2014年01月05日

A Long Vacation

 年末に大滝詠一の訃報が飛び込んできた。知人の、あまりに唐突な死のあとだったので、複雑な気持ちだった。享年六十五歳。若すぎるとはいえ、個人的には遠すぎる。
A Long Vacation
 それでも僕の極私的な音楽体験において、大滝詠一は確実にキィとなる場所に居た。僕のナイアガラ体験は、もちろんあの化け物アルバム「A Long Vacation」に始まる。今聴いても古い感じはまったくしない。三十年以上前のアルバムとは思えない。中学になったばかりの多感な時期に、僕はロックミュージックの洗礼を受けたが、そのなかの重要な一枚がこのアルバムだった。シングルヒットが一枚もないのに、百万枚を越えるセールスを上げたアルバムは後にも先にもロング・バケーションだけだろう。
 また僕の音楽と人生の導師である佐野元春にとっても、大滝詠一は重要な役割を果たす。ナイアガラトライアングルがなければ、アルバム「サムディ」はヒットせず「サムディ」という曲もいまほど有名にはならなかっただろうし、その後のキャリアも変わっていただろうとも思う。レコーディングのテクニックやプロデューサーとしての姿勢についても学んだことだろう。音楽界の偉大なポーラスターと称えた弔辞の言葉をいち早く述べたのもよくわかる(NHKニュースでも紹介されたのは驚いた)。
 また個人的にこのアルバムを聴いていたことが契機となり、当時兄と大喧嘩をした。引っ越しの最中に「A Long Vacation」を聴いていたらうるさいと注意されたのだ。腹をたてて殴り合いの喧嘩をして母親に止められた。僕はロックミュージックのおかげであのころ何だって出来ると思っていた。生意気なことも言った。今はとても反省している。面とむかってなかなか言えないので、この場を借りてわびたいと思う。兄ちゃん、ごめんな。
 という具合に、もっとも多感だった頃にどっぷりと浸かった思い出深いアルバムがこの「A Long Vacation」だった。このアルバムを聴きながら、恋もしたし、勉強もしたし、あれやこれやとつまらいことで社会に不平を言ったりした。
 捨て曲のまったくないトータルアルバム「A Long Vacation」で、個人的に歌詞(松本隆)、メロディ、アレンジとも詩的で情景的で素晴らしいと思うのが、「雨のウェンズディ」だ。この歌には、静かな時間の流れがあり、冷たい雨の感覚があり、言葉にならない悲しみがある。松本隆の魔法が、大滝詠一によって花開いた最高傑作だと思う。

2008年にこんな文章をかいていた。
http://altdiary.ti-da.net/d2008-09-14.html

 もう長い間アルバムを出していないので、不思議にあまり寂しい気はしない。ただでさえ寡作なので、新作を期待することもなかった。これからも、年に一、二度はこのアルバムを聴くことだろう(しばらくは毎日聴くだろうが)。そのたびに、若すぎて熱の発し方のわからなかったあの時代をリアルに振り返ることだろう。


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Posted by 仲村オルタ at 10:16
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