し、馴染みのフォーマットに身を委ねる。それが至福の喜びであること理解した自らスター・ウォーズファンであるJJエイブラムスが、さあ、これがみんなの好きなスター・ウォーズでしょう、と提示した。エピソード7は制作意図も、プロットも、実質的なリブートだった。
 ではこの最後のジェダイはどうか? それほど監督作があるわけではないライアン・ジョンソンは、シリーズ最高傑作「帝国の逆襲」を強烈に意識しつつ、JJが仕掛けた謎をことごとく肩透かしをくらわせ、すべての伏線や予定調和にあっさりと決着をつけてしまった。ある意味では、エピソード5帝国の逆襲とエピソード6ジェダイの帰還で提示されたプロットラインを、すべて使い切ってしまった。
 この映画で最も美しかったのは、スノークの玉座の間での戦い、スノークをライトセーバーの遠隔操作で葬り去ったあと、レイとカイロ・レンが力を合わせて衛兵と闘う場面だ。「衝撃のスター・ウォーズ」との触れ込みは、このシーンのためにあるのだと思う。エピソード6でダースベーダーとともにルークがパルパティーン=ダース・シディアスを葬り去ったあと、何が起こったか? このシーンはエピソード9のためのシーンではないのか? エピソード6で息子ルークに対して、ダースベーダーが皇帝を倒して共に銀河を支配しようと誘っていたではないか。
 愕然としながらも、興奮して見ていると、その後の展開は更に予定調和を破壊する。光と影は再び袂を分かつ。
 その後、氷の惑星ホスを思い出させる塩の惑星でのバトルで、最後の見せ場がやってくる。カイロ・レンvs.ルーク。嫌味で素直じゃない隠居老人と化したルーク・スカイウォーカーが満を持してライト・セーバーを握るのだ。闘いながら、「反乱軍は今日滅ぶ、戦いは終わる、オマエは最後のジェダイになる」と言い放つかつての弟子に対して、クールに言い放つルークの台詞が素晴らしい。

Amazing. Every word of what you just said was wrong.The Rebellion is reborn today. The war is just beginning. And I will not be the last Jedi.
「素晴らしい。お前が今言った全ての言葉が間違っている。反乱軍は今日再び生まれ変わるんだ。戦いは始まったばかりだ。それに私は最後のジェダイではない」

 タイトル「最後のジェダイ」がこの台詞で複雑な意味をもつ。本作のテーマは過去との決別、そして新しい物語と葛藤のはじまり。それだけで胸が熱くなる。この挑戦をやりきったライアン・ジョンソンはビッグチャンスをつかんだ。
 たとえ、重力のない宇宙で重爆撃がありえないだろうが(実際にはすぐ真下に星を意図的に描いているので、星の重力があると説明できるかもしれない)、フォースでできることがインフレしてようが(さすがにレイアの帰還は笑えたが、どのフォースもこれまでに定義された力の延長にあり、不自然な感じはさほどしなかった)、笑いが多すぎようが(アイロンはどうかと思うが、全体的にはバランスは良かったように思うが)、アベンジャーズっぽくなってようが(そこまで娯楽に徹している感じはしないが)、ルークにマトリックスはやってほしくなかろうが、レジスタンスが無策すぎて都合よく追い込まれていようが、こうした都合のよさはこれまでのスター・ウォーズにもあることであり、エピソード8はテーマと制作スタイルで新しい地平を切り開いている。そもそもオープニングタイトルで我々は魔法にかかる。少なくとも個人的には、その魔法がとけるような映画ではない(批判をする人にとっては、魔法が足らなかったということだろう)。
 さあ、全部使い切ってやったぞ、この先どうする?
 ライアン・ジョンソンの挑戦に、JJエイブラムスはどう答えるのだろうか。クリエイターの創造のバトルに胸が躍る。2年後が今から待ち遠しい。  
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Posted by 仲村オルタ at 18:00

2017年04月01日

「騎士団長殺し」と物語の必然性

 村上春樹の新作「騎士団長殺し」を、1.5回の沖縄往復の飛行機(一度は片道)で読んだ。いろいろと思うところがある。
 僕は筋金入りではないにしても、そこそこの「ハルキスト」だと思う。小説はすべて読んでいる。村上春樹作品への批判についても、その都度反論すべきところは反論する。すっかり停滞している自作にも、少なからずこれまで影響を受けている。もっとも多感な頃に読んだ「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」や「ノルウェイの森」や「ダンス・ダンス・ダンス」はいずれも読後に何かに打たれるほどの衝撃を感じ、その後しばらく引きずったものだ。
 そこでこの新作である。以下ネタばれは厳密に言えばあり。

 

 一読して、「この物語は物語られるべき必然性があるのか」と感じた。起こる出来事についても、いわゆる「行きて帰りし」物語で、日常の延長でなにも起こらなかったと言えば何も起こらなかったとも言える。つぎつぎと起こる超常的な出来事や少しずれた登場人物もみな、蓋然性はあったとしても(それは極めて恣意的なものだが)、必然性を感じ得ない。そのため、これまで何度も描かれている「穴」をめぐる冒険も、主人公が不思議と女にもてて性行為(それはおそらく意味のある性行為なのだろうが)の相手もいとも簡単にみつかることも、恣意的な要素としてしかこの目に映らない。この物語のなかで描かれるべき絵について作者が言及していることが皮肉に思える。作者はこの小説で何を言いたいのだろう。いや、果たして何かを語るべきときでなければ、物語は描かれるべきではないのだろうか。いろいろと考える。
 本作は少なくとも途中までは結構楽しんで読んでいた。あらためて村上春樹の描く世界がデビッド・リンチ的であるように思えたし、どこか「ダンス・ダンス・ダンス」に近い肌触りを感じたりもしていた。が、読後に衝撃もなく、創作物はなぜ物語られるべきかという堂々巡りの禅問答ばかりが頭に沸き起こるのだ。
 それでも、村上春樹のファンとして、この次も読むだろう。途中で放り出すこともなかった。次は連作短編が読みたい。ひょっとしたら、長編を書く体力の問題なのかもしれない。  
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Posted by 仲村オルタ at 09:40

2017年03月06日

My Eternal Soul~草間彌生 わが永遠の魂@国立新美術館

 圧巻の展覧会だ。草間の偉大なる過去を振り返りながら、草間の現在に圧倒される。悲しいまでの芸術家としての性を感じる。現在87歳。もうまもなく88歳だ。それでもなお、過去はプロセス、今が出発点と言い切る。現役の、最も世界に影響力のある芸術家のひとりにしてこの態度。ただ、圧倒され、言葉を失うしかない。これはすべての芸術家、創作家に必見の展覧会だ。その覚悟を問われる。普段はなにかと東京と相性があわない私だが、このときばかりは東京に今居ることができたことを至福だと感じた。



 私は絵画の人ではなく、どちらかというと言葉の人なので、冒頭のメッセージからガツンと殴られた気がした。ここに備忘録として、全文を転載する。

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草間彌生から世界のみなさんへのメッセージ

今、世界は様々な国々や人々の争いの中に騒然として美しい平和とは遠い中で、人々の悩みはいっそう深くなっていきます。この混迷の地球の中の雑然とした世界の中で今こそ何を望み、人間としての毅然とした姿勢をいっそう高め、社会の一員として素晴らしい世界をみんなで力を合わせて構築してゆくべきだと思います。
私は毎日朝から晩まで芸術の製作に命がけで闘っています。
私の心の限り、命の限り、真剣に作り続けたこれらの我が最愛の作品群を私の命の尽きた後も人々が永遠に私の芸術を見ていただき、私の心を受け継いでいって欲しい。
永遠に輝いた未来、そして人間愛の美しさと私のこの魂を受け継いでゆく事こそ絶大なる死後の私の願いであります。
私は芸術家として70年以上も作品を作り続けて毎日生命の尊さを祈り続けて参りました。私の心が沈んだときや、希望が薄れたとき、悲しみのとき、いつも私を支え救ってくれたのは、私の芸術家としての強い生命の輝き、それにより力をもって生き続けてこれました。
それらの力こそ私の人間としての信念でありました。
人生の浮き沈みの中に、いつも志を強くもって生きてきた今日にいたるまでの人生の歩み、それらの人生路の長かりし日々を私は真剣に、そして命がけで過ごしてきたことを、心から誇りに思っております。
「芸術家としての生きる心構え」が私の一生を支えてきました。
”芸術の想像は孤高の営みだ”
それは世界の人たちと感動を共にすることに命を賭して成し遂げるものだと思います。
私のメッセージとしてこの信念を世界の人々に伝えたい。
私は死ぬまで闘い続けたい。私が死んだあとも皆さん、どうぞ私の創造への意欲、芸術への希望と私の情熱を少しでも感じて頂けたらうれしい。
多くの若い人やこれからの新しい世界をつくっていく方々が何か精神的な悩み、そして人生に対する悩み、そういったものがあった時に、私の生きてきた道のりや、私が唱えてきた世界観や思想を乗り越え、皆で偉大なる世界をつくられていくことこそが絶大なる私の希望であります。それを心より願っております。

さあ、闘いは無限だ
もっと独創的な作品をたくさんつくりたい
その事を考える眠れない夜
創作の思いは未来の神秘への憧れだった
私は前衛芸術家として宇宙の果てまでも闘いたい
倒れてしまうまで

これまで私の芸術の発展に力を貸してくださった多くのみなさまに心からありがとうと申し上げます。

前衛芸術家 草間彌生





  
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Posted by 仲村オルタ at 23:06

2017年02月05日

ティム・バートン、久々の快作~Miss Peregrine's Home for Peculiar Children

 ティム・バートンはもう20年以上も前から、いわゆる「監督買い」する映画監督のひとりで、好きな作品は数多いのだが、ここのところ極私的にはフィットしない作品が続いていた。おとぎ話とホラーの境界をうろうろする物語(例えば「スリーピー・ホロウ」「シザーハンズ」)は素晴らしいのだが、おとぎ話的要素が強くなりすぎたり(たとえばビッグ・フィッシュ)たとえば、ホラーが強くなりすぎたりする(たとえばスウィーニー・トッド)と好みから外れていく傾向があるようだ。そのうえ世界設定の自由度が低い物語は、明らかに監督のやる気の萎えを感じてしまったりで、最近では未見のものも増え、必ずしも監督買いとはいえなくなっていた。
 新作「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」も、予告編だけを見ていたら、おとぎ話的すぎるのかなという印象だったのだが、先日台湾行きの飛行機のなかで見てみると、これが久々の「境界的」な傑作だった。ダークファンタジーはやはり、ダークになりすぎても、ファンタジーすぎてもバランスが悪い。タイムループを組み込んだ世界設定も、悪役の不気味さも、奇妙な子供のキャラクター(とくに双子)もいい。怖いもの見たさを刺激する物語もよく、久々のティム・バートンワールドの傑作と思えた。

(物語 wikipediaより)
フロリダ州に住むエイブ・ポートマンは、子供の頃にはモンスターと戦い、第二次世界大戦の間中ウェールズにある「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」が暮らす家で過ごしていたことを、孫のジェイクに何年間も話し続けていた。その家の女主人であるアルマ・ペレグリンは「奇妙なこどもたち」を養っていたが、こどもたちはそれぞれが特殊な能力を持っていたという。
その後、16歳となったジェイクは、祖父のエイブから電話を受け、バイト先の薬局の管理者であるシェリーとともに祖父の家に向かうが、そこで両目が失くなった状態のエイブを発見する。エイブは「ケインホルム島へ行き、1943年9月3日のループへ行け。そうすれば鳥が全てを教えてくれる」とジェイクに言い残し、不可解にも亡くなってしまう。シェリーが銃を持ってジェイクに加わると、祖父の話に出てきたモンスターが彼女の後ろに出現する。ジェイクはシェリーに対して後ろを撃つように伝えるが、彼女にはそのモンスターは見えず、そのままモンスターは消えてしまう。
精神科医のゴランからの後押しや、ミス・ペレグリンからエイブの誕生日に送られた手紙の発見で、ジェイクと彼の父であるフランクはケインホルム島へ向かうことにする。しかし2人は、こどもたちの家が1943年9月3日にドイツ空軍の空襲を受けて破壊されていたことを知る。ジェイクは失望して父親とともに泊まっていたパブに戻るが、翌日もう1度行ってみると、森の奥に古めかしい屋敷を発見し、「奇妙な子どもたち」に迎えられるのであった。



(ティム・バートン フィルモグラフィーと極私的評価)
1982年 ヴィンセント Vincent - 監督 未見
1984年 フランケンウィニー Frankenweenie - 監督 未見
1985年 ピーウィーの大冒険 Pee-wee's Big Adventure - 監督 未見
1988年 ビートルジュース Beetlejuice- 監督 ★★★
1989年 バットマン Batman - 監督 ★★★1/2
1990年 シザーハンズ EDWARD SCISSORHANDS - 監督/製作/原案 ★★★★
1992年 バットマン・リターンズ Batman Returns - 監督/製作 ★★★★
1994年 エド・ウッド Ed Wood - 監督/製作 ★★1/2
1996年 マーズ・アタック! Mars Attacks! - 監督/製作 ★★★1/2
1999年 スリーピー・ホロウ Sleepy Hollow - 監督 ★★★★
2001年 PLANET OF THE APES/猿の惑星 Planet of the Apes - 監督 ★★★
2003年 ビッグ・フィッシュ Big Fish - 監督 ★★
2005年 チャーリーとチョコレート工場 Charlie and the Chocolate Factory - 監督 ★★
2005年 ティム・バートンのコープスブライド Corpse Bride - 監督(共同)/製作 未見
2007年 スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師 Sweeney Todd: The Demon Barber of Fleet Street - 監督 ★★
2010年 アリス・イン・ワンダーランド Alice in Wonderland - 監督/製作 未見
2012年 ダーク・シャドウ Dark Shadows - 監督/製作 未見
2012年 フランケンウィニー Frankenweenie - 監督/製作[12] 未見
2014年 ビッグ・アイズ Big Eyes - 監督/製作 ★★
2016年 ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち Miss Peregrine's Home for Peculiar Children - 監督 ★★★1/2  
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Posted by 仲村オルタ at 12:02

2017年01月09日

東野さん、ありがとう

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 大切な人の死をまた新聞で知る。ポトゥア作家東野健一さんが亡くなった。
 ラストイベント「宇頂天果無ポトゥアの宴」にて余命半年を告白しながらも力強く生きていく宣言をしてから、ほぼ一年。
 その後、去年の7月に沼津の全国街頭紙芝居大会で会ったときは、本当にしんどそうで、それでも声をはりあげて上演したポトゥアで声がでなかったと、残念そうに語っていた。
 10月には今年発売された絵本を、12月には年末のイベントの案内を律儀に郵送していただいた。
 いつかは来ることだと思っていたけれど、寂しいものだ。
 いつも息子を寝かすときに本などを読むのだが、今日は東野さんの絵本「蝸と兎」を読んだ。読みながら、笑いながら、なんだか泣けてきた。東野さんに会えたこと、教えてもらったこと、言ってもらったこと、覚えておこな、と息子に言うと、息子は深くうなずき、やがて寝入った。
 東野のおっちゃん、ありがとう。
 僕らにとっては最後の、本人は納得していないようだったけれども、それでも全力のポトゥアをみせてくれた沼津の写真を掲載し、追悼の意を表します。








※ 東野さんとの縁をいただいたことに改めて感謝いたします。ありがとう。  
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Posted by 仲村オルタ at 22:43

2016年12月31日

2016年極私的映画ベスト10

 毎年恒例の極めて私的な尺度で選ぶ映画ベスト10。去年より少ないものの、今年も合計で35本あまりの映画を映画館やDVDで見た。映画をみて、どうのこうのと好き勝手なことを言ったり、まだ見ぬ新しい自作について思いを巡らしたりすることは、とても幸せなことなのだと改めて思う。例年どおり、前年2015年12月から今年2016年11月に公開された映画を対象とする。

特別枠 サイン・オブ・ザ・タイムズ Sign 'O' the Times directed by PRINCE

 2014年にリバイバル公開され、特別枠にランクインしたこの映画だが、今年は突然亡くなったため、二度も映画館で見た。そのうち一度は、立川にて爆音(正確には極音らしい、たぶん爆音にミックスするには音源の仕様が不足しているのだろう)で見た。素晴らしいライブフィルムだ。私の持っているCDは出力レベルが低く、ほかのプリンスの曲と合わせて聴くとまったく満足できないので、出力を上げてmp3にもした。ブルーレイも手に入れた。プリンスをライブで見ることができなくなった今も、ときどき思い出したように個人的にはプリンスブームがやってきて、プリンスばかり聴く日々が続いたりする。プリンスと同時代を生きることが出来て、本当に良かった。
RIP prince,may u live 2 see the dawn.

第10位 シビル・ウォー キャプテン・アメリカ Captain America: Civil War directed by Russo brothers ★★★

 DC派の私だが、上海行きの飛行機内で見たにもかかわらず、この映画は結構楽しめた(アントマンやスパイダーマンが出て来るあたりはやり過ぎ感もあるのだが)。キャプテン・アメリカは1本目は凡庸だが、2作目ウィンター・ソルジャーより、おそらくはアベンジャーズより面白くなる。本作は2作目と同じ監督で、この功績が認められたのか、次回のアベンジャーズの監督にも起用されている。Batman v Supermanは同じ"内戦"ものになるのだが、たぶん監督ザック・スナイダーとの相性が悪いのだろう、バットマン映画の興奮もなく終わった。

第9位 我が背きし者 Our kid of a Traitor directed by Susanna White ★★★

 ジョン・ル・カレ原作のスパイ・サスペンス。いわゆる巻き込まれ型サスペンスの定石を踏みながら、リアリティあるスパイ間の駆け引きをも描く。この映画も厦門行きの飛行機のなかで見た。飛行機のなかというのは、画面は小さいが物語に集中できてよい。読みにくいル・カレの原作を今読んでいる。

第8位 スーサイド・スクワッド suicide squad directed by David Ayer ★★★

 DCからは悪役オールスターズが地球を救うこの映画がランクイン。世間の評判は分かれているようだが、個人的にはザック・スナイダーの映画よりよっぽどいい。画面の派手さというのは、CGでなんとでもなる今、まったく興奮しない。この映画では、ジョーカーのキャラクター配置がとてもよかった。まさにジョーカーだ。ノーラン版のジョーカーが強烈すぎてその次が演じられなかったのだが、この新しいジョーカーも個人的には悪くないと思う。

第7位 シン・ゴジラ Shin-Godzilla directed by 庵野秀明 ★★★

 この映画の成功は、パニックムービーをつくろうとせず、日本マーケットのみに集中し、現実の政治シミュレーションの群像劇に徹したことによるだろう。この映画ももとはと言えば台北行きの飛行機のなかで見たものを、もう一度IMAXで見直してみたのだが、それでもなおその展開に引きつけられた。人物以外オールCGのジャングルブックとは対極にある、稚拙に見えるCGもまたノスタルジーを引き出すための狙い通りなのかもしれない。

第6位 レヴェナント The Revenant directed by Alejandro González Iñárritu ★★★

 もしも昨年のアカデミー賞発表の時点で、「バードマン」のあとにこの「レヴェナント」が出来るとわかっていたら、監督賞はアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥではなく、多くの人々?の期待どおりマッドマックスのジョージ・ミラーが受賞していただろう。奥行きと広がりのある美しい冬の絵に圧倒された(もちろん撮影賞受賞)。実に映画らしい映画であった。

第5位 エクスマキナ  Ex Machina directed by Alex Garland ★★★1/2

 人工知能の恐怖という語り尽くされた感のある使い古されたテーマを、現在のテクノロジーとそれによって規定された日常の延長として、スタイリッシュに、クールな絵で描く。人工知能ロボット・エヴァのキャスティングが極めて重要だが、アリシア・ヴィキャンデルは素晴らしかった。タイトルは、演劇用語である「デウス・エクス・マキナ(劇の内容が錯綜してもつれた糸のように解決困難な局面に陥った時、絶対的な力を持つ存在=神)」からつけられている。この映画の結末を考えると、実に意味深だ。

第4位 イット・フォローズ It follows directed by David Robert Mitchell ★★★1/2

 “それ”はひとにうつすことができる、“それ”はゆっくりと歩いてくる、“それ”に捕まると必ず死ぬ、“それ”はずっとずっと、憑いてくる...極めて恣意的なルールに規定されたこの映画は、極私的にはゲーム小説、ゲーム映画があまり好きでない私にとってはスルーされるものだった。気になったが映画館では見なかったのだが、夏過ぎにDVDで見てやられた、と思った。画面のどこかで、必ず誰かが歩いている。それがitなのかどうかもよくわからない。計算されているものだが、徹底的に作り込んだ美しい構図が物語に必要な要素だとわかる。監督買い候補のひとりとして注目したい。

第3位 湾生回家 directed by 黃銘正 ★★★1/2+

 戦前に台湾で生まれ、日本の敗戦とともに”帰国”した湾生日本人を描いたドキュメンタリー。台湾の景色をみて、ここが私の祖国なのだと涙す年老いた人たちをみて、私も涙する。個人的にも懐かしい花蓮の田舎の風景。台湾に暮らした経験がなければこの映画を見てその涙を理解することはできないだろう。湾生三世の台湾人が、亡き湾生の祖母の日本での足跡を追う物語も配置され、単なる台湾愛に終わらないところも素晴らしい。傑作のドキュメンタリーだ。

第2位 ハドソン川の奇跡 Sully directd by Clint Eastwood ★★★★

 85歳を超えて、意欲的な作品を作り続けるクリント・イーストウッドの傑作。昨年極私的トップ1「アメリカン・スナイパー」に続きトップ3入りである。全編IMAXカメラで撮影されたこの映画をIMAX劇場で見ることができてよかった。事実にもとづいているので、驚きもない。それを前提として、イーストウッドはパイロットSullyのプロフェッショナリズムに焦点を当てた。プロフェッショナルなその姿勢に感動し、涙する。歳のせいか、映画をみて最近は泣くことも以前よりは増えたのだが、この種の涙は初めてだ。10年に1本の傑作を80歳を超えてなお、しかも二年連続で創るイーストウッドの創造力と意志には、ただ感服するばかりだ。

第1位 スター・ウォーズ フォースの覚醒 Star wars:The force awakens directed by J.J. Abrams ★★★★

 客観的に考えれば、この映画が第1位になる理由はあまりない。プロットは、エピソード4あるいはエピソード6の焼き直し。デス・スターの改良版キラースターベースを破壊しにいくのに、時限サスペンスを感じられない。悪役は中二病。この物語に続くエピソード8,9についても、予定調和的なストーリーが容易く思い浮かべられる。
 それにしても、だ。
 画面を縦横無尽にファルコン号が飛ぶだけで、マズカナタの城の麓に広がる湖にXウィングが現れるだけで、タイ・ファイターとドッグファイトするだけで、ただただ嬉しくなる。何度も見たくなる。JJはおそらくは計算してこのようなプロットに、映画に落ち着けたのだろうと思う。今更奇をてらう必要はない。ただスターウォーズの世界に見を投じるだけで、我々は幸せなのだ。こうして考えると、映画が極めて個人的なものだとつくづく思う。エピソード4が初めてのスターウォーズだった私のように、この映画が映画館での初めてのスター・ウォーズだった当時6歳の息子は、おそらく彼の何十年と続く人生においてこの先もスターウォーズに熱狂し続けるのだろう。
  
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Posted by 仲村オルタ at 12:44

2016年09月16日

Marvel vs.DC

★「スーサイド・スクワッド」を観た。最近はMARVELに押されっぱなしのD.C.の久々の快作に思えた。悪党どもが世界を救う話は、MARVELのシネマティック・ユニバース最高傑作と言われる「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」に似た構図となり、音楽の使い方など確かに同じムード漂うものだが、「スーサイド・スクワッド」が快作となったのは、ジョーカーの存在である。スーパーヴィランvs.ヴィランズの闘いの構図のなかで、ジョーカーだけはどちらの味方になることもなく、ただ自分の美学のためだけに行動する。この歪な三つ巴感に、映画的快楽が伴うのだ。ジョーカーを演じたジャレット・レトはとても良かった。ヒース・レジャーやジャック・ニコルソンと比較してどうのこうのという論評もあるが、先代?をリスペクトしながら新たなキャラクターを作ろうとする意気込みを感じた。もちろんそれを支えるのは俳優の演技力である。



★どちらかというと私はDC派だった。それはバットマンがDC所属ということによるところが大きい。クリストファー・ノーランのダークナイトはいまでもおそらく極私的歴代NO.1映画だろうし、遡ればティム・バートン版のバットマンも大のお気に入りだった。要するにバットマンが好きなのだろう。ところが、ノーランも関与する「マン・オブ・スティール」以降のザック・スナイダー版DCワールドの世界観は、個人的にあまり好みではない。闇を抱えたスーパーマンがあまりピンとこないのかもしれない。とにかく派手にズズズズドドーンと世界を破壊するザック・スナイダーの絵作りが好きではないのだ。今年公開の「バットマン v. スーパーマン」も同じだった。バットマンが登場するにもかかわらず、絵的に映画的快楽がないのだ。世界をまもるために世界を破壊してしまうことへの葛藤も、すでにライバルMarvelのアヴェンジャーズでテーマとして採用済みである。



★一方のMarvelだが、劇場で鑑賞したアベンジャーズ2 エイジ・オブ・ウルトロンにも、ザック・スナイダー同様のズズズドドーンを感じて、ただただ幻滅した。アイアンマンも1本目は良かったが、2本目以降はワクワク感が減った。正義の味方の葛藤にはあまりに環境が違いすぎて感情移入できるはずなどない。Marvelについても、少し映画館から遠のいていたのだが、先日飛行機のなかで「キャプテン・アメリカ シビルウォー」をみて、少しまたMarvelのシネマティック・ユニバースへの関心が復活した。この映画におけるキャプテン・アメリカはまさにDC的なダークヒーローである。その前作「ウィンターソルジャー」も、もう少ししたらシネマティック・ユニバースと連携するという「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」も面白かった。まるでDC映画のやりたいところを研究し、先取りしているようにさえ思う。



★そうなのだ。最近このアメコミ二大勢力の映画の根底にあるテーマも、キャラクターの描かれ方も似てきている気がする。つまりそれは、ヒーローであることの意義と犠牲、世界を守る意義と犠牲に対する責任ということだ。DCのほうがややSF寄りのような気もするが、神であるソーが闘うMarvelも十分にSFである。ダークナイト・トリロジーで興行的にも映画の質としてもMarvelを圧倒したと思われたDCだが、正直なところここのところ押されっぱなしだ。ただ前提としては、家族で見ても大丈夫なMarvelと大人むけDCという路線はあると思うのだが、デッドプールが出てきたことでそれも崩れはじめている。

★デッドプールがMarvelのもうひとつの映画世界であるx-menのキャラクターとは知らなかった。日本では、そのことはまったく触れずに、ただのお馬鹿無責任ダークヒーローとして宣伝していたが、映画のなかにはプロフェッサーの「恵まれし子らの学園」も出てくる(が、プロフェッサーは出てこない)。個人的には、映画のキャラクターが観客に話しかけてくる映画は好きではない(映画的マジックが冷めてしまう)ので、この映画はそれほど好きではない。



★X-menといえば、この夏「アポカリプス」が公開された。新旧シリーズ融合の前作「X-Men: Days of Future Past」にくらべれば構造はシンプルで、悪役も最強なのだろうが(なんせ神なのだから)、あまり強くも怖くも感じなかったのがこの映画のすべてであろう。個人的にはとても好きな役者のひとりであるマイケル・ファスベンダー演じるマグニートの悲劇にもっとフォーカスすればよかったのにと思う。前作でx-menシリーズへのまさかの復活を果たしたブライアン・シンガーのx-menワールドはこれで一区切りであろう。次作はヒュー・ジャックマンのウルヴァリン引退作になるという噂があるが、マグニートやミスティーク主役のスピンアウトに期待したい。ミスティークは「アポカリプス」以後、最初の「x-men」でのマグニートとの協働に、どのようにしたらつながるのだろう?

★Marvelはこのあと、ベネディクト・カンバーバッチ主演の新キャラ「Dr.ストレンジ」、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの続編、スパイダーマンの続編、ソーの続編などが予定されている。DCは「バットマン v.スーパーマン」に登場したメタヒューマンのキャラクターであるワンダーウーマンの話、DC版アベンジャーズのジャスティス・リーグ、新キャラのフラッシュ(フラッシュ・ゴードンではない)の話などが予定されているようだが、興行収入的に厳しければどうなるかわからない。

★個人的には独立派?のフランク・ミューラーのSin Cityや、駄作と言われながら個人的にはかなり評価の高いSPAWNの次回作に期待したい。製作されるかどうかもわからないのだが。


  
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Posted by 仲村オルタ at 18:00
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仲村オルタ
仲村オルタ
職業:書き物一切。
職人のごとくただ書くのみ(としたい)。
公式サイト alt99.net
台湾より沖縄復帰後1年で関西へ。まさかの東京暮らしを経て、流れ流れて今は沖縄暮らし。
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