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Posted by TI-DA at

2020年01月01日

2019年極私的映画ベスト20 その3(10位から1位と特別枠2)

 2019年の極私的映画ランキング、いよいよトップ10。と、その前に特別枠から。

◆特別枠2 ブレードランナーIMAX 監督:リドリー・スコット
 新聞やテレビの今年の沖縄の十大ニュースに選ばれないが、極私的には「沖縄にIMAX映画館が登場」がトップ10の上位に入る。そのおかげでこの歴史的名作をIMAXで見ることができたし、スター・ウォーズ新作もIMAXで見た。客足不調が言われるパルコ・シティだが、なんとかこの映画館だけでも残ってほしい。
 公開当時には世間の評価もそれほど高くなかったとされるリドリー・スコットのこの傑作SFノワールハードボイルドだが、IMAXで観て、重低音に圧倒され、吸い込まれるような漆黒の黒さに目を見張り、レプリカントの悲哀に心をかき乱される。個人的にはカタギ仕事のゴタゴタで何もかもうんざりしていた時期に観ただけに、その創作意欲と完成度にあらためて感動し、救われた1本だった。


第10位 ジョーカー ★★★+ 監督:トッド・フィリップス
 実は今年最高の期待作だった。評判もいい。R15にも関わらず興行収入もいい。しかし、極私的には泣けなかったし、感情移入できなかった。ジョーカーは狂気そのものであり、バットマンと対をなすものであり、意味や動機づけを行うことは興ざめな気がしたのがひとつ(それでいてブルース・ウェインを出すのはフェアじゃない気がした)。バットマンもジョーカーも同じ狂気であり、その裏表でしかない。それを裏だけ強調されても、なにか足らないのだ。あとは精神疾患を抱えるものを笑い、追い詰めていくその展開に、興ざめしたのだ。この映画は不条理ではない。ジョーカーには狂気に走る理由がある。その根本が疾患であるというのは、創作的にどうかとは思う。この映画のあちこちにあるように、現実と幻想がもっと複雑に入り乱れて、意味を求めず、感情を求めつづければ、傑作になったのかもしれない。極私的には今年もっとも残念な一本でもある。


第9位 ブラック★クランズマン ★★★+ 監督:スパイク・リー
 スパイク・リーの復活?作。白人至上主義団体(KKK)に潜入する黒人警官の話だ。80年代終わりから、90年代初頭にかけて、何本も傑作を生み出し時の人となったスパイク・リーも、しばらく名前を聞かなくなる。2006年に傑作「インサイド・マン」を撮るが、フローティング・ドリーショットhttps://alt.ti-da.net/e11018441.html 以外は、スパイク・リーらしさを感じない。ここしばらくは日本で公開もされなかった。そこへこの傑作がリリースされた。久しぶりにアカデミー賞も受賞し、授賞式でもスピーチした。スパイク・リーは作品賞を受賞した「グリーン・ブック」を批判したというが、確かにブラック・クランズマンのほうが創造欲に満ちた良作だ。


第8位 火口のふたり ★★★+ 監督:荒井晴彦
 今年も観た日本映画は数本もないが、このR18映画は極私的に創作意欲がかきたてられるものだった。映画鑑賞直後に白石一文著の原作も読む。全編にわたり濡れ場が多いが、綺麗だとは思えても、あまりいやらしくはない。あまりエロすぎるように撮らないのもテクニックなのだろう。結婚直前の女と、離婚して身体の言い分から遠ざかっていた男。身体の言い分をきいて、ふたりは退廃的で破滅的な数日間を、食って、寝て、やりまくる。本能の前に、道理はただ平伏すしかない。これも登場人物の少ない戯曲的な映画だ。荒井晴彦監督は、自身で脚本を書いて撮った作品を何本か観てみたい。


第7位 移動都市/モータル・エンジン ★★★+ 監督:クリスチャン・リヴァース
 ピーター・ジャクソン製作・脚本、ロード・オブ・ザ・リングなどで特殊効果を務めたクリスチャン・リヴァースの初長編監督作品となった本作は、総じてあまり評判はよくない。だが、つまらなかったかというとそうでもないし、移動都市と反移動都市連盟の戦争も迫力があり、復活者シュライクのキャラクターも実にいい。
https://alt.ti-da.net/e10981883.html


第6位 ジョン・ウィック チャプター3 パラベラム ★★★+ 監督:チャド・スタエルスキ
 2015年に公開されたジョン・ウィックを観て、誰がシリーズ化されることを予想しただろう。死んだ奥さんから送られた愛犬を殺された元殺し屋が、個人的な復讐だけでなく組織そのものを破滅させる、というよくありがちとも言えるストーリーで、たしかにGun-FU(ガンフー)と言われるアクションは新鮮だったが、ごくごく普通の映画だった。それがまさかのチャプター2、そしてチャプター3と、2年に1本のペースで順調に製作されており、本数を重ねるごとに、キャラクターが増え世界観がより厚くなる。ガンフーもさらに好調で、特に本作ではなぜかニューヨークを馬に乗りながらガンアクションするシーンが馬鹿馬鹿しくて最高だった。


第5位 サマー・オブ・84 ★★★1/2+  監督:RKSS
 フランソワ・シマール、アヌーク・ウィッセル、ヨアン=カール・ウィッセルら、カナダの映像制作ユニット「RKSS(ROADKILL SUPERSTARS)」が、1980年代のホラー映画、サスペンス、スラッシャー、そして青春映画にオマージュをささげた映画『サマー・オブ・84』。
 思わぬ衝撃作だった。後味の悪い映画として有名なものは、セブン、ミストなどが挙げられると思うが、個人的にはこの映画のラストの展開はセブン以来久しぶりの「トラウマ級」の衝撃だった。少年少女の連続誘拐殺人事件を解決しようとする少年たちのseek&find。物語は予定調和として落ち着くかと思った矢先に、まさかの展開に度肝を抜かれる。このエンディングを見つけ出したことが、この若き映像作家たちの勝利だろう。全編を貫くダークなテクノもいい。


第4位 アリー スター誕生 ★★★1/2+ 監督:ブラッドリー・クーパー
 破滅的な主人公(たいていは男、そういえば破滅的な女主人公の物語はないのかも)の物語が、どうやら個人的なツボらしい。自己犠牲というには身勝手な選択だが、自己の破滅は相手を思ってのことだ。
 去年のボヘミアン・ラプソディー以来、音楽映画が多く公開されており出来もいいのだが、このリメイク版スター誕生も傑作だった。レディー・ガガの歌と演技も良かったが、驚いたのはブラッドリー・クーパーの歌だ。音楽はもちろん素晴らしかったが、プロットも良かった。もっと身勝手に描くことができたアリーを動かない北極星とした設定も成功している。


第3位 バーニング(劇場版) ★★★★ 監督:イ・チャンドン
 村上春樹作「納屋を焼く」を韓国の映画監督イ・チャンドンが脚本、監督をつとめたこの映画は、短編ゆえの「放り出し」感を生かしたまま、90分の映画としての創造性を両立させている。納屋ではなくビニールハウスを焼くのだが、村上春樹の世界観を尊重し、離れないまま、独自の作家性を描く。セリフ、映像、小道具などいろいろなものがなにかのメタファーと思える。「蜜柑があると思うのではなく、ないということを忘れればいい」、世話を頼まれた姿を見せない猫、子供の頃に落ちた存在しない井戸、リトル・ハンガーとグレート・ハンガー、何度もかかってくる無言電話そしてビニールハウスを焼くという趣味。マイルス・デイヴィス「死刑台のエレベーター」をBGMに、沈みゆく夕日に向かって、上半身裸でグレート・ハンガーの踊りを踊るヘミのシルエットの美しいこと。映像の美しさもあり、何度も観返してみたい傑作だ。


第2位 ローマ Roma ★★★★ 監督:アルフォンソ・キュアロン
 アルフォンソ・キュアロンはこの極私的ランキングでは1位の常連だ。寡作だが、2007@年のトゥモロー・ワールド、2012年ゼロ・グラビティ と年間1位を取り続けている。映像のセンス、ストーリーテリング、エンターテイメントと作家性の両立そのすべてにおいて、現代を代表する映画監督であることは異論はあるまい。
 NETFLIXにて公開されたこのローマも素晴らしかった。全編モノクロの美しいプリント、構図や映り込みタイミングなどが完璧に計算されたカメラワーク、淡々と進むなか突如として感情があふれるクライマックス(もちろん号泣した)。この映画こそIMAXでみたいが、最近はスコセッシもコーエン兄弟もみんなNETFLIXで映画を撮る。製作者にとっては儲かり、作家にとってはいろいろな自由度があるのだろうと思う。もしも、この映画を映画館で観たなら、あの波打ち際のシーンを大画面で観ていたなら、3作連続1位だったかもしれない。そう思える傑作。


第1位 ロケットマン Rocektman ★★★★ 監督:デクスター・フレッチャー
 2位のローマと迷ったあげく、結局エルトン・ジョンの半生を描いたミュージカル・ファンタジーを年間1位に選んだ。映画としてはローマのほうが評価も高いのだろうが、心にズシンとくる影響力は個人的にはこの映画のほうが強い。エルトン・ジョンの音楽が素晴らしいのは言うまでもないが、この映画の根底にある孤立、孤独に共感するからだろう。映画を観終えても、音楽を何度も聞くことで、またこの映画に戻ってくる。たいていのものを手に入れた天才ロック・スターも、おそらくは本当に欲しいものは手に入れられない。タロン・エジャトンの演技もよかった。


 来年はYouTuberにつづき、この映画評論もプロジェクト化しようか思案中。
  
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Posted by 仲村オルタ at 00:00

2019年12月31日

2019年極私的映画ベスト20 その2(20位から11位と特別枠1)

 昨日に続き、2019年の映画ベスト20。20位から11位には、思索的なSFや大御所の映画が並んだ。

◆特別枠1 マトリックス4DX 監督:ウォシャウスキー兄弟(今姉妹)
 エポックメイキングな映画がある。映画の面白さで、時代を作る映画だ。これらの映画はその後しばらく「○○に次ぐ」とか「あの○○を超えた」というように、ベンチマークされ、宣伝に利用される。例えば、80年代以降ではダイ・ハード、シックス・センス、タイタニック、アバターなどなど。
 サイバーSFジャンルでは、やはりこのマトリックスだろう。今回は沖縄にできたユナイテッドシネマの4DXにて、家族で鑑賞。やはり素晴らしい。哲学と、カンフーアクションと、トリッキーな撮影による映画的快楽。もうおそらくは10回目くらいになるこの映画を古く感じることもなく楽しんだ。息子はその後しばらくの間、Rage Against The Machineばかり聴いていた。


第20位 アニアーラ ANIARA ★★★ 監督: ペッラ・カーゲルマン&フーゴ・リリヤ
 スウェーデンのノーベル文学賞受賞作家ハリー・マーティンソンの代表作「アニアーラ」を実写映画化したスウェーデン製SF大作。大作とはいえ、19位にでてくるセルビアSFと同様に、哲学的で思索的だ。火星移住のための乗客をのせたアニアーラ号は、故障のため軌道をはずれ、宇宙をさまよう。自暴自棄になった乗客は、快楽に溺れたり、人工知能を神と崇めたり。そこへ救出船が近づくのだが、それはまるで石棺のようだった・・・というもの。はっきりした解の提示を求めないが、やや放り出し感が強すぎるように感じる。原作も読んでみたいのだが、たぶん途中でやめてしまいそうだ。


第19位 A.I.ライジング ★★★ 監督:ラザール・ボドローザ
 セルビア発のSF作品。孤独の任務に同行したアンドロイドに恋をして、人間の女とする欲望を抱いてしまった中年宇宙飛行士の話。設定が良いが、最後はやはりアシモフのロボット工学三原則に帰着するやや凡庸な終わり方だった。SF作品は哲学とも、情愛とも等距離で成立することをあらためて感じる。文字で読んでみたい映像だが、文章にするとおそらくまわりくどく小難しくなってしまうのだろう。


第18位 ハイライフ ★★★+ 監督:クレール・ドニ
 これも難解で哲学的なSF映画だ。この3本はどれも性愛を扱い、倫理を問い、自分自身と向き合うことを要求する。囚人をのせ、ブラックホールへと向かう宇宙船での出来事。アニアーラ、AIライジング同様に、宇宙船は彼らにとって世界のすべてであり、そこから抜け出すことはできない。その密室において、乗組員は性的な接触を禁じられており、女医だけが神のように君臨している。同じシチュエーションでまったく別の話も書けそうな気もする。今年はブラッド・ピットのアド・アストラや、デイミアン・チャゼルのファースト・マンもあったが、このハリウッド作2本より、ヨーロッパ系のこの3本のほうが、極私的には深い思索に落ちることができた。主演のロバート・パティンソンは、次のバットマンに決まったという。ジュリエット・ビノシュの爬虫類のような背中が妙に印象的に一本だ。


第17位 アリータ:バトル・エンジェル ★★★+ 監督:ロバート・ロドリゲス
 この映画も興行的にも、批評家的にもうまくいったとは言えない(ただし世界興行収益としては中国であたったようで悪い成績ではない)。ジェームズ・キャメロン他脚本、ロバート・ロドリゲス監督作品で映画館に足を運ばないわけがない。不自然で多すぎるアリータの目が気味悪いせいだとか、原作を活かしきれなかったキャラ設定のせいだとかいろいろ言われるが、単純にロドリゲス向きではなかったのかもしれない。木城ゆきとによる原作「銃夢」びファンが多いようで、日本の原作ファンにはあまり評判が良くないようだ。原作は読んでいないが、ロドリゲスファンの僕としては、展開やキャラ設定は面白いが、やや物足らない感じだ。アバター続編を前に今年のキャメロン印は二発とも不発だったが、アバター不発、というのはなんとしても避けたいところだ。


第16位 世界の涯ての鼓動 ★★★+ 監督:ヴィム・ヴェンダース
 久しぶりのヴィム・ヴェンダースの長編のような気がする。いくつか撮ってはいるようだが、個人的には2000年のミリオンダラー・ホテル以来19年ぶりのヴェンダースだ。とはいえ、この映画は映像的な隙間の多いかつてのヴェンダースのスタイルで撮られてはいない。良い意味でも悪い意味でもハリウッド的な、ストーリーを語る意志を直接的に感じる作品だ。それでいて、ストーリーが進むのが遅いので、全体の印象はぎこちないものだが、美しい画面のなかで、アリシア・ヴィキャンデル(この映画のアリシアはなんと美しいのだろう)とジェームズ・マカヴォイのふたりが戯れる絵は、今年観た映画のなかでも強く印象に残るものだった。


第15位 ハウス・ジャック・ビルト ★★★+ 監督:ラース・フォン・トリアー
 こちらも寡作ながら公開すればトップ10常連のラース・フォン・トリアー監督の新作。シリアル・キラーを題材にしたこの映画を観終わって最初に思ったのは、この映画は語られるべきものなのだろうか、ということだ。言い換えれば、トリアーは何をいいたいのだろう、とトリアー贔屓の僕でもそう思う。前作ニンフォマニアックも、冷静に考えれば同様に「これは語られるべきなのだろうか」と思えるものだ。映画のなかの出来事にことさら倫理を訴えるつもりもないが、さすがに罪のないこどもが撃ち殺されるシーンには辟易した。「人はだれでもシリアル・キラーになれる。もしこの映画にメッセージがあるとすれば、そういうことになるだろうな」とトリアー自身が語っているのだから、もうどうしようもない。生理的に受け入れるか、受け入れられないかを迫る映画なのだろう。観終わったあと、ボウイのフェイムが頭の中でグルグル回っていた。


第14位 ドクター・スリープ ★★★+ 監督:マイク・フラナガン
 スティーブン・キング原作、スタンリー・キューブリック監督の映画「シャイニング」が公開されたのが1980年。それから29年を経て出来上がった続編「ドクター・スリープ」は、ターミネーター:ニューフェイトと同様に興行的にも、批評家的にも失敗と言われるが、極私的には観ている間楽しかった映画だ。楽しいというのは変な言い方だ(実際に野球少年が殺されるシーンは辛かった)が、前作に創造性を巡って対立したというキングとキューブリックの作品感を仲裁しつつ、そのいずれにも愛情を感じさせる映画となっている。オーバールックホテルへ向かう車を俯瞰で撮るショット、双子のショットなど、ただそれが出るだけで嬉しくなった。続編としては、当初想定していた続編でないことはよくわかる展開だったが、おそらくは特殊能力シャイニングをもっと探求したいと思ったときに、シャイニングを食って生きる種族を思いつき、物語をドライブさせたのだろう。


第13位 運び屋 ★★★+ 監督:クリント・イーストウッド
 いったいクリンスト・イーストウッドの創作意欲はどこまで続くのだろう。88歳にしてリリースされたこの監督・主演作は、このところの数作品に共通した肩の力の抜けた作品だ。まるでアメリカン・スナイパーで消耗した魂を、自ら静かに癒している。淡々と撮り続けるこの姿勢は、まるで習慣的に行きつけのカフェに通う日常を切り取っているかのようだ。2020年初頭にも、また監督作が公開される。映画的快楽がそれほど期待できなくとも、また映画館に足を運ぶことになるだろう。


第12位 バードボックス ★★★+ 監督:スサンネ・ビア 
 年末になると、NETFLIXは加入攻勢を強めてくるようで、年末に話題作をぶつけてくる。去年は12月にこの映画が配信され、ローマと合わせてみるために再加入した(観そびれていたコーエン兄弟のバスターのバラードも観た。年間トップ5に入るくらいに素晴らしかった)。見てしまうと、恍惚の表情を浮かべながら自殺してしまうという奇妙な病気が蔓延する設定は、一歩引いて考えれば荒唐無稽に思えるが、冒頭の川下りの逃亡シーンから引き込まれると、妙なリアリティがある。エンディングは予定調和だが、サスペンスフルで母親の強い愛が物語のドライブになる、終末映画ならではの現実感と虚無感のバランスがとてもいい。


第11位 ザ・プレイス 運命の交差点 ★★★+ 監督:パオロ・ジェノヴェーゼ
 戯曲的な映画だ。イタリアン人監督パオロ・ジェノヴェーゼの作品(この映画が良かったので、前作「大人の事情」も観た)。カフェの奥に座る預言者のような男。彼の元に問題を抱えた男女が多数やってくる。預言者はその悩みの解決(あるいは欲望の実現)に、なにか倫理的ではない行動や、無関係の他者の死などの犠牲を求める。それが登場人物感でぐるぐるまわり、結局は辻褄があって、いろいろな問題が解決する。俯瞰すれば、最初からパズルを組み合わせるだけの脚本だが、少しずつ小出しにしたり、伏線をはったり、緻密に計算された数学的な脚本の勝利といえるだろう。


 年が明けて、いよいよ明日はトップ10の発表を。  
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Posted by 仲村オルタ at 14:00

2019年12月30日

2019年極私的映画ベスト20 その1(圏外)

 今年一年は偶然のユーチューバーデビューをしたために、ブログ更新はほとんど出来なかった。この記事も3月以来となるのだが、来年はユーチューバー事業だけでなく、ブログ事業も起こそうかどうか思案中。昨年同様に年末駆け込みでみたDVDや配信動画を含め、60本以上の映画を観ている。そこで、本来はトップ20に入りそうな作品や、極私的評価はあまり高くないが一言いいたいもの、などをまず「語られるべき圏外作」として紹介する。
 対象作品は、原則、劇場公開が2018年12月1日から2019年11月30日までの公開映画だが、2019年11月27日よりNETFLIXにて配信開始したマーティン・スコセッシ監督「アイリッシュマン」は、配信開始が30日ギリギリかつ筆者の住む沖縄での劇場公開が12月下旬であったことも考慮して、2020年枠にいれることとした。

語られるべき作品(以下掲載順は順位ではない)

◆アベンジャーズ エンド・ゲーム ★★★ 
 アベンジャーズの最終章は、世界最高収益をあげているという。一方で、自作の宣伝かもしれないが、マーティン・スコセッシはあんなもの映画ではなく、テーマパークだ、という。スコセッシの言わんとしたいこともわからなくもないが、この映画のラスト近くの総決戦で、キャプテン・アメリカが「アベンジャーズ、アッセンブル」と叫ぶ場面は爽快だった。この映画といい、スパイダーバースといい、多元宇宙を描くものがこのところはブーム?のようだが、タイムパラドックスに慣れた僕としては、なんだかすっきりしない。


◆IT チャプター2 ★★★
 ITチャプター1は、冒頭のシーン(主人公ビルの幼い弟ジョージーがペニーワイズに殺されるシーン)を見ることができずに、飛行機の中でその先に進むことが出来なかったのだが、昨秋のチャプター2公開前にその場面を克服し、先に進むことが出来たので、無事このチャプター2は映画館(IMAX)で見ることが出来た。90年頃にテレビ映画で製作されたITでは、ITは人々が抱く恐怖の象徴から「ある姿」に具現化されるのが少し残念だったのだが、この新しいITではどうなるのかを見届けたかった。結論的には、今回の新しいITのほうが好感が持てた。IMAXで観ると、闇に深みがあり、音も迫力があってよかった。沖縄にIMAX映画館ができてほんとうに良かった。


◆グリーンブック ★★★
 アカデミー賞作品賞受賞。悪くはないが、設定といいエンディングといい予定調和で驚きがない。アカデミー賞はたいていこちら側にいるが、ときどきあちら側にふれる時がありそういうときは好みが一致する。そう、シェイプ・オブ・ウォーターや、アメリカン・スナイパーのように。


◆ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド ★★★
 出た、タランティーノお得意のラスト数分を語りたいための映画が。この映画の場合、全体が160分ある映画のうち、言いたいことが描かれるのはラスト13分あまり。シャロン・テート事件をなかったことにしたいだけの映画だ。ここまでの150分は一体なんだったんだと言いたいが、過剰なまでに饒舌で飽きさせないタランティーノ節は健在。極私的には、同じ手法であれば「デス・プルーフ」のほうが好みだ。もう一度ストーリーを書いてほしいが、そんなことにはもう興味もないのだろう。あと1本撮ったら劇場映画引退となるらしいが、NETFLIXならどうなるのだろう?


◆スパイダーマン スパイダーヴァース ★★★
 もしかしたら、並行宇宙論のほうがいまは主流なのかもしれない。スパイダーマン映画最高傑作という評価もわからなくもない。映画の定石である、主人公の成長もある(葛藤はあまりない)。音楽も格好いい。意外な仕掛けもある。ただ、物語に並行宇宙を持ち込んでしまうと、結局なんでもありなんじゃないかと思えて仕方がない。すっきりしないままトップ20入りはならなかった。


◆マーウェン ★★★
 ロバート・ゼメキス監督によるミニチュア模型写真家マーク・ホーガンキャンプの実話に基づく映画。批評家も、興行成績も散々だが、イマジネーションのうちにあるマーウェンの世界と、現実世界の境界を曖昧に描くことで、観ているものも現実と幻想を行き来し、あれこれ思いに耽ることができる。あとはマーク・ホーガンキャンプの写真が素晴らしいので、その印象に引き上げられるということはあるのだろう。


◆アス ★★
 これは好きなほうの映画ではない。監督ジョーダン・ピールはこの映画も、前作「ゲット・アウト」も評価されているが、どうやら相性が悪いらしい。二本続けて相性が悪かったので、次はおそらく(少なくとも映画館では)観ないと思う。



◆半世界 ★★★
 どついたるねん、ビリケンなどザ・ナニワ映画を撮る監督阪本順治が脚本も書いた本作。今回はナニワ色は封印し、三重が舞台となっている。といっても、阪本作品をこれまで意識したこともなく、タイトルに惹かれてシンガポールから戻りの飛行機のなかで鑑賞。監督も写真家小石清氏の同名の写真展タイトルに惹かれ、いつか自分の作品にも使おうと思ったという。この映画はややキャラクター配置が歪で、冒頭は除隊自衛隊が主人公かと思わせ、結局は父と子の物語に帰結する。映画を観て、書き起こし小説も読んだ。文字でレビューしたくなる一本だ。



◆ハンターキラー 潜航せよ ★★★
 潜水艦ものの傑作といえば、レッド・オクトーバーを追え、を思い出す。トム・クランシー原作のジャック・ライアンシリーズ第1弾で、あの頃勢いのあったダイ・ハードのジョン・マクティアナン監督作品だ。アメリカに向かうソ連潜水艦の意図は、攻撃か、亡命か。限られた情報からCIA分析官ジャック・ライアンが推理する、というもの。本作も、敵味方かわからぬやりとりの危うさがサスペンスを生んでいる。ロシアでクーデターが起きたらしいという事態に、アメリカがなんとロシア大統領救出に向かう、というもの。荒唐無稽な設定も、情報戦と心理戦のうちに引き込まれた。ラスト近くで大事(おおごと)になるのは映画的な処理か。原作も読んだが、こちらはニューヨークで株取引操作を行うロシア人がいたりして、より複雑なものだった。



◆マイル22 ★★★
 マーク・ウォールバーグ主演。この映画もハンターキラー同様、批評家的にも興行収入的にもあまり評価が高くない。サスペンスフルな展開や、マーク・ウォールバーグ演じる主人公のキャラ設定も悪くないけどな。特殊部隊が護送する守るべく人物がやたらと強く、特殊部隊と一緒に戦うという設定はさすがに馬鹿馬鹿しくて笑えた。ただプロットの回収という点ではやや物足りない。


◆スノーロワイヤル ★★★
 怒れる爺を演じたらNo.1のリーアム〈クワイ・ガン〉ニーソン主演。なんと自作のハリウッド・リメイクを自分で撮るという前代未聞の仕事をしたノルウェー人ハンス・ペテル・モランド監督作品。なんのひねりもない復讐モノだが、死んだ後にたつ死亡フラグがバカバカしくて面白い。


◆ターミネーター:ニューフェイト ★★
 これもダメダメだった映画。スターウォーズのファンはお約束の展開でも画面を観ているだけでも嬉しいのだが、ターミネーターのファンはお約束の展開で満足するとは思えない。ちょっと主人公を女にしてみました、ちょっとリンダ・ハミルトンを復活させてみました、ちょっと年をとったシュワルツェネッガーを出してみました、だけではウケるはずがない。今年最大のがっかり作品かもしれない。評判の悪い前作(ジェネシス)と前前作(サルベーション)のほうが数倍いい。




  
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Posted by 仲村オルタ at 17:59

2019年03月31日

スパイク・リー復活のフローティング・ドリー・ショット

 ブラック・クランズマンを観た。久しぶりのスパイク・リーだ。邦KKKに潜入捜査した黒人とユダヤ人の刑事コンビの話(クランズマンというのはクランのメンバーということ)。コメディにもシリアスにも振れすぎない絶妙なバランスの良作だった。これまで何作もスパイク・リー作品に出てきたデンゼル・ワシントンの息子ジョン・デヴィッド・ワシントンが主演というのも、なんだか感慨深い。
 1989年のDo the Right Thing(当時32歳)で一躍時の人となるスパイク・リーも、もう62歳だ。先日アカデミー賞の授賞式で久しぶりに姿を観たときに、正直言って歳をとったなと思った。「グリーンブック」の作品賞受賞に噛み付いていたことからすると、その徹底した姿勢は健在だ。グリーンブックは確かに白人にとって耳触りの良い美談かもしれないが、常に差別される側からの視点で映画を取り続けたスパイク・リーが許せないのも理解できる。
 ただ、極私的にスパイク・リーのベストをあげろと言われれば、僕は「モ・ベター・ブルース」と「インサイド・マン」の二本を上げる。いずれも、いわゆる差別される黒人という視点を前面に出している作品ではない。しかし随所にスパイク・リーのこだわりと作家性は感じられる。言いたいことを正面に出さず、破滅型ラブストーリーやクリミナルサスペンスでもスパイク・リーを感じさせる。それが良いのだろう。



 今回 Black K Klansmanを観ていて、一番うれしかったのは、スパイク・リーしか取らない登場人物が歩いているのに、なぜか台車に乗って(いると思われるほど)滑らかに平行移動する、いわゆるフローティング・ドリー(あるいはダブルドリー)・ショットのシーンだ。スパイク・リーの映画をすべて観ているわけではないが、すべての映画で必ず使っているはずだ。少なくともDo The Right Thing以降30年あまり続けている。大抵は物語のエモーションがピークに達するときであったり、どうしてここでというところで登場するのだが、本作では映画終盤にそれは訪れる。ネタバレになるので詳細は書けないが、ファンタジーとリアルの境目にあらわれる神のお告げのようなインパクトだった。このシーンを境目に、映画はファンタジーとリアルの狭間でメタ的に昇華する。この実話をもとにした(とされる)ファンタジーが何を言いたい映画なのかをはっきりと提示するのだ。
 スパイク・リーのフローティング・ドリーショットばかり集めたショートフィルム?がネットに公開されていたのでリンクを貼っておく。


  
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Posted by 仲村オルタ at 14:43

2019年03月05日

移動都市~モータルエンジン

 昨年末の反動からか、年が明けてから映画を見るペースが極端に落ちた。いくつか期待以上で、いくつか期待に及ばず。年末にNetFlixでみたアルフォンソ・キュアロンの「Roma」や、ブラッドリー・クーパーの「スター誕生」は極私的にとてもよかったのだが、デミアン・チャゼル新作「ファースト・マン」やロドリゲス&キャメロンの「アリータ」は期待に及ばず。
 そんななか、あまり期待もせず(わざわざ映画館に足を運ぶのだから期待はしているが、また外れるかもなという予感があった)、ピーター・ジャクソン製作・脚本の「移動都市モータル・エンジン」は予想外によかった。ジブリ的、スティーム・パンク版スターウォーズとか言われるのもよくわかるが、おそらくはこの世界設定が極私的にフィットするのだろう。



 都市が都市を捕食する? 最終戦争(10分戦争)のあと、なぜ移動する都市が現れたかよく考えると変な気もするのだが、スティームパンクな世界における、移動都市主義者vs.反移動都市主義者の争いの構図に、娘による母親の復讐譚、主人公ヘスターと彼女に惹かれるトムの恋愛の行方、悪役についてのseek&findeを織り込み、王道な物語展開をみせる。
 なにより、ストーカー〈復活者〉=人造人間シュライクのキャラクターがいい。このキャラクターが活躍しはじめて、物語が3つ巴(正確に言うと三つ巴にはなっていないからや構造になり、俄然面白くなった。シュライクの悲しい過去と、主人公ヘスターへの執着の理由と結末をみて、なんだかよくわからないが泣けてきた。シュライクの神経は鋼でつくられ、かつて人間であった記憶や感情は残っていないはずだが、なぜヘスターに執着したのか、ヘスターをなぜ解放したかを思い、シンパシーを感じたのだろう。シュライクだけの物語でも十分成立する。シュライクのアジトにある不気味な人形やお面などもいい。この映画はシュライクで成功したのだ。
 物語とこの世界観が気に入ったので、原作を読んでみることにした。4作のシリーズになっているようだ。映画の続編は作られるかどうかは怪しい?が、小説版でシュライクがどんな活躍をするかとても楽しみだ。「二つの塔」「竜に奪われた国」のような重厚さはないが、極私的にはツボな一作だった。
  
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Posted by 仲村オルタ at 18:00

2018年12月31日

2018年極私的映画ベスト20 その2(10位から1位)

 昨日に続き、2018年の極私的映画ランキング。今日はトップ10の紹介だ。

特別枠3 アンセイン ~狂気の真実~ Directed by Steven Soderberg
 ソダーバーグの復帰第2作も、昨年と同様に特別枠に。全編をiPhoneカメラで撮影した意欲作で、そう聞くとさすがソダーバーグだなとも思うが、やはり随所でパンがやや不自然に映る。映画のなかでカメラの存在に気づくと、それがよい場合と悪い場合にわかれるが、これは後者だろう。気楽に撮っているのだろうが、本気のソダーバーグもまた見てみたい。


特別枠4 ファントム・スレッド Directed by Paul Thomas Anderson
 PTAことポール・トーマス・アンダーソンの新作は、不思議な恋の物語。「幻の糸」とはダニエル・デイ=ルイスがドレスに縫い込む糸か、あるいは男と女が互いを支配する糸か。この異常な愛のバランスは、多かれ少なかれ、我々の日常に潜む闘いでもある。映画館で見なかったせいか、集中力が続かず、ランクインはしなかった。ダニエル・デイ=ルイスの引退作ということだ。存在の耐えられない軽さから、はや30年。彼もそうだが、自分も年をとったなあ、としみじみ思う。

 
第10位 ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書 ★★★+ Directed by Steven Spielberg
 トム・ハンクスとメリル・ストリープという計算できる名優を使ったことで、50日あまりの驚くほどの早撮りで仕上げたスピルバーグの新作。トランプ政権がはじまったことで、今作るべき、今語るべき映画として、「レディ・プレイヤーワン」のポストプロダクションの合間に作った。完成形をイメージできる経験と才能に、改めてスピルバーグの凄さを思い知った。ウォーターゲート事件の前の物語なので、ウォーターゲート事件のディープスロートを描いたリーアム・ニーソン主演の「ザ・シークレットマン」と、ウォーターゲートそのものを描いた「大統領の陰謀」も続けて見た。アメリカという国は危ういところで民主主義のバランスが取れているのだろうなと思う。もう一本のSF「レディ・プレイヤーワン」はそれほど感情移入できず。エンターテイメントを作るには、いろいろ経験しすぎているということだろうか。


第9位 リメンバー・ミー ★★★+
Directed by Lee Unkrich
 極私的にたぶん子を持つ父親だから涙した映画。家族でDVDにて鑑賞。家族の絆をテーマにしながら、サスペンスやドンデン返しもあるseek&findの物語。「死者に対して生者ができることは、忘れぬこと。思い続けること」ということを、改めて思い起こさせる。メキシコの原色溢れる色彩も素晴らしい。邦題もストレートにテーマを象徴するもので悪くないが、原題のCOCOというシンプルをなタイトルもじわじわきて良い。


第8位 ミッション・インポッシブル フォールアウト ★★★+
Directed by Christopher McQuarrie
 エンターテイメント映画としても、前作に続きかなり楽しめるものだったが、この映画がほぼ脚本なしに撮られたものと聞いて、驚いた。プロットもなく作れば、支離滅裂になるか、不安定になるものだが、エンターテイメント映画としてきちんと成立している。いつもながらのイーサン・ハントの捨て身のアクションもあれば、時限サスペンスもある。見せ場をいくつか配置し、ただそれを繋げたようには思えぬ緊迫感がある。また前作に続き出演したレベッカ・ファーガソンのキャラクターが実にいい。


第7位 ヴァレリアン 千の惑星の救世主 ★★★1/2-
Directed by Luc Bessn
 リュック・ベッソンによるフレンチコミックの映画化。主人公の男女のイメージがしっくりこない、主人公が魅力的でないなど批評家的にも散々で、また興行的にも物足らないのだろうが、リュック・ベッソンのこの物語に対する愛情が強く感じられて、極私的には同様に失敗作と言われる「フィフス・レメント」のような散漫さは感じなかった。何より惑星やキャラクターなどの色彩感覚が素晴らしい。極端な話、美しいミュール星の風景をみるだけでもこの映画の価値はあるように思えるのだ。


第6位 スリー・ビルボード ★★★1/2
Directed by Martin McDonagh
 怒りと許しをテーマにした本作は、脚本と俳優によってもたらされた傑作だ。トップ5に入ってもおかしくないのだが、そうならないのは極私的な趣味趣向の偏向のせいだろう。ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェル、そしてフランシス・マクドーマンドのキャラクターが、見事に初出とエンディングで変化している。物語のお手本のようなプロットと、それを昇華させた俳優陣の演技の勝利だろう。


第5位 ボーダーライン ソルジャーデイ
★★★1/2 Directed by Stefano Sollima
 スリー・ビルボード同様に、脚本の勝利というべき一作。前作ボーダーラインは、今をときめく?「複製された男」「ブレードランナー2049」のドゥニ・ヴィルヌーブ監督作品で、改めてみるとかなりの傑作に思えるが、当時は「複製された男」との作品のテイストの差があまりにもありすぎて、うまく評価できなかったように思う。前作と同様の脚本家テイラー・シェリダンの緊迫感に満ちたプロットが秀逸。前作脇役であるにも関わらず圧倒的な存在感を放ったデル・トロを主役に据えたのも成功している。腹に響くほど低音のBGMも前作に続き印象的だ。


第4位 ボヘミアン・ラプソディ ★★★1/2
Directed by Bryan Singer
 フレディー・マーキュリーの生涯への感慨よりも、バンドとしてのクィーンの創造性と多様性の凄さを思い知った映画。映画的にはやや平坦すぎて、史実を変更することでプロットに起伏をつけるのはいかがなものかという気もするが、ラストのライブエイドのWe Are The Championの圧倒的な熱量でそんな思いも吹き飛んだ。ものすごい数の観客のうねりを見て、物心ついた頃から40年もロックを聴き続け、信じ続けて良かったと思い、涙が零れた。この映画を見て以来、車のなかで9歳の息子がクィーンばかりかけて、大声で歌っている。こうしてロックの遺伝子は引き継がれていくのだろう。


第3位 アナイアレーション ★★★1/2+
Directed by Alex Garland
「エクス・マキナ」で監督デビューしたアレックス・ガーランドの新作は、大人の事情?でNetFlix限定公開となり、迷わずお試し加入。地球上に突如として現れた謎の領域〈シマー〉を調査するため潜入する調査隊が遭遇する、美しくも異様な生物が生息する世界。破滅願望を抱えた隊員が直面する危機は、単なる生命の危機ではなく、常識や倫理や実在を揺るがすほどの恐ろしい危機だ。途中出てくるある特徴をもった〈熊〉や、植物化する人間など、トラウマになりそうな奇妙な生き物が多数登場する。人間の記憶の危うさ、物理的な人間を規定する確からしさを揺さぶる、哲学的SF映画の傑作である。


第2位 スターウォーズ 最後のジェダイ ★★★★ Star Wars Episode8 The Last Jedi Directed by 
 ファンの間でも賛否が割れたという本作だが、極私的には大肯定派。王道過ぎて新しい要素がまったくないエピソード7に比べ、ランディ・ジョンソンの冒険心と作り手として意欲が感じられる。特に、皇帝の間でのファイトシーンの転換が素晴らしい。予定調和を破壊すると同時に、エピソード9のネタの先出しをして、JJに挑戦状を叩きつける。この果敢な挑戦を前に、フォースの拡張解釈議論など霧散してしまうのだ。


第1位 シェイプ・オブ・ウォーター The Shape of Water directed by  ★★★★
 アカデミー賞作品賞本命と言われ、全面的に賛成だったが、同時にこれが取ったら凄いことだなと思ったギレルモ・デル・トロの快作。昨年のムーンライトへの反動に思えるのだが、衝撃は「羊たちの沈黙」以来かもしれない。異形への愛に満ちたこの映画は、個人的に胸に刺さるものだ。2018年極私的ナンバー1を友人てふPに捧ぐ。


 ということで、今年も上位はSF映画が独占することとなった。自作は遅々として進まずだが、年末に駆け込みで多くの映画をみたことで、また違うアイデアが浮かんできたりしている。アウトプットしないのは楽だが、辛いものだ。  
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Posted by 仲村オルタ at 10:00

2018年12月30日

2018年極私的映画ベスト20その1(20位から11位)

 今年は年末駆け込みでみたDVDを含め、実に53本もの映画を見た。週1で見ていると思うとかなりの数だ。
 昨年と同様に20本+特別枠4本を選んだ。例によって、このランキングは極私的なものであって、映画の価値を測るものではない。世間では駄作と言われていても、どうしても見逃せない映画もあれば、世間で傑作とされているものを恥ずかしげもなく素晴らしいというものもある。映画は個人の記憶と直結した私的な体験である、と改めて思う。
 劇場公開が2017年12月1日から2018年11月30日までの公開映画より選出している。

特別枠1 デヴィッド・リンチ アート・ライフ
Directed by Jon Nguyen,Olivia Neergaard-Holm,Rick Barnes
 極私的監督買い監督のキングに位置するデヴィッド・リンチの(初期の)創作の秘密に迫るドキュメンタリー。というより、リンチのインタビューにあわせ、関連する映像をパッチワークしたシンプルな構図ながら、つい話に引き込まれて見てしまう映画だった。こうした鬼才が世に見出されるには、才能や必然という要素と同じくらい偶然が重要なのだと改めて思う。一方で、あれだけ実験的でシュールな映像を創っていたリンチが、商業映画を経て、インランド・エンパイアに至った経緯も追認できて、個人的には楽しめた。


特別枠2 岡本太郎の沖縄
Directed by 葛山 喜久
 一方でアートというより人生の(勝手)師匠のひとりである太郎さんのドキュメンタリーについては、太郎さんは素晴らしいのに、ドキュメンタリーとしてはグダグダで抑揚も主張もない映画だったということで、楽しむことができなかった。ドキュメンタリーは個人的なメモではない。今年公開されたもう一本のドキュメンタリー「太陽の塔」は沖縄での公開が間に合わなかった。


第20位 ジュラシック・ワールド 炎の王国 ★★★
Directed by J.A.Bayona
 ジュラシック・ワールド3部作の2作目にあたる本作は、映画としての評価は悪くはない。むしろ前作よりも好意的なレビューも多く見られる。この映画は前半と後半がまったく違う映画と思えるような不思議な構図で、前半は多くのジュラシック・パークファンが望むようなスペクタクルな展開で、後半は一転、恐竜映画ではまさかの屋敷を部隊にした密室サスペンスになる。そして、最後に重すぎる問題を軽やかに?放ち、次作につなげるという、やや身勝手な終わり方で幕を閉じる。その重さゆえに、哲学的に評価することもわからなくはないが、個人的には前作のスペクタクルな展開のほうが好みだ。


第19位 マザー! ★★★
Directed by Darren Aronofsky
 ジェニファー・ローレンス主演、ダーレン・アロノフスキー監督ながら、日本未公開DVDのみリリースとなった本作。宗教的な寓話として見るか、不条理スリラーとして見るか、いずれのスタイルをとるかだろうが、いずれのスタイルについても我々にはこの映画の真の価値を理解するだけの経験と知識がないのだろうと思う。映画はまったく異なるのだが、韓国映画「コクソン」と同じ種類の鑑賞後感を残す。胃のなかに重い石を放り込まれたような気分だ。が、テイストは嫌いではない。


第18位 アベンジャーズ インフィニティ・ウォー ★★★
Directed by Russo Brothers
 Marvelヒーロー総動員のアベンジャーズ3作目は、Marvelのなかでも格段に面白かったウィンター・ソルジャー、シビル・ウォーの監督ルッソ兄弟を抜擢して、総仕上げ感満載の映画となった。これまでのシリーズのなかでは、最も宙ぶらり感がある。ただ、次回作エンドゲームでラストに提示された最大のピンチを解決しなければ、ほかの映画シリーズもまた再開しないことを考えると、次作は自ずと予定調和となることが想定されるが、おそらくはそれを所与として、映画的カタルシスを創るのだろう。次作もルッソ監督なので期待できる。


第17位 ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー ★★★
Directed by Ron Howard,Phil Lord&Chris Miller
 最後のジェダイのあと、わずか半年で公開された本作は、世間のスターウォーズ疲れや、製作途中での監督交代などいろいろな要因もあって、エンターテイメントとしてはまぁまぁだが、スター・ウォーズとしてはどうなんだろうと疑問のわく一作だった。チューバッカとの出会い、親であり師匠であるベケット=ウッディ・ハレルソンやファムファタールであるキーラとの駆け引き、ミレニアム・ファルコン号をめぐるランドとハンの関係、そして最大の見せ場である「あのキャラクター」の復活など魅力は多いのだが、映画としてはスター・ウォーズ的な横綱勝負をしているわけではなく、詰め込み感と余裕のなさが感じられる。マジックがなかったことが最大の敗因か。


第16位 ワンダー 君は太陽 ★★★
Directed by Stephen Chbosky
 病気のために顔が変形してしまった少年オギーの成長と、周囲の変化をめぐる物語。オギーを包み込むような母親、父親、姉の深い愛情が胸を打つ。批判的なレビューが言うところの押しつけ感はあまり感じなかったが、淡々としたタッチゆえに、押し迫る感じも少ない。登場人物で章立てするスタイルは好感が持てた。「心はこれからどこに向かうかを示す地図で、顔は今まで私たちがどんな道を歩んでくれたかを示している地図」という母親の台詞など、名台詞もいくつかあった。


第15位 プーと大人になった僕 ★★★
Directed by Marc Forster
(つまらない)大人になったクリストファー・ロビンとくまのプーさんの再会の物語。こちらも、プーの台詞が胸を打つ。
プー「今日ってなんの日?」
ロビン「今日は“今日”だよ。」
プー「“今日”か…僕の大好きな日だ。昨日、今日がまだ明日だったとき、今日は手が届かないものだと思ってたんだ」
プーの素直でひたむきな姿がただ胸を打つ大人の寓話だ。


第14位 ハナレイ・ベイ ★★★
Directed by 松永大司
 村上春樹の短編集「東京奇譚集」に含まれる短編の映画化だ。喪失と再生の物語だ。村上春樹の小説は、行間でイメージを想起させるもので、小説の時点ですでに映像的にも完成されているため、映画化はうまくいったものが少ない(かあるいはない)。本作はもとが短編ゆえに、うまくイメージを膨らませ、比較的成功しているのだろうと思う。主演の吉田羊がいい。日本映画では、ほかに話題となった「カメラを止めるな」があるが、個人的には創作意欲をそそられるまでには至らなかった。


第13位 search/サーチ ★★★
Directed by Aneesh Chaganty
 インド系アメリカ人チャガンティの長編デビュー作。サスペンス映画なのだが、すべてのシーンはPCやスマホやテレビの画面のなかだけで進行する。かといって、アイデア勝負の作り手エゴ剥き出しの映画にはなっていない。きちんとしたプロットのあるミステリーとなっている。映画のテンションもエンディングまで維持され、作り手のアイデアと意欲の勝利となっている。


第12位 サバービコン ★★★
Directed by George Clooney
 コーエン兄弟脚本、ジョージ・クルーニー監督の本作は、テイストとしてはいつものオフビート感満載で悪くないのだが、映画としては、人種差別問題なのか、ミステリーなのか、社会風刺なのか何を言いたいかわからなくなっており、興行的にも大敗した。コーエン兄弟が自ら監督したとしたら、結果は変わっていただろうか。


第11位 アンダー・ザ・シルバーレイク ★★★
Directed by David Robert Mitchell
「イット・フォローズ」に次ぐデヴィッド・ロバート・ミッチェルの新作。テイストは悪くないし、大いに語りたい映画ではあるものの、散りばめられた謎と暗示と答えが全体としてグリップされていないため、散漫な印象を受ける。この映画を見て感じたのは、やはりデビッド・リンチの凄さだ。リニアな映画の世界に絵画的なノンリニアな世界を持ち込むのは、それほど容易なことではない。


 トップ10は明日に。  
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Posted by 仲村オルタ at 10:00

2018年11月11日

BOHEMIAN Rhapsody

 映画「ボヘミアン・ラプソディー」を見た。監督はブライアン・シンガー。好きな監督のひとりだが、この映画の途中で解任されたという(だが、クレジットはブライアン・シンガーだ)。映画はどこか大味な感じがしたが、やはりラストのあの曲では涙した。考えてみれば、映画を見て泣いたのは今年は初めてかもしれない。大味な感じがしたのは、この映画におそらくは葛藤や苦悩がないからだろう。フレディー・マーキュリーの凄さよりも、クイーンというバンドの革新性や創造性を再認識した。
 家に帰って、劇中で再現された本物のクイーンのライブエイド映像を見る。そして、また涙する。
 
 映画は美浜セブンプレックスで見た。劇場限定(美浜のそれもひとつのスクリーンのみ)、期間限定の凄音上映だという。音楽映画ゆえに、爆音で見たい。個人的にはIMAXを断念しても、音にはこだわりたい。それくらい映画にとって音は重要だと思う。
 美浜の凄音上映は、低音は悪くなかったが、高音が同様に出力されていたのか、時折耳にキンキンと響き、あまりチューニングされていないような気がした。そう思うと、立川の爆音上映は良かった。マッドマックスはただ音が大きいだけでなく、適切に響いていたように思う。
 
 とはいえ、これが常設されたなら、美浜で映画を見る機会は確かに増えるだろう。ぜひ常設してほしい。
  
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Posted by 仲村オルタ at 23:24

2018年03月02日

亡き友を思う~シェイプ・オブ・ウォーター レビュー

 ギレルモ・デル・トロの映画を見ると、無性に切なくなる。
 それは4年前に亡くなった友人の記憶と繋がっているからだろう。
 亡くなる少し前に、当時公開していたデル・トロのパシフィック・リムについて話をしていた(いつものように好みはあわなかった)。代表作のひとつであるヘルボーイに出てくるエイブというキャラクターがなんとなく彼に似ているなど。デル・トロの新作であり、最高傑作の呼び声も高い「シェイプ・オブ・ウォーター」を観た。相手に何も求めない、ありのままの自分をさらけ出すことができる、異形への無垢な愛というテーマは、なんとなく(なんとなく、なのだが)友人てふPにつながる。以下ネタバレあり。
 


 僕はデル・トロの熱烈なファンというわけではない。いくつかの映画は観ていて、どれも嫌いではない。傑作ダークファンタジーと呼ばれる「パンズ・ラビリンス」は、その世界観にすんなり入ることができなかったが、悲しく美しい良い映画だと思う。デル・トロの創造した異形中の異形であるペイルマンが代表的だが、彼の創る異形は恐ろしいが、どこか悲しく、切なげで、そしてどこかユーモラスだ。それは「シェイプ・オブ・ウォーター」の魚人にも継承されている。
 パンズ・ラビリンスに比べると、今回の映画はかなり計算されているようだ。意図的な性的な場面の配置、キャラクターを意図的に類型的なキャラクターにする、部分的なミュージカルという技巧などなど。それでも、あまり作り手エゴが剥き出しになった感じはしない。それは「水に形はないように、愛にも形はない」という普遍的なメッセージが、純粋に胸を打つからだろう。ラスト直前の、妄想ミュージカルにはやられた。
 アカデミー賞作品賞をもしこの映画が取ったなら、すごいことだ(監督賞はいけるかもしれない)。普遍的ではないし、どちらかというと境界線の少し向こう側の映画だが、傑作だ。この映画なら、友とも意見が合いそうだ。
  
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Posted by 仲村オルタ at 20:58

2018年01月01日

2017年極私的映画ベスト20 その2(10位から1位)

 映画を観るときは、どうしても創り手視点で見てしまう。ああ上手いなとか、やられたなとか、これは自分でも応用できそうだとか、自分ならこうするのにな、とかいった具合にだ。誰が出ているかではなく、誰が撮っているかで映画を選ぶ。ゆえに、登場人物に感情移入することはあまりない。感情移入するのは、鑑賞中よりも鑑賞後振り返ったときのほうが多いのだが、それでも劇中忘我し、涙が流れることもある。2017年No.1になったのはそんな映画であった。

特別枠2 変魚路 directed by Go Takamine
 沖縄(出身)の巨匠高嶺剛監督の18年ぶりの新作。ただそれだけで特別な作品だが、本作はあまりにも自由奔放すぎて、通常の直線的な理解では映画を理解しきれない。絵画的な鑑賞をしようにも、ヒントが少なすぎる。もはやパラダイスビューとウンタマギルーが奇跡のように思える。文脈も、映画的文法も気にしない。イメージをつなぎあわせ、その表層に浮かぶわずかな手がかりを掬い取ってみなければならない、とさえ思える。落ち着いてDVDで観てみようと思う。個人的には、幸運にもロケに立ち会うことができた思い入れのある映画だ。


特別枠3 ローガン・ラッキー(Rorgan Lucky) directed by Steven Soderberg
 ソダーバーグの引退撤回作は、ただそれだけで喜ぶべきニュースなのだが、この映画は理詰めで作ろうとするソダーバーグが、あまりにも気を抜きすぎたのか、あるいは復帰作で気合を入れすぎたのかわからないが、変魚路とはまた違う自由さに溢れ、映画としては好きなほうだが、全体にしまりが感じられず。あるいは、徹底的にゆるくつくろうとしたのだが、理詰めの監督の方法論が邪魔をしたのだろうか。監督買い筆頭グループのひとりながらランクインならず。特別枠となった。


第10位 ロスト・エモーション(Equals) directed by DRAKE DOREMUS★★★+
 製作自体は2015年だが、日本では今年公開。比較的早くリリースされたDVDにて鑑賞した。今年は良質なSF映画が多かったように思う。この映画のスタイリッシュで近未来的な雰囲気は、全編でロケに使われている安藤忠雄建築によるところが大きいだろう。感情を持つことが悪とされ、禁止された管理社会のロミオとジュリエット。美しく、哀しい映画だった。


第9位 エイリアン・コヴェナント(Alien: Covenant) directed by Ridley Scott★★★+
 御年八十歳となった巨匠サー・リドリー・スコットのエイリアン前日譚の第2作。前作プロメテウスはそこそこヒットいて、この第二作が作られることになったのだが、エイリアンを全面に登場させた本作は、興行的には散々だった模様。あれだけ次どうなんの、的な終わり方をしておいて、本人もあと二本はこの路線で撮りたいと意欲を示していたそうだが、次は少なくとも本人は撮れないかもしれない。ファスベンダー祭りと言われた本作は、第一作のホラー色よりも第二作の対決色に強いものだが、極私的には好感のもてる一作だった。また、監督作のみならず、10位のロスト・エモーションのプロデューサー、上位に出てくるブレードランナー2049のエグゼクティブ・プロデューサーとしてクレジットされているが、どれほど関与しているかわからないのだがトップ10映画三本に絡んでいる。恐るべき創造意欲である。


第8位 ディストピア/パンドラの少女(The Girl with All the Gifts) directed by Colm McCarthy ★★★+
 ゾンビ映画は一つの映画ジャンルとして確立しており、これまで様々なゾンビ映画が作られている。最近ではブラッド・ピットのワールド・ウォー・Zが「走るゾンビ」でサスペンスを生み出し新境地を見出した。既に語り尽くされた感があるジャンルだが、この映画ではゾンビ化した母親から生まれた第二世代を定義して、新しい対立と葛藤を生み出した。その世界観は新鮮で「やられた感」溢れるものだった。この設定でもう何本か撮れそうだと思える舞台設定は、それだけで成功だろう。ただ、ラストがこれでよかったのかな、と思う。徹底的に悲観的にも、あるいはハッピーエンディングであったとしても、別のエンディングのほうがよかった気がするのだが。


第7位 ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー(Rogue One/A Star Wars Story) directed by Gareth Edwards★★★+
 スター・ウォーズのスピンオフ第一弾。やたらとスター・ウォーズ史上最高傑作とのコマーシャルが繰り返されていたが、やはりオープニングクロールのないスター・ウォーズはそれだけでマジックに欠ける。エピソード4のオープニングへ繋がる物語ゆえに、エンディングがわかっていることもマイナス要素かと思われたが、ラスト近くで出てくるダースベーダーの圧倒的存在感に、それは杞憂となる。キャラクターとしては、ジェダイではないのに、自分がジェダイだと信じるチアルートと、元帝国軍ドロイドのK2-SOがよかった。一説には当初完成した映画があまりにも暗すぎて、4割超を別の監督が再撮影したというが、完成版でもトーンはシリアスで暗い。エピソード8と比べるとユーモアが極端に少ない。バトルシーンについても、ウォーカーの登場するスカリフの戦いはもっとスペクタクルが期待されたが、予想よりも地味だった気がする。映画館で見たときはあまりにも地味で、スター・ウォーズ独特の高揚感がほとんど感じられなかったのだが、DVDで再見すると、先に書いたベイダー無双シーンなど見どころもたくさんある。I am with the force,The force is with me.


第6位 ダンケルク(Dunkirk) directed by Christopher Nolan ★★★1/2
クリストファー・ノーランが全体の7割をIMAXカメラで撮影したという戦争映画。幸運にもIMAXにて観ることができてラッキーだった(沖縄には今のところIMAXシアターはない)。プロットよりも、キャラクターよりも、空間的な広がりや空撮の美しさを観るための映画だろう。真のIMAXといわれる次世代IMAXレーザー4k劇場は日本では大阪にしかない。本当はそこで観たかったのだが、それは叶わなかった。ひょっとしたら、大阪エキスポシティIMAXで観ていたらもっと上位だったかもしれないし、通常の映画館で観ていたとしたら、トップ10にも入らなかったかもしれない。それほど、劇場ファシリティに依存する映画だったと思う。


第5位 ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち(Miss Peregrine's Home for Peculiar Children) directed by Tim Burton★★★1/2
 レビューで書いたとおり、この映画はティム・バートン久々の快作であった。テーマと創り手の創造意図がぴたりとはまったときに、このような傑作ができるのだろう。
 年初にみたこの映画はトップ3に入ってもおかしくのない1本だと思ったが、今年はその後何本も傑作に巡り合うことができた。ティム・バートンといえば、次回作は「ダンボ」の実写版らしい。あまりフィットしない予感がする。


第4位 マンチェスター・バイ・ザ・シー(Manchester by the Sea)  directed by Kenneth Lonergan★★★1/2
 この映画は、過去も現在も主観も客観も継ぎ目なく映像化し、多少の混乱を招きながら、ちょうどミッドポイントあたりで明らかになる主人公の過去にあった悲劇の真相ですべてがつながるという、大胆な構成で成功している。ストーリーは悲惨な状況から、決してハッピー・エンディングではなく、監督のいうところの「ベターエンディング」で収束する。とても静かだが、温かみのあるエンディングだ。


第3位 ブレードランナー2049(Blade Runner 2049) directed by Denis Villeneuve ★★★1/2+
 リドリー・スコットの傑作ブレードランナーの続編は、「複製された男」のドゥニ・ヴィルヌーブが監督をして大正解だった。前作が、人間とレプリカントの差について問うていたものが、今回はレプリカントと実態をもたぬソフトウェアの恋愛にふれながら、レプリカントが自らの出自を追いかけるサスペンスを描く。映画の質感を維持しながら、新しい主人公の冒険譚を描く。ラスボス?もまだ健在なので、次回作もあるかもしれない。ハンス・ジマーの音楽もとてもよかった。ドゥニ・ヴィルヌーブはよほどリブートものが好きなのか、デヴィッド・リンチの壮大な失敗作デューンの再映画化が決まったという。これも期待できる。


第2位 パターソン(Paterson) directed by Jim Jarmusch★★★★
 ジム・ジャームッシュのユーモア、アイロニー、オフビート、詩的な美しさの溢れる秀作。主人公が劇中で執筆するオハイオマッチなどの詩は、現代詩人Ron Padgett によるものだが、どれも平易な言葉でイメージの広がる詩作ばかりだ。映像が詩的であり、詩のイメージが映像の美しさをひきたてる。前作オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴも素晴らしかった。昔はイメージを意図的にずらしたり重ねたりして映画を作ろとしていたが、最近は肩の力が抜けて、イメージを意図的にずらしたり重ねたりして物語を描こうとしている。ニューウェイブの旗手ももう64歳。だが、リドリー・スコットまでまだ15年もある。次回作も期待したい。


第1位 ラ・ラ・ランド(La La Land) directed by Damien Sayre Chazelle★★★★
 前作「セッション(Whiplash)」で一躍スターダム監督にのしあがったデイミアン・チャゼルが、アカデミー監督賞をとり、作品賞は幻となった一作。プレゼンターの間違いで一時は受賞かと思われたが、作品賞は結局「ムーンライト」に渡った。個人的にはこの映画のほうが圧勝だった。ミュージカルのフォーマットにのせて、スターダム映画とみせかけ、あまりにせつないラストへ呼び込む。音楽も、映像も美しい。映画ならではの表現方法だと思う。ティーザーと本編が連動してイメージを増幅するやり方も、やりすぎるとあざとくなるのだが、抑えた効果につながっている。監督としては、2015年は2位、そして2017年は1位となった。


 ということで、結果的にはトップ10のうち、5本(ティム・バートンをいれると6本)がSF映画ということで、例年にもまして偏りがある結果となった。個人的にはようやく次回作が始動したところなので、2018年は自作に生きる映画を選んでみることになるのだろう。  
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Posted by 仲村オルタ at 22:28

2017年12月29日

2017年極私的映画ベスト20 その1(20位から11位)

 今年はよく映画をみた。創作の筆は事実上ストップしており、同時に本を読むペースも落ちている。映画を観るのは創作の神様と唯一の交信の手段のような気がする。スマホ画面での分割鑑賞も含めれば、おそらくここ数年では一番見ている。
 今年はあたりの映画が多かったと思う。ゆえに、10本ではなく20本(+特別枠の数本)を選んでみた。このランキングは極私的なもので、映画の質を客観的に示したものではない。ただ、やはり自分が創作者の端くれである視点は忘れてはいないだろうと思う。劇場公開が2016年12月から2017年11月までの映画より選出している。

特別枠 マイ・ライフ・ディレクテッド・バイ・ニコラス・ウインディング・レフン(My Life Directed By Nicolas Winding Refn) 監督 リヴ・コーフィックセン

「ドライヴ」で一気に世界的にも有名な監督となったレフン監督が、その次作にあたる「オンリー・ゴッド(Only God Forgive)」を葛藤しながら苦闘しながら異国の地バンコクにて撮影する姿を、妻で女優のリヴ・コーフィックセンが監督・撮影した異色作。ホドロフスキー監督のタロット占いに励まされ?、作るべき作品として「オンリー・ゴッド」に挑むが、思うように撮れず、失敗作だと嘆き苦悩するレフン。カメラをむける妻は、励ますでもなく、私の人生はどうなるのと却ってレフンを追い詰める。挙句のはてに、たかだか10歳そこそこの娘には「たかが映画よ、世界のおわりじゃない」と言われる始末。
 レフン監督は「ドライヴ」を超えるどころか、それに匹敵する映画すらまだ撮るに至っていないと個人的には思う。今年公開された「ネオン・デーモン」も「オンリー・ゴッド」同様に、おそらくは作ろうとした意図と異なった方向に転がってしまったような気がする(そう思うとデヴィッド・リンチは凄いなと改めて思う)。それでも、この記録映画を見たいまは、ずっと見続けたい監督、ずっと応援したい監督となった。創作者は家族のなかでも孤独なのだとつくづく思う。

第20位 ワンダーウーマン(Wonder Woman) directed by Patty Jenkins★★★
 格好いいキャラクターだ。アカデミー女性監督のこのアクション映画はやたらと評判はよいが、プロットや設定がとびぬけて素晴らしいというわけでもないと思う。今年はDCはマーヴル・アベンジャーズ対抗のヒーロー大集結作ジャスティス・リーグを公開したが、こちらは更に空気みたいな一本だった。DC派を卒業しようか。DC好きというわけではなく、ただノーラン版ダークナイトが好きなだけではないか。そう思った。


第19位 マリアンヌ(Allied) directed by Robert Zemeckis)★★★
 ジャスティス・リーグと異なり強烈な葛藤をプロットの主軸にすえた快作。ワンダー・ウーマンを演じるガル・ガドットは美しくセクシーでしかも格好いいが、この映画でマリアンヌを演じるマリオン・コティヤールは、その大きな瞳でみつめられるとなんだか古傷をつつかれるような気になる。古典的なプロットの葛藤映画を熟練の技でまとめた。


第18位 ゴースト・イン・ザ・シェル(Ghost in the Shell) directed by Rupert Sanders★★★
 攻殻機動隊のハリウッド実写版。評判はあまりよくないようだが、確かにこの映画だけを観ただけではさっぱりなのかもしれない。押井版のアニメと宗方版原作の要素が全編に散りばめられているので、その差分でイメージを補いながら見ているということだろう。改めて押井版の攻殻機動隊とイノセンスは素晴らしいと思えた。


第17位 アトミック・ブロンド(Atmic Blonde)  directed by David Leitch★★★
 ここまでアクトレス優位の映画が続いた。この映画のシャーリーズ・セロンと、ゴースト・イン・ザ・シェルのスカーレット・ヨハンソンはひょっとしたら交換しても演じられたかもしれない。この映画はプロットと作り手のこだわりに差があった。羅生門のように回想として話はすすむ。しかし、それは正確な回想ではない。しかも主人公以外の視点もある。文法的におかしい気もするが、それについて矛盾は感じないのは、主人公の想像の映像化であることもありうるからだろう。映像、回想はそのひとの主観的なもので、必ずしも真実ではない。失敗すれば、映画は破綻するが、この映画は無事成立している。


第16位 ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー・リミックス(Guardians of the Galaxy Vol. 2) directed by James Gunn★★★
 前作は実はMarvel隠れた最高傑作と言われていたが、たしかに面白かった。息子に見せたら、息子も気に入ったようで、「ジュラシック・ワールド」「スター・ウォーズ」に次ぐ映画館鑑賞作となる。今回は親父泣かせの映画だった。話は無茶苦茶だが、今年映画館で泣いた映画はこの映画ともう一本くらいしかない。


第15位 ブランカとギター弾き(BLANKA) directed by 長谷井宏紀★★★
 イタリア製作、日本人監督によるフィリピンを舞台にした短編?映画(75分)__マニラのスラムに暮らす孤児のブランカは、母親を金で買うことを思いつき、盲目のギター弾きピーターと旅に出る。ピーターから得意な歌でお金を稼ぐことを教わったブランカは、レストランで歌う仕事を得てお金を稼ぎ、計画は順調に進んでいるかに思えた。しかし、そんな彼女の身に思いもよらぬ危険が迫っていた__というもの。個人的には、桜坂劇場復帰の年に観た何本かの一本で、チラシを手に取るまでそんな映画の存在自体も知らなかったのだが、観てよかった映画だ。東京にいたら、観ることがなかったかもしれない。悲惨な状況のなかで悲惨さを感じさせないひたむきさが映画全編を貫く。


第14位 ドント・ブリーズ(Don't Breathe) directed by Fede Alvarez★★★
 ヒットの仕方と作品のテイストから、去年のIt followsと比較される本作。盲目の老人宅に盗みにはいった若者が思わぬ逆襲に会い、息を潜めて逃げまくる映画だ。盲目の老人はまったく悪くないが、「逃げろ」と感情移入するのは盗みに入った若者たちのほうという、逆転構造がよいのだろう。ただ、It followsのようなスタイリッシュさはなかった。もう一本、似たような公開のされ方の映画に、Get Outがあるのだが、こちらは個人的にはまったく響かなかった。設定にリアリティが感じられなかったこと、ゆえに怖くなかったことがあるのだろう。


第13位 虐殺器官 directed by 村瀬修功★★★
 原作は伊藤計劃の代表作であり、極私的には日本SF小説史上最高傑作といえる小説。正直なところ、原作のほうが数倍良いのだが映画としても及第点だろう。小説では現実にありそうなSF兵器が多数でてくるが、そのガジェットの楽しさがあまり映画には出ていないのは残念だ。公開延期などゴタゴタしていたが、無事公開できてよかった。ハリウッドあたりで実写映画化されるとよいのだが。虐殺を引き起こす言語、という発想はあらためて素晴らしい。


第12位 アンダーワールド ブラッド・ウォーズ (Underworld: Blood Wars) directed by Anna Foerster  ★★★+
 ハリウッド大作というわけでもなく、どちらかというとB級路線で、それでも粘り強く続いているアンダーワールドシリーズの第5作。ヴァンパイア族とライカン(狼男)族の闘いに、ハイブリッド、お互いの内部抗争と裏切りが絡み、誰が味方なのか敵なのかわからないなかで物語が続く。実は結構好きなシリーズでもある。何がよいかと言えば、この構造に創り手的に惹かれているのだと思う。が、あまりにもマイナー過ぎるのか、東京にいてこの映画の公開に気づかず、結局DVDで観た。ケイト・ベッキンゼールはこのシリーズ以外で観たことがないが、闘う女のキャラクター設定はどれもよく似ているなと思ったりもする。


第11位 T2 トレインスポッティング(T2 Trainspotting) directed by Danny Boyle)★★★+
20年ぶりのトレインスポッティングの続編。舞台設定も前回の二十年後だ。カネを持ち逃げしたマーク・レントンが故郷エジンバラに帰ってくる。演じるのはユアン・マクレガーなのだが、年をとったなとつくづく思う。劇中の人物も、演じる役者も、見ている我々も等しく年をとっている。なんだかそれだけで切なくなる。二十年間何をしてきたのだろうと振り返るのは、マーク・レントンだけじゃない。同窓会的で散漫かと予想したが、以外にもきちんとまとまっていた。ジャンキーでどうしようもなく子供とも離れ離れになってしまったスパッドが、文学的才能に目覚め、自伝的小説を執筆する。物語のなかでその展開だけが唯一の救いだ。


トップ10は次回に。
  
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Posted by 仲村オルタ at 13:45

2017年12月21日

レビュー スター・ウォーズ 最後のジェダイ(ネタバレあり注意)

 筋金入りのスター・ウォーズファンを定義するとしたら、どんなだろう?
 10代の最も多感な頃にエピソード4をみてときめいた経験をもつ(僕もぎりぎり10歳だった)、シリーズのなかで最高傑作を訊かれると迷わず「帝国の逆襲」と答える、オープニングクロールを観るときはもちろん想像するだけで鳥肌が立つ、 スクリーン一杯にミレニアム・ファルコンが駆け巡るだけで嬉しくなる……云々。
 エピソード8 最後のジェダイは、賛否別れるという。批評家の評判は概ねよいが、ファンは激しく反発する人も多いという。なぜだろう。僕は絶賛派だ。エピソード7フォースの覚醒の懐古趣味も嫌いではないが、むしろこのチャレンジングなエピソード8を評価する。劇中カイロ・レンが言うように、過去と決別し今の自分を肯定する、という強いメッセージを帯びた意欲作。監督・脚本をつとめたライアン・ジョンソンの勝利である。以下ネタバレあり。
let the past die. Kill it, if you have to. That’s the only way to become what you are meant to be!



 繰り返しになるが、前作「フォースの覚醒」は映画的に褒める要素は殆どないにも関わらず、それでも好きか嫌いかで言えば好きな映画で、2016年(公開は2015年12月)の極私的No.1となった。エピソード4のストーリーをなぞり、戸惑いを生むような要素を排除し、馴染みのフォーマットに身を委ねる。それが至福の喜びであること理解した自らスター・ウォーズファンであるJJエイブラムスが、さあ、これがみんなの好きなスター・ウォーズでしょう、と提示した。エピソード7は制作意図も、プロットも、実質的なリブートだった。
 ではこの最後のジェダイはどうか? それほど監督作があるわけではないライアン・ジョンソンは、シリーズ最高傑作「帝国の逆襲」を強烈に意識しつつ、JJが仕掛けた謎をことごとく肩透かしをくらわせ、すべての伏線や予定調和にあっさりと決着をつけてしまった。ある意味では、エピソード5帝国の逆襲とエピソード6ジェダイの帰還で提示されたプロットラインを、すべて使い切ってしまった。
 この映画で最も美しかったのは、スノークの玉座の間での戦い、スノークをライトセーバーの遠隔操作で葬り去ったあと、レイとカイロ・レンが力を合わせて衛兵と闘う場面だ。「衝撃のスター・ウォーズ」との触れ込みは、このシーンのためにあるのだと思う。エピソード6でダースベーダーとともにルークがパルパティーン=ダース・シディアスを葬り去ったあと、何が起こったか? このシーンはエピソード9のためのシーンではないのか? エピソード6で息子ルークに対して、ダースベーダーが皇帝を倒して共に銀河を支配しようと誘っていたではないか。
 愕然としながらも、興奮して見ていると、その後の展開は更に予定調和を破壊する。光と影は再び袂を分かつ。
 その後、氷の惑星ホスを思い出させる塩の惑星でのバトルで、最後の見せ場がやってくる。カイロ・レンvs.ルーク。嫌味で素直じゃない隠居老人と化したルーク・スカイウォーカーが満を持してライト・セーバーを握るのだ。闘いながら、「反乱軍は今日滅ぶ、戦いは終わる、オマエは最後のジェダイになる」と言い放つかつての弟子に対して、クールに言い放つルークの台詞が素晴らしい。

Amazing. Every word of what you just said was wrong.The Rebellion is reborn today. The war is just beginning. And I will not be the last Jedi.
「素晴らしい。お前が今言った全ての言葉が間違っている。反乱軍は今日再び生まれ変わるんだ。戦いは始まったばかりだ。それに私は最後のジェダイではない」

 タイトル「最後のジェダイ」がこの台詞で複雑な意味をもつ。本作のテーマは過去との決別、そして新しい物語と葛藤のはじまり。それだけで胸が熱くなる。この挑戦をやりきったライアン・ジョンソンはビッグチャンスをつかんだ。
 たとえ、重力のない宇宙で重爆撃がありえないだろうが(実際にはすぐ真下に星を意図的に描いているので、星の重力があると説明できるかもしれない)、フォースでできることがインフレしてようが(さすがにレイアの帰還は笑えたが、どのフォースもこれまでに定義された力の延長にあり、不自然な感じはさほどしなかった)、笑いが多すぎようが(アイロンはどうかと思うが、全体的にはバランスは良かったように思うが)、アベンジャーズっぽくなってようが(そこまで娯楽に徹している感じはしないが)、ルークにマトリックスはやってほしくなかろうが、レジスタンスが無策すぎて都合よく追い込まれていようが、こうした都合のよさはこれまでのスター・ウォーズにもあることであり、エピソード8はテーマと制作スタイルで新しい地平を切り開いている。そもそもオープニングタイトルで我々は魔法にかかる。少なくとも個人的には、その魔法がとけるような映画ではない(批判をする人にとっては、魔法が足らなかったということだろう)。
 さあ、全部使い切ってやったぞ、この先どうする?
 ライアン・ジョンソンの挑戦に、JJエイブラムスはどう答えるのだろうか。クリエイターの創造のバトルに胸が躍る。2年後が今から待ち遠しい。  
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Posted by 仲村オルタ at 18:00

2017年02月05日

ティム・バートン、久々の快作~Miss Peregrine's Home for Peculiar Children

 ティム・バートンはもう20年以上も前から、いわゆる「監督買い」する映画監督のひとりで、好きな作品は数多いのだが、ここのところ極私的にはフィットしない作品が続いていた。おとぎ話とホラーの境界をうろうろする物語(例えば「スリーピー・ホロウ」「シザーハンズ」)は素晴らしいのだが、おとぎ話的要素が強くなりすぎたり(たとえばビッグ・フィッシュ)たとえば、ホラーが強くなりすぎたりする(たとえばスウィーニー・トッド)と好みから外れていく傾向があるようだ。そのうえ世界設定の自由度が低い物語は、明らかに監督のやる気の萎えを感じてしまったりで、最近では未見のものも増え、必ずしも監督買いとはいえなくなっていた。
 新作「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」も、予告編だけを見ていたら、おとぎ話的すぎるのかなという印象だったのだが、先日台湾行きの飛行機のなかで見てみると、これが久々の「境界的」な傑作だった。ダークファンタジーはやはり、ダークになりすぎても、ファンタジーすぎてもバランスが悪い。タイムループを組み込んだ世界設定も、悪役の不気味さも、奇妙な子供のキャラクター(とくに双子)もいい。怖いもの見たさを刺激する物語もよく、久々のティム・バートンワールドの傑作と思えた。

(物語 wikipediaより)
フロリダ州に住むエイブ・ポートマンは、子供の頃にはモンスターと戦い、第二次世界大戦の間中ウェールズにある「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」が暮らす家で過ごしていたことを、孫のジェイクに何年間も話し続けていた。その家の女主人であるアルマ・ペレグリンは「奇妙なこどもたち」を養っていたが、こどもたちはそれぞれが特殊な能力を持っていたという。
その後、16歳となったジェイクは、祖父のエイブから電話を受け、バイト先の薬局の管理者であるシェリーとともに祖父の家に向かうが、そこで両目が失くなった状態のエイブを発見する。エイブは「ケインホルム島へ行き、1943年9月3日のループへ行け。そうすれば鳥が全てを教えてくれる」とジェイクに言い残し、不可解にも亡くなってしまう。シェリーが銃を持ってジェイクに加わると、祖父の話に出てきたモンスターが彼女の後ろに出現する。ジェイクはシェリーに対して後ろを撃つように伝えるが、彼女にはそのモンスターは見えず、そのままモンスターは消えてしまう。
精神科医のゴランからの後押しや、ミス・ペレグリンからエイブの誕生日に送られた手紙の発見で、ジェイクと彼の父であるフランクはケインホルム島へ向かうことにする。しかし2人は、こどもたちの家が1943年9月3日にドイツ空軍の空襲を受けて破壊されていたことを知る。ジェイクは失望して父親とともに泊まっていたパブに戻るが、翌日もう1度行ってみると、森の奥に古めかしい屋敷を発見し、「奇妙な子どもたち」に迎えられるのであった。



(ティム・バートン フィルモグラフィーと極私的評価)
1982年 ヴィンセント Vincent - 監督 未見
1984年 フランケンウィニー Frankenweenie - 監督 未見
1985年 ピーウィーの大冒険 Pee-wee's Big Adventure - 監督 未見
1988年 ビートルジュース Beetlejuice- 監督 ★★★
1989年 バットマン Batman - 監督 ★★★1/2
1990年 シザーハンズ EDWARD SCISSORHANDS - 監督/製作/原案 ★★★★
1992年 バットマン・リターンズ Batman Returns - 監督/製作 ★★★★
1994年 エド・ウッド Ed Wood - 監督/製作 ★★1/2
1996年 マーズ・アタック! Mars Attacks! - 監督/製作 ★★★1/2
1999年 スリーピー・ホロウ Sleepy Hollow - 監督 ★★★★
2001年 PLANET OF THE APES/猿の惑星 Planet of the Apes - 監督 ★★★
2003年 ビッグ・フィッシュ Big Fish - 監督 ★★
2005年 チャーリーとチョコレート工場 Charlie and the Chocolate Factory - 監督 ★★
2005年 ティム・バートンのコープスブライド Corpse Bride - 監督(共同)/製作 未見
2007年 スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師 Sweeney Todd: The Demon Barber of Fleet Street - 監督 ★★
2010年 アリス・イン・ワンダーランド Alice in Wonderland - 監督/製作 未見
2012年 ダーク・シャドウ Dark Shadows - 監督/製作 未見
2012年 フランケンウィニー Frankenweenie - 監督/製作[12] 未見
2014年 ビッグ・アイズ Big Eyes - 監督/製作 ★★
2016年 ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち Miss Peregrine's Home for Peculiar Children - 監督 ★★★1/2  
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Posted by 仲村オルタ at 12:02

2016年12月31日

2016年極私的映画ベスト10

 毎年恒例の極めて私的な尺度で選ぶ映画ベスト10。去年より少ないものの、今年も合計で35本あまりの映画を映画館やDVDで見た。映画をみて、どうのこうのと好き勝手なことを言ったり、まだ見ぬ新しい自作について思いを巡らしたりすることは、とても幸せなことなのだと改めて思う。例年どおり、前年2015年12月から今年2016年11月に公開された映画を対象とする。

特別枠 サイン・オブ・ザ・タイムズ Sign 'O' the Times directed by PRINCE

 2014年にリバイバル公開され、特別枠にランクインしたこの映画だが、今年は突然亡くなったため、二度も映画館で見た。そのうち一度は、立川にて爆音(正確には極音らしい、たぶん爆音にミックスするには音源の仕様が不足しているのだろう)で見た。素晴らしいライブフィルムだ。私の持っているCDは出力レベルが低く、ほかのプリンスの曲と合わせて聴くとまったく満足できないので、出力を上げてmp3にもした。ブルーレイも手に入れた。プリンスをライブで見ることができなくなった今も、ときどき思い出したように個人的にはプリンスブームがやってきて、プリンスばかり聴く日々が続いたりする。プリンスと同時代を生きることが出来て、本当に良かった。
RIP prince,may u live 2 see the dawn.

第10位 シビル・ウォー キャプテン・アメリカ Captain America: Civil War directed by Russo brothers ★★★

 DC派の私だが、上海行きの飛行機内で見たにもかかわらず、この映画は結構楽しめた(アントマンやスパイダーマンが出て来るあたりはやり過ぎ感もあるのだが)。キャプテン・アメリカは1本目は凡庸だが、2作目ウィンター・ソルジャーより、おそらくはアベンジャーズより面白くなる。本作は2作目と同じ監督で、この功績が認められたのか、次回のアベンジャーズの監督にも起用されている。Batman v Supermanは同じ"内戦"ものになるのだが、たぶん監督ザック・スナイダーとの相性が悪いのだろう、バットマン映画の興奮もなく終わった。

第9位 我が背きし者 Our kid of a Traitor directed by Susanna White ★★★

 ジョン・ル・カレ原作のスパイ・サスペンス。いわゆる巻き込まれ型サスペンスの定石を踏みながら、リアリティあるスパイ間の駆け引きをも描く。この映画も厦門行きの飛行機のなかで見た。飛行機のなかというのは、画面は小さいが物語に集中できてよい。読みにくいル・カレの原作を今読んでいる。

第8位 スーサイド・スクワッド suicide squad directed by David Ayer ★★★

 DCからは悪役オールスターズが地球を救うこの映画がランクイン。世間の評判は分かれているようだが、個人的にはザック・スナイダーの映画よりよっぽどいい。画面の派手さというのは、CGでなんとでもなる今、まったく興奮しない。この映画では、ジョーカーのキャラクター配置がとてもよかった。まさにジョーカーだ。ノーラン版のジョーカーが強烈すぎてその次が演じられなかったのだが、この新しいジョーカーも個人的には悪くないと思う。

第7位 シン・ゴジラ Shin-Godzilla directed by 庵野秀明 ★★★

 この映画の成功は、パニックムービーをつくろうとせず、日本マーケットのみに集中し、現実の政治シミュレーションの群像劇に徹したことによるだろう。この映画ももとはと言えば台北行きの飛行機のなかで見たものを、もう一度IMAXで見直してみたのだが、それでもなおその展開に引きつけられた。人物以外オールCGのジャングルブックとは対極にある、稚拙に見えるCGもまたノスタルジーを引き出すための狙い通りなのかもしれない。

第6位 レヴェナント The Revenant directed by Alejandro González Iñárritu ★★★

 もしも昨年のアカデミー賞発表の時点で、「バードマン」のあとにこの「レヴェナント」が出来るとわかっていたら、監督賞はアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥではなく、多くの人々?の期待どおりマッドマックスのジョージ・ミラーが受賞していただろう。奥行きと広がりのある美しい冬の絵に圧倒された(もちろん撮影賞受賞)。実に映画らしい映画であった。

第5位 エクスマキナ  Ex Machina directed by Alex Garland ★★★1/2

 人工知能の恐怖という語り尽くされた感のある使い古されたテーマを、現在のテクノロジーとそれによって規定された日常の延長として、スタイリッシュに、クールな絵で描く。人工知能ロボット・エヴァのキャスティングが極めて重要だが、アリシア・ヴィキャンデルは素晴らしかった。タイトルは、演劇用語である「デウス・エクス・マキナ(劇の内容が錯綜してもつれた糸のように解決困難な局面に陥った時、絶対的な力を持つ存在=神)」からつけられている。この映画の結末を考えると、実に意味深だ。

第4位 イット・フォローズ It follows directed by David Robert Mitchell ★★★1/2

 “それ”はひとにうつすことができる、“それ”はゆっくりと歩いてくる、“それ”に捕まると必ず死ぬ、“それ”はずっとずっと、憑いてくる...極めて恣意的なルールに規定されたこの映画は、極私的にはゲーム小説、ゲーム映画があまり好きでない私にとってはスルーされるものだった。気になったが映画館では見なかったのだが、夏過ぎにDVDで見てやられた、と思った。画面のどこかで、必ず誰かが歩いている。それがitなのかどうかもよくわからない。計算されているものだが、徹底的に作り込んだ美しい構図が物語に必要な要素だとわかる。監督買い候補のひとりとして注目したい。

第3位 湾生回家 directed by 黃銘正 ★★★1/2+

 戦前に台湾で生まれ、日本の敗戦とともに”帰国”した湾生日本人を描いたドキュメンタリー。台湾の景色をみて、ここが私の祖国なのだと涙す年老いた人たちをみて、私も涙する。個人的にも懐かしい花蓮の田舎の風景。台湾に暮らした経験がなければこの映画を見てその涙を理解することはできないだろう。湾生三世の台湾人が、亡き湾生の祖母の日本での足跡を追う物語も配置され、単なる台湾愛に終わらないところも素晴らしい。傑作のドキュメンタリーだ。

第2位 ハドソン川の奇跡 Sully directd by Clint Eastwood ★★★★

 85歳を超えて、意欲的な作品を作り続けるクリント・イーストウッドの傑作。昨年極私的トップ1「アメリカン・スナイパー」に続きトップ3入りである。全編IMAXカメラで撮影されたこの映画をIMAX劇場で見ることができてよかった。事実にもとづいているので、驚きもない。それを前提として、イーストウッドはパイロットSullyのプロフェッショナリズムに焦点を当てた。プロフェッショナルなその姿勢に感動し、涙する。歳のせいか、映画をみて最近は泣くことも以前よりは増えたのだが、この種の涙は初めてだ。10年に1本の傑作を80歳を超えてなお、しかも二年連続で創るイーストウッドの創造力と意志には、ただ感服するばかりだ。

第1位 スター・ウォーズ フォースの覚醒 Star wars:The force awakens directed by J.J. Abrams ★★★★

 客観的に考えれば、この映画が第1位になる理由はあまりない。プロットは、エピソード4あるいはエピソード6の焼き直し。デス・スターの改良版キラースターベースを破壊しにいくのに、時限サスペンスを感じられない。悪役は中二病。この物語に続くエピソード8,9についても、予定調和的なストーリーが容易く思い浮かべられる。
 それにしても、だ。
 画面を縦横無尽にファルコン号が飛ぶだけで、マズカナタの城の麓に広がる湖にXウィングが現れるだけで、タイ・ファイターとドッグファイトするだけで、ただただ嬉しくなる。何度も見たくなる。JJはおそらくは計算してこのようなプロットに、映画に落ち着けたのだろうと思う。今更奇をてらう必要はない。ただスターウォーズの世界に見を投じるだけで、我々は幸せなのだ。こうして考えると、映画が極めて個人的なものだとつくづく思う。エピソード4が初めてのスターウォーズだった私のように、この映画が映画館での初めてのスター・ウォーズだった当時6歳の息子は、おそらく彼の何十年と続く人生においてこの先もスターウォーズに熱狂し続けるのだろう。
  
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Posted by 仲村オルタ at 12:44

2016年09月16日

Marvel vs.DC

★「スーサイド・スクワッド」を観た。最近はMARVELに押されっぱなしのD.C.の久々の快作に思えた。悪党どもが世界を救う話は、MARVELのシネマティック・ユニバース最高傑作と言われる「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」に似た構図となり、音楽の使い方など確かに同じムード漂うものだが、「スーサイド・スクワッド」が快作となったのは、ジョーカーの存在である。スーパーヴィランvs.ヴィランズの闘いの構図のなかで、ジョーカーだけはどちらの味方になることもなく、ただ自分の美学のためだけに行動する。この歪な三つ巴感に、映画的快楽が伴うのだ。ジョーカーを演じたジャレット・レトはとても良かった。ヒース・レジャーやジャック・ニコルソンと比較してどうのこうのという論評もあるが、先代?をリスペクトしながら新たなキャラクターを作ろうとする意気込みを感じた。もちろんそれを支えるのは俳優の演技力である。



★どちらかというと私はDC派だった。それはバットマンがDC所属ということによるところが大きい。クリストファー・ノーランのダークナイトはいまでもおそらく極私的歴代NO.1映画だろうし、遡ればティム・バートン版のバットマンも大のお気に入りだった。要するにバットマンが好きなのだろう。ところが、ノーランも関与する「マン・オブ・スティール」以降のザック・スナイダー版DCワールドの世界観は、個人的にあまり好みではない。闇を抱えたスーパーマンがあまりピンとこないのかもしれない。とにかく派手にズズズズドドーンと世界を破壊するザック・スナイダーの絵作りが好きではないのだ。今年公開の「バットマン v. スーパーマン」も同じだった。バットマンが登場するにもかかわらず、絵的に映画的快楽がないのだ。世界をまもるために世界を破壊してしまうことへの葛藤も、すでにライバルMarvelのアヴェンジャーズでテーマとして採用済みである。



★一方のMarvelだが、劇場で鑑賞したアベンジャーズ2 エイジ・オブ・ウルトロンにも、ザック・スナイダー同様のズズズドドーンを感じて、ただただ幻滅した。アイアンマンも1本目は良かったが、2本目以降はワクワク感が減った。正義の味方の葛藤にはあまりに環境が違いすぎて感情移入できるはずなどない。Marvelについても、少し映画館から遠のいていたのだが、先日飛行機のなかで「キャプテン・アメリカ シビルウォー」をみて、少しまたMarvelのシネマティック・ユニバースへの関心が復活した。この映画におけるキャプテン・アメリカはまさにDC的なダークヒーローである。その前作「ウィンターソルジャー」も、もう少ししたらシネマティック・ユニバースと連携するという「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」も面白かった。まるでDC映画のやりたいところを研究し、先取りしているようにさえ思う。



★そうなのだ。最近このアメコミ二大勢力の映画の根底にあるテーマも、キャラクターの描かれ方も似てきている気がする。つまりそれは、ヒーローであることの意義と犠牲、世界を守る意義と犠牲に対する責任ということだ。DCのほうがややSF寄りのような気もするが、神であるソーが闘うMarvelも十分にSFである。ダークナイト・トリロジーで興行的にも映画の質としてもMarvelを圧倒したと思われたDCだが、正直なところここのところ押されっぱなしだ。ただ前提としては、家族で見ても大丈夫なMarvelと大人むけDCという路線はあると思うのだが、デッドプールが出てきたことでそれも崩れはじめている。

★デッドプールがMarvelのもうひとつの映画世界であるx-menのキャラクターとは知らなかった。日本では、そのことはまったく触れずに、ただのお馬鹿無責任ダークヒーローとして宣伝していたが、映画のなかにはプロフェッサーの「恵まれし子らの学園」も出てくる(が、プロフェッサーは出てこない)。個人的には、映画のキャラクターが観客に話しかけてくる映画は好きではない(映画的マジックが冷めてしまう)ので、この映画はそれほど好きではない。



★X-menといえば、この夏「アポカリプス」が公開された。新旧シリーズ融合の前作「X-Men: Days of Future Past」にくらべれば構造はシンプルで、悪役も最強なのだろうが(なんせ神なのだから)、あまり強くも怖くも感じなかったのがこの映画のすべてであろう。個人的にはとても好きな役者のひとりであるマイケル・ファスベンダー演じるマグニートの悲劇にもっとフォーカスすればよかったのにと思う。前作でx-menシリーズへのまさかの復活を果たしたブライアン・シンガーのx-menワールドはこれで一区切りであろう。次作はヒュー・ジャックマンのウルヴァリン引退作になるという噂があるが、マグニートやミスティーク主役のスピンアウトに期待したい。ミスティークは「アポカリプス」以後、最初の「x-men」でのマグニートとの協働に、どのようにしたらつながるのだろう?

★Marvelはこのあと、ベネディクト・カンバーバッチ主演の新キャラ「Dr.ストレンジ」、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの続編、スパイダーマンの続編、ソーの続編などが予定されている。DCは「バットマン v.スーパーマン」に登場したメタヒューマンのキャラクターであるワンダーウーマンの話、DC版アベンジャーズのジャスティス・リーグ、新キャラのフラッシュ(フラッシュ・ゴードンではない)の話などが予定されているようだが、興行収入的に厳しければどうなるかわからない。

★個人的には独立派?のフランク・ミューラーのSin Cityや、駄作と言われながら個人的にはかなり評価の高いSPAWNの次回作に期待したい。製作されるかどうかもわからないのだが。


  
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Posted by 仲村オルタ at 18:00

2015年12月30日

2015年極私的映画ベスト10

 今年もベスト10を選ぶ季節がやってきた(対象作品 日本公開年月日が2014.12.1~2015.11.30までのもの)。DVD、映画館あわせ、昨年よりは少ない30本強を鑑賞。今年の後悔は、1位、2位に選んだ映画を映画館でみることが出来なかったことだ。あいかわらず興行的に絶好調な日本映画では、「バケモノの子」「屍者の王国」「ハーモニー」のアニメーション3作を見た。「バケモノ」はよかったが、「おおかみこども」を超えられず、ランクインできず。「屍者」「ハーモニー」2作は、伊藤計劃原作の二本だが、少女マンガ的作画ではなく、もっとハードボイルドな絵と世界を作ってほしかったと思う。

○特別枠 デュランデュラン アンステージド 監督:デヴィッド・リンチ

 2011年に行われたデュラン・デュランのライブを、デヴィッド・リンチ監督した少し風変わりなライブフィルムが、今年になって公開された。80年代にニュー・ロマンティックの雄も、すっかりおじさんバンドではあるが、どこか物悲しい音は健在だ。リンチは、光と偶像的なモチーフをつかって、自身がデュラン・デュランに描くイメージを投影する。デュラン・デュランの熱狂的なファンにはあまり響かなかったようだが、適度なファンであり、またリンチ・フリークの私にはとても新鮮に映った。ほかとは一線を画する印象的なライブフィルムだった。

○特別枠 マップ・トゥ・ザ・スターズ 監督:デヴィッド・クローネンバーグ
 もうひとりのデヴィッドである、クローネンバーグの新作。批評家的には悪くないのだが、極私的にはクローネンバーグの粘着性とオフビートさが不発であまりヒットせず。ランクインできなかったので、リンチと仲良くならんで特別枠とした。前作「コズモポリス」は傑作。極私的に、クローネンバーグ最高傑作は「イグジステンズ」だ。



第10位 ターミネーター:新起動/ジェニシス ★★★ 監督:アラン・テイラー

 シュワルツェネッガーが復活し、シリーズ5本目で実質第一作のリブートとなるこの映画は、興行的にも、批評家的にもあまり芳しくはないのだが、極私的には、シリーズを通して見ている観客を裏切る「ある設定」に清々しさを感じてランクインとなった。シュワルツェネッガーが悪役、良い役双方のアイデアはすでに実現しているので、シュワルツェネッガー復活を前提に5作目を新しく作る立場としては、あの重要なキャラクターを犠牲にせざるをえなかったのだろう。それが気に入るか、気に入らないかでこの映画の評価は決まる。B級感は拭えないが、面白く見た。

第9位 バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) ★★★+ 監督:アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ

 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の新作でありアカデミー賞作品賞、監督賞を受賞した本作は、期待したほどのパフォーマンスではなかったというのが正直なところ。全編を通して切ない話だが、ワンカット・ショットやドラムスだけの斬新なBGMなど、監督の個性が前面に出過ぎて、肝心な主題にはいりこんでいけなかったのが原因ではないかと思う。もう一度DVDで落ち着いてみたら、評価が変わるのかもしれない。

第8位 キングスマン ★★★+ 監督:マシュー・ヴォーン

 キック・アスやガイ・リッチー作品のプロデユースで知られるマシュー・ヴォーン監督の新作。ポスターなどから、コリン・ファースが主役と思いきや、スカウトされた若いスパイが主役だと後半で気づいた。過剰な残酷シーンはお約束で、不道徳とは思えないが、嫌いな人はおそらくそれが嫌いなのだろう。ほかにもイギリス的なブラックユーモアなど、Xメンのプリクエル版には盛り込めないような要素もあり、この路線で新たなジャンルをつくってほしいと思う。

第7位 インヒアレント・ヴァイス ★★★1/2- 監督:ポール・トーマス・アンダーソン

 トマス・ピンチョン原作をPTAが映画化。主役のホアキン・フェニックスのオフビート感が絶妙で、全編が主人公同様にドラッグでラリった質感の映画となった。「内在する欠陥」は男の誰もがもっているものであり、男の悲しい性を感じる。ピンチョンの原作は、まわりくどくてきちんと読むことができなかった。監督PTAもそうなのだが、好き嫌いが別れる作家ということなのだろう。

第6位 ホビット 決戦のゆくえ ★★★1/2 監督:ピーター・ジャクソン

 ピーター・ジャクソン監督のライフワーク最終章。長い物語だが、絶妙なプロットのためか、あるいは画面から伝わる熱さのためか、あまり気にならない。ロード・オブ・ザ・リングがフロドの物語であって、同時に人間の王アラゴルンの帰還の物語であるように、ホビットもビルボの物語であると同時に、ドワーフの王トーリンの復活の物語でもある。ピーター・ジャクソンは正直なところ、このふたつの物語以外ではあまりぱっとしないのだが、次作はどうするのだろう。

第5位 ジュラシック・ワールド ★★★1/2 監督:コリン・トレヴォロウ

 ジュラシック・パークシリーズの4作目。シリーズ第1作のインパクトは、スピルバーグ自らつくった2作目、製作にのみ関与した3作目で失われていったのだが、この4作目はあれほど事件を起こして開園するはずない、とスタッフも観客もみなそう思っていた前提をあっさりと覆し、開園している状況から提示することで、シリーズのリブートを図った。怪獣映画と揶揄する声もあるが、緊張感も映画的快楽もある良作だ。監督コリン・トレヴォロウはスター・ウォーズ・エピソード9の監督に抜擢されているらしい。これは期待できる。

第4位 シン・シティ 復讐の女神 ★★★1/2 監督:ロバート・ロドリゲス&フランク・ミラー

 10年ぶりの新作は、前作ほどのインパクトはないものの、十分に快作だった。原作者が脚本と監督(の一部)を担うことは、ともすれば思い入れが強すぎて失敗しがちだが、ロドリゲスのリードもあってかこのシリーズにかぎっては成功している。もう一本分くらいつくる原作は残ってそうだが、実現するかどうか。役者では、エヴァ役のエヴァ・グリーンが素晴らしかった。

第3位 マッドマックス 怒りのデスロード ★★★1/2+ 監督:ジョージ・ミラー

ジョージ・ミラー監督のライフワークであり、27年ぶりの新作。シンプルな「行きて帰りし物語」を、独自のおバカな世界観でガンガン突っ走る。世紀末的なライダーたちには、お抱えのロック・ギタリストがいる。作られた兵士の開放譚もある。27年前のパート3の消化不良を払拭した。次作もあるらしいが、もう一本おなじような高級B級映画をつくることができるかどうかは懸念もある。

第2位 セッション(Whipplash) ★★★1/2+ 監督:デミアン・チャゼル

 矛盾する言い方だが、予定調和的などんでん返しが溢れるなかで、この映画のラストの展開を予想できた観客がいただろうか。鬼コーチとの和解でもなく、成功でもなく、挫折でもなく、そのいずれでもありうるラストの展開。脚本家としても監督としてもほとんどキャリアのない30歳の新鋭は、この映画の成功で自由と制約を同時に得た。次の展開が楽しみだ。

第1位 アメリカン・スナイパー ★★★★ 監督:クリント・イーストウッド

 80を過ぎてなお、これほどの創作を残す驚くべき集中力。スナイパーとしての「アメリカの正義」に寄り添いながらも、タカ派、ハト派のどちらに与することなく、妻を思う夫として、子を思う父としての視点で、どちらかといえば淡々とまとめあげる。クリント・イーストウッドには、「ミリオンダラー・ベイビー」というなんともやるせない悲劇の傑作があるが、極私的にはそれを超えたキャリア最高傑作だと思う。  
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Posted by 仲村オルタ at 16:02

2015年12月19日

レビュー スター・ウォーズ フォースの覚醒(後半にネタバレあり注意)

 スター・ウォーズの1作目であるエピソード4 新たなる希望を映画館で見たのは、まだ小学生の頃だった。四つ上の兄が好きだった映画に僕ものめり込んだ。映画館で映画を見るようになって、間もない頃のことだ。当時はフィギュアやおもちゃは身近になかったので、ポスターを模写したり、ラジオから録音したカセットテープでテーマ音楽を何度も聞き、気分が高ぶらせたものだ。
 それから、三十年以上のときが過ぎた。
 ああもうこれで最後かと寂しくなったエピソード3からも十年。
 私はどうしてもIMAXで見たかった。できれば公開日の最初の回に見たかった。それが叶っただけでも間違いなく、その瞬間世界でもっとも幸福なひとりだっただろう。
 二十世紀フォックスのファンファーレがないのは寂しいが、シンデレラ城のディズニーロゴもなく、ルーカスフィルムの燦然と輝くロゴにつづき、お約束のメインタイトル。劇場に拍手が響きわたり、身体が熱くなった。
 以下激しくネタバレあり。公開前に情報管理が徹底されたように、あまり予備知識なく見たほうが楽しむことができるので、自己責任でお読みください。



 私は(おそらく)筋金入りのファンではないが、スター・ウォーズの世界が再び戻り、それを同時代的に体感するだけで幸福だった。ミレニアムファルコン号が空を、宇宙を飛び回る、ただそれだけで嬉しくなる。この映画は第一作の制作環境に経緯を払い、実撮影のこだわったことが成功したのか、エソード4から6までの画面の質感にとてもよく似ている。その世界を取り戻し、我々にどっぷりと浸かる環境を提示しただけでも、監督JJエイブラムス(彼もまた同世代だ)に最大級の賛辞は送られるだろう。好きな映画かどうかと問われれば、迷いなく好きだと言える。三部作を前提に作られているがゆえに、これでもかというくらいに謎がちりばめられ、次を見るために二年も待たなければならないのかと思うと、かんべんしてよと思うくらい苦痛ではある。
 ただ、一晩たって、この映画のことを振り返ったとき、頭のなかにはひとつの疑念が浮かんだまま、離れない。
 このトリロジーは、新たな予定調和の物語なのか?
 つまり、ダークサイドに落ちた息子カイロ・レンを、両親であるソロとレイアが取り戻す物語なのか、と。
 スター・ウォーズというフレームワークを再現するために、新しい冒険は何も期待できないのか、と。
 プリクェル・トリロジーであるエピソード1から3は、アナキン・スカイウォーカーがダークサイドに落ちる物語であり、エピソード4から6は息子が父親を光であるジェダイへ帰還させる物語だった。前史を描くプリクェル・トリロジーは、ダースベーダーになるという結論がわかっているので、なぜ、どのように、かが焦点となり、展開に驚きはない。ダークサイドのボス、ダース・シディアスも、最初からこの人だなということがわかっている。
 また、時限設定など基本的な物語上のフレームワークでも、旧作(エピソード4や6)と何も変わらない。こんなのはスター・ウォーズじゃないという批判を恐れるあまり、冒険しない完全なスター・ウォーズを無難に作った印象だ。
 ある程度わかっているとはいえ、フォースの覚醒は、あからさまにこのフレームワークを提示したことが、今後の二作の展開に対して不安材料となる。
 一方で、次作に引き継がれた謎は、新しい展開を期待もさせる。
 つまりそれは、
1.フォースが覚醒したレイとルーク・スカイウォーカーの関係は?
2.最高指導者スノークはシスか?
 ということだ。
 1.については、「フォースの覚醒」のなかで、レイのフラッシュ・バックとしてヒントが提示されている。フィギュアまで売り出しているズヴィオ巡査らしきキャラクターが撃たれ、おそらくは幼いレイの泣き叫び声が聞こえる。飛び去っていった宇宙船は、ファルコン号のようにも見える(これは思い過ごしかもしれない)。ラストシーンでふたりはただ見つめ合っただけだ。また、カイロ・レンがレイの思考を読み取ったときの会話からわかるように、レイは確実にこの場面を想起あるいは知っていた。それもヒントかもしれない。
 また、2.については、パルパティーン=ダース・シディアスが暗殺したパルパティーンの師であるダース・プレイガスがスノークではないか、という説がある。これはありうるかもしれない。あの巨大なホログラム姿で次回も登場するのか、シスとしての本領を発揮するのか、中二病とも揶揄される中途半端なカイロ・レンの修行をいかに完成させるのか、これも見ものである。
 今回スター・ウォーズを見終えて改めて感じたのは、この映画が通常の映画体験では感じ得ないほどの圧倒的な影響力を持つものだということだ。ひょっとしたら、JJの最大の貢献は、予定調和の新三部作によってルーカス自身が変更してしまったアナログ感、それに付随するなんだか得体の知れぬ浮揚感を作品に取り戻したことなのではないか。
 この映画の主人公は、レイでもなく、カイロ=レンでもなく、ミレニアム・ファルコンだという指摘がある。たしかにそうだ。CG感満載のナブー・ロイヤルスターシップではこの高揚感は得られない。おそらくはそれがこの映画のすべてかもしれない。



 最後に、いまや私以上にSWに登場するキャラクターや乗り物に詳しくなった6歳の息子と一緒にこの映画を見ることが出来たのは、何より幸せな体験であった。これまで、私に関わったすべての皆さんに感謝したい。
  
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Posted by 仲村オルタ at 00:49

2015年06月23日

レビュー マッド・マックス 怒りのデス・ロード

 ある意味、奇跡の映画かもしれない。
 昔スクリーンでみて興奮し、淀川長治の日曜洋画劇場で見て興奮したあのマッドマックスが再びスクリーンで、しかもIMAXで見られるのだ。
 30年ぶりのマッドマックスは、プロットは平凡で何も意外なことは起こらないゆきてかえりし物語だが、それでもなぜか2時間スクリーンに釘付けになる映画だった。最初からやりたい放題でずずずず、どどーんと押し切った、不道徳極まりないお馬鹿な傑作だった。ジョージ・ミラーという監督のキャリアを思うと、画面を見ながらよほどこの映画が作りたかったんだろうと感じる。この映画をみて、旧友Pのことを思い出した。ひょっとしたら、この映画ならPと一緒に盛り上がったかもしれない。



 アクションシーンが評判だが、取り立てて新しいことはなにもない。IMAX3Dでみたのだが、画面は新しく美しくとも、むしろ見ていてハラハラしない安定感がある。特撮に頼ろうとしない昔の映像作家が、思いの丈やってみました感が安心させるのだろう。
 この映画の最大の売りは、この世界観とキャラクターデザインにある。30年前のマッドマックス3作のリブートというわけではなく、キャラクターと世界観だけを引き継ぎ、その世界を拡張させた。身体的特徴のある登場人物や母乳工場など、あまりストーリーと関係ない不道徳な設定、シーン、キャラクターが登場するのも、70歳の大御所で古き良き時代を知る監督だからこそなのだろう。不思議に、あまり不道徳さは感じない。
 この新シリーズのパート2はどうなるのだろう? 本作はうまくいったが、同じことを繰り返すことはあまり得策ではない。旧3部作で、1作目から2作目に飛躍したようなクリエイティブを見せてほしい。そう期待させる映画だった。
 



  
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Posted by 仲村オルタ at 23:28

2015年04月25日

4月の映画まとめ

 4月に入ってよく映画を見ている。いくつか備忘録的に書く。
〈ジュピター〉
 ウォシャウスキー姉弟の最新作。〈クラウドアトラス〉のようにプロットでも映像的にも快楽を期待したが、プロットは空回りしてやや残念な結果に。ただ、映画的快楽をもたらすアクションシーンが物語のなかでいかに重要かあらためて気づく。この映画がうまくいかなかったのは、三つ巴、四つ巴の構造があるのにそれが葛藤をうまなかったことだろう。

〈バードマン(あるいは無知がもたらす予期せぬ奇跡)〉
 ブラック・スワン+バートン・フィンクという感じ。嫌いな映画ではないが、想像していたほど興奮はしなかった。ラストシークエンスはやや蛇足のような気がしたが、劇場シーンの結末をどう解釈するかで、このエンディングの意味がかわる。長回しはやや技巧的すぎて、長回しという技法だけで快楽を呼び起こすほどではなかった。トゥモローワールドの長回しの興奮度のほうが優れていた。この映画で個人的に一番良かったのは、即興的ドラムスの効果だ。

〈カイト〉
 日本アニメーションのハリウッド映画化。途中でオチが見えてしまうのは、元ネタのせいではないかもしれないと思い、もともとのアニメーションDVDをdiscasで調達した。女性主人公の物語に〈99〉が突き抜けるヒントを見ようとしたが、こちらも刺激は期待どおりではなかった。あらためて、主人公の変化が重要だとわかる。拙作〈99〉のマヤ・スプリンスフィールドの変化の落差を明快にせねば。映画を見る行為は、自作の欠点を確認する行為でもあると改めて知る。

〈デュランデュラン アンステージド〉
 duran duranのライブをあのdavid lynchが監督したまさかの劇場公開版。duran duranも最近聞いていなかったが、80年代は比較的よく聞いたし、90年代に復活したときのスマッシュヒットordinary worldは名曲だと思うが、もしリンチが監督していなかったら、おそらくは映画館に足を運ばないだろう。duran duranファンは過剰な演出(というか映像のオーバーダビング)を批判していたが、リンチ・フリークとしては、以外にも傑作。リンチのいつもの脳内麻薬があふれる変態ぶりに笑いが込み上げた。劇映画以上に、リンチが影響を受けたと思われる絵画の巨匠フランシス・ベーコンの影響を感じた。duran duranのメンバーもこの結果を期待していただろうし、もしリンチが監督していなかったら、日本の映画館で上映されることもなかったかもしれないので、duran duranファンもあまり尖ることなく見て欲しいと思う。ordinary worldのときになんだか泣けてきた。

〈インヒアレント・ヴァイス〉
 ポール・トーマス・アンダーソン(PTA)の最新作。監督買い監督のひとりなのだが、〈ザ・マスター〉もその前の〈there will be blood〉もあまりピンとこなかったのだが、これは傑作。個人的ツボにはまった。美しいフィックスの絵も長回しも、オフビートな間合いも、突如として現れるコメディシークエンスも抜群(パンケーキシーンは大爆笑だった)。原作者トマス・ピンチョンはいつかは読んでみたいがなかなか敷居の高い作家だったが、これを機にいくつか読んでみようと思った。タイトルの「内在する欠陥」とは保険用語で、対象の性質上避けられない欠陥のこと免責に該当する内容のことだ。男そのものの「内在する欠陥」とはなにか。そう思うと、せつなく、そして哀しい。

  
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Posted by 仲村オルタ at 22:02

2015年01月24日

シン・シティ 復讐の女神(Sin City: A Dame to Kill For)レビュー

 傑作。誰がなんと言おうと傑作だ。
 2005年に公開されたロドリゲスとフランク・ミラーの傑作ハードボイルド・ノワール映画Sin Cityの、ほぼ10年ぶり(アメリカでは2014公開)の奇跡の続編 Sin City:A Dame to kill for(邦題:シン・シティ 復讐の女神)が公開された。10年ぶりだからか、10年ぶりにもかかわらずか、相変わらず好きなことを好きなように作る。それに徹しているのが清々しく、また羨ましく思う。確かに前作に比べたら構成の妙はないが、続編の話が持ち上がりながら延期を繰り返してきた奇跡の映画ゆえに、倫理観など放置してこの世界に無条件にどっぷりと浸かる。それが至福の時間なのだ。復讐、裏切り、騙し合い、誘惑、ファム・ファタール、暴力、魅力的な女など、ハードボイりルドのすべての要素が此処にある。要するに、僕はハードボイルドが好きなのだろう。



 前作とこの映画では、時系列がバラバラで前作の前日談もあれば、前作の後日談もあり、前作で死んだはずのキャラクターが生き返っているので混乱する。予備知識なく本編を見ると最も混乱するのは、ドワイトを演じた役者がクライヴ・オーウェンからジョシュ・ブローリンに変更されていることだ。役者のタイプが違うので整形した同一人物とは思えない。前作のドワイトのエピソードThe Big Fat Killよりも、本作のドワイトのエピソード(本作のメインエピソードでもある)A Dame to Kill Forのほうが前の出来事のはずだが、片眼の殺し屋マヌートが生き返った(死んでいなかった)のはよいとして、オールドタウンとマーヴとの関係性など、やや違和感を感じるような内容もあった。
 が、そんなことは実に些細なことだ。映画の魅力を損なうものではない(クライヴ・オーウェンは好きな俳優なので出て欲しかったが)。
 本作からの登場ではファム・ファタール エヴァを演じたエヴァ・グリーンが素晴らしかった。
 日本語タイトルについて、「その人のために誰かを殺してもいい女」は訳しにくいので、わかりやすいナンシーのエピソードをタイトルに持ってくるのは仕方ないか。本作の根幹にあるエピソードはエヴァのエピソードだけに、なんとなく寂しい気がした。



 世界の悲惨なニュースを前に、クリエイターは何をつくるべきなのだろう。いつも自問自答している。答えはない。クローネンバーグはかつて「子供の親としては倫理観を重んじる、しかしクリエイターとしては制約はない」というようなことを言った。また、芸人と芸術家の違いを次のように言った。まだ答えは出ない。いずれにしても、クリエイターは作ったものに責任を持たなければならない。ロドリゲスとミラーがどう感じているか聞いてみたい。「そんなふうに考えているようじゃあ、まだまだ甘っちょろいぜ、だってクールだろう」と言われそうだ。

〈芸人は、あなたがまさに望んでいるものを与えてくれる。芸術家は、あなたが今まで欲しいとも思わなかった「何か」をあなたに与えてくれる。それは、知る以前には欲しいとも思わなかったけれど、一度知ってしまったら、次回からは欲しくてたまらない「何か」だ。(デヴィッド・クローネンバーグ)  
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Posted by 仲村オルタ at 10:45
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仲村オルタ
仲村オルタ
職業:書き物一切。
職人のごとくただ書くのみ(としたい)。
公式サイト alt99.net
台湾より沖縄復帰後1年で関西へ。まさかの東京暮らしを経て、流れ流れて今は沖縄暮らし。
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