2018年01月01日

2017年極私的映画ベスト20 その2(10位から1位)

 映画を観るときは、どうしても創り手視点で見てしまう。ああ上手いなとか、やられたなとか、これは自分でも応用できそうだとか、自分ならこうするのにな、とかいった具合にだ。誰が出ているかではなく、誰が撮っているかで映画を選ぶ。ゆえに、登場人物に感情移入することはあまりない。感情移入するのは、鑑賞中よりも鑑賞後振り返ったときのほうが多いのだが、それでも劇中忘我し、涙が流れることもある。2017年No.1になったのはそんな映画であった。

特別枠2 変魚路 directed by Go Takamine
 沖縄(出身)の巨匠高嶺剛監督の18年ぶりの新作。ただそれだけで特別な作品だが、本作はあまりにも自由奔放すぎて、通常の直線的な理解では映画を理解しきれない。絵画的な鑑賞をしようにも、ヒントが少なすぎる。もはやパラダイスビューとウンタマギルーが奇跡のように思える。文脈も、映画的文法も気にしない。イメージをつなぎあわせ、その表層に浮かぶわずかな手がかりを掬い取ってみなければならない、とさえ思える。落ち着いてDVDで観てみようと思う。個人的には、幸運にもロケに立ち会うことができた思い入れのある映画だ。
2017年極私的映画ベスト20 その2(10位から1位)

特別枠3 ローガン・ラッキー(Rorgan Lucky) directed by Steven Soderberg
 ソダーバーグの引退撤回作は、ただそれだけで喜ぶべきニュースなのだが、この映画は理詰めで作ろうとするソダーバーグが、あまりにも気を抜きすぎたのか、あるいは復帰作で気合を入れすぎたのかわからないが、変魚路とはまた違う自由さに溢れ、映画としては好きなほうだが、全体にしまりが感じられず。あるいは、徹底的にゆるくつくろうとしたのだが、理詰めの監督の方法論が邪魔をしたのだろうか。監督買い筆頭グループのひとりながらランクインならず。特別枠となった。
2017年極私的映画ベスト20 その2(10位から1位)

第10位 ロスト・エモーション(Equals) directed by DRAKE DOREMUS★★★+
 製作自体は2015年だが、日本では今年公開。比較的早くリリースされたDVDにて鑑賞した。今年は良質なSF映画が多かったように思う。この映画のスタイリッシュで近未来的な雰囲気は、全編でロケに使われている安藤忠雄建築によるところが大きいだろう。感情を持つことが悪とされ、禁止された管理社会のロミオとジュリエット。美しく、哀しい映画だった。
2017年極私的映画ベスト20 その2(10位から1位)

第9位 エイリアン・コヴェナント(Alien: Covenant) directed by Ridley Scott★★★+
 御年八十歳となった巨匠サー・リドリー・スコットのエイリアン前日譚の第2作。前作プロメテウスはそこそこヒットいて、この第二作が作られることになったのだが、エイリアンを全面に登場させた本作は、興行的には散々だった模様。あれだけ次どうなんの、的な終わり方をしておいて、本人もあと二本はこの路線で撮りたいと意欲を示していたそうだが、次は少なくとも本人は撮れないかもしれない。ファスベンダー祭りと言われた本作は、第一作のホラー色よりも第二作の対決色に強いものだが、極私的には好感のもてる一作だった。また、監督作のみならず、10位のロスト・エモーションのプロデューサー、上位に出てくるブレードランナー2049のエグゼクティブ・プロデューサーとしてクレジットされているが、どれほど関与しているかわからないのだがトップ10映画三本に絡んでいる。恐るべき創造意欲である。
2017年極私的映画ベスト20 その2(10位から1位)

第8位 ディストピア/パンドラの少女(The Girl with All the Gifts) directed by Colm McCarthy ★★★+
 ゾンビ映画は一つの映画ジャンルとして確立しており、これまで様々なゾンビ映画が作られている。最近ではブラッド・ピットのワールド・ウォー・Zが「走るゾンビ」でサスペンスを生み出し新境地を見出した。既に語り尽くされた感があるジャンルだが、この映画ではゾンビ化した母親から生まれた第二世代を定義して、新しい対立と葛藤を生み出した。その世界観は新鮮で「やられた感」溢れるものだった。この設定でもう何本か撮れそうだと思える舞台設定は、それだけで成功だろう。ただ、ラストがこれでよかったのかな、と思う。徹底的に悲観的にも、あるいはハッピーエンディングであったとしても、別のエンディングのほうがよかった気がするのだが。
2017年極私的映画ベスト20 その2(10位から1位)

第7位 ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー(Rogue One/A Star Wars Story) directed by Gareth Edwards★★★+
 スター・ウォーズのスピンオフ第一弾。やたらとスター・ウォーズ史上最高傑作とのコマーシャルが繰り返されていたが、やはりオープニングクロールのないスター・ウォーズはそれだけでマジックに欠ける。エピソード4のオープニングへ繋がる物語ゆえに、エンディングがわかっていることもマイナス要素かと思われたが、ラスト近くで出てくるダースベーダーの圧倒的存在感に、それは杞憂となる。キャラクターとしては、ジェダイではないのに、自分がジェダイだと信じるチアルートと、元帝国軍ドロイドのK2-SOがよかった。一説には当初完成した映画があまりにも暗すぎて、4割超を別の監督が再撮影したというが、完成版でもトーンはシリアスで暗い。エピソード8と比べるとユーモアが極端に少ない。バトルシーンについても、ウォーカーの登場するスカリフの戦いはもっとスペクタクルが期待されたが、予想よりも地味だった気がする。映画館で見たときはあまりにも地味で、スター・ウォーズ独特の高揚感がほとんど感じられなかったのだが、DVDで再見すると、先に書いたベイダー無双シーンなど見どころもたくさんある。I am with the force,The force is with me.
2017年極私的映画ベスト20 その2(10位から1位)

第6位 ダンケルク(Dunkirk) directed by Christopher Nolan ★★★1/2
クリストファー・ノーランが全体の7割をIMAXカメラで撮影したという戦争映画。幸運にもIMAXにて観ることができてラッキーだった(沖縄には今のところIMAXシアターはない)。プロットよりも、キャラクターよりも、空間的な広がりや空撮の美しさを観るための映画だろう。真のIMAXといわれる次世代IMAXレーザー4k劇場は日本では大阪にしかない。本当はそこで観たかったのだが、それは叶わなかった。ひょっとしたら、大阪エキスポシティIMAXで観ていたらもっと上位だったかもしれないし、通常の映画館で観ていたとしたら、トップ10にも入らなかったかもしれない。それほど、劇場ファシリティに依存する映画だったと思う。
2017年極私的映画ベスト20 その2(10位から1位)

第5位 ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち(Miss Peregrine's Home for Peculiar Children) directed by Tim Burton★★★1/2
 レビューで書いたとおり、この映画はティム・バートン久々の快作であった。テーマと創り手の創造意図がぴたりとはまったときに、このような傑作ができるのだろう。
 年初にみたこの映画はトップ3に入ってもおかしくのない1本だと思ったが、今年はその後何本も傑作に巡り合うことができた。ティム・バートンといえば、次回作は「ダンボ」の実写版らしい。あまりフィットしない予感がする。
2017年極私的映画ベスト20 その2(10位から1位)

第4位 マンチェスター・バイ・ザ・シー(Manchester by the Sea)  directed by Kenneth Lonergan★★★1/2
 この映画は、過去も現在も主観も客観も継ぎ目なく映像化し、多少の混乱を招きながら、ちょうどミッドポイントあたりで明らかになる主人公の過去にあった悲劇の真相ですべてがつながるという、大胆な構成で成功している。ストーリーは悲惨な状況から、決してハッピー・エンディングではなく、監督のいうところの「ベターエンディング」で収束する。とても静かだが、温かみのあるエンディングだ。
2017年極私的映画ベスト20 その2(10位から1位)

第3位 ブレードランナー2049(Blade Runner 2049) directed by Denis Villeneuve ★★★1/2+
 リドリー・スコットの傑作ブレードランナーの続編は、「複製された男」のドゥニ・ヴィルヌーブが監督をして大正解だった。前作が、人間とレプリカントの差について問うていたものが、今回はレプリカントと実態をもたぬソフトウェアの恋愛にふれながら、レプリカントが自らの出自を追いかけるサスペンスを描く。映画の質感を維持しながら、新しい主人公の冒険譚を描く。ラスボス?もまだ健在なので、次回作もあるかもしれない。ハンス・ジマーの音楽もとてもよかった。ドゥニ・ヴィルヌーブはよほどリブートものが好きなのか、デヴィッド・リンチの壮大な失敗作デューンの再映画化が決まったという。これも期待できる。
2017年極私的映画ベスト20 その2(10位から1位)

第2位 パターソン(Paterson) directed by Jim Jarmusch★★★★
 ジム・ジャームッシュのユーモア、アイロニー、オフビート、詩的な美しさの溢れる秀作。主人公が劇中で執筆するオハイオマッチなどの詩は、現代詩人Ron Padgett によるものだが、どれも平易な言葉でイメージの広がる詩作ばかりだ。映像が詩的であり、詩のイメージが映像の美しさをひきたてる。前作オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴも素晴らしかった。昔はイメージを意図的にずらしたり重ねたりして映画を作ろとしていたが、最近は肩の力が抜けて、イメージを意図的にずらしたり重ねたりして物語を描こうとしている。ニューウェイブの旗手ももう64歳。だが、リドリー・スコットまでまだ15年もある。次回作も期待したい。
2017年極私的映画ベスト20 その2(10位から1位)

第1位 ラ・ラ・ランド(La La Land) directed by Damien Sayre Chazelle★★★★
 前作「セッション(Whiplash)」で一躍スターダム監督にのしあがったデイミアン・チャゼルが、アカデミー監督賞をとり、作品賞は幻となった一作。プレゼンターの間違いで一時は受賞かと思われたが、作品賞は結局「ムーンライト」に渡った。個人的にはこの映画のほうが圧勝だった。ミュージカルのフォーマットにのせて、スターダム映画とみせかけ、あまりにせつないラストへ呼び込む。音楽も、映像も美しい。映画ならではの表現方法だと思う。ティーザーと本編が連動してイメージを増幅するやり方も、やりすぎるとあざとくなるのだが、抑えた効果につながっている。監督としては、2015年は2位、そして2017年は1位となった。
2017年極私的映画ベスト20 その2(10位から1位)

 ということで、結果的にはトップ10のうち、5本(ティム・バートンをいれると6本)がSF映画ということで、例年にもまして偏りがある結果となった。個人的にはようやく次回作が始動したところなので、2018年は自作に生きる映画を選んでみることになるのだろう。

  • LINEで送る

同じカテゴリー(映画レビュー)の記事

Posted by 仲村オルタ at 22:28
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

マイアルバム
プロフィール
仲村オルタ
仲村オルタ
職業:書き物一切。
職人のごとくただ書くのみ(としたい)。
公式サイト alt99.net
台湾より沖縄復帰後1年で関西へ。まさかの東京暮らしを経て、流れ流れて今は沖縄暮らし。
オーナーへメッセージ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 11人
アクセスカウンタ