仲村オルタの島ブロ小(Shima-Blog-guwa)2

●島コラム小　129　2005年仲村オルタを回顧する

１）
　毎年恒例？の自己認識のための回顧なのだが、今年
は本業であるはずの小説はひとつも完成せず、せっか
く昨年にもらった地方の小説賞の残り香を創作活動に
反映できなかったのだが、何よりも残念なことだ。小
説家に限らず、クリエイターはたとえ駄作であったと
しても絶えずリリースすることが重要なのだろうと思
う。わたしの好きな映画監督アキ・カウリスマキはか
つて１本の傑作よりも、１０本の駄作を撮りたい、と
いうようなことを語っていたが、ほんとうにそのとお
りだと思う。何故完成できなかったかというと、星の
数ほどの言い訳があるのだが、太郎先生の「自分自身
を責めることで慰め、ごまかしている人が意外に多い
んだよ。そういうのは甘えだ。惨めな根性だと思うね」
という言葉で、自らを一喝し、それを拭い去ろう。

２）
　それでも、書き物一切の仕事は地道にやってきた。
今年から始めた琉球新報の美術月評の仕事は、２月、
５月、８月、１０月、１１月と５ヶ月分担当し、その
関係もあって、いろいろな作家のひとたちと知り合い、
彼ら彼女らから刺激を受けている。この仕事のきっか
けとなる、前島アートセンターのボランティア・ライ
ターの仕事を去年やりはじめた頃は、アートレビュー
なんて出来るかなと思っていたのだが、その頃とは比
べものにならないほど、アートを見て言葉にする幅が広
がったように思う。とはいえやはり批評の仕事は、
クリエイター仲村オルタの自戒に繋がりそうなこと
ばかりなので、相変わらず手厳しい批判などはきちん
とできない。それでも何人かの作家の方から、励みに
なったとかこれからも頑張ろうと思ったとか言われる
と、それはとても嬉しいことだし、こちらこそ励みに
なる。来年も引き続き担当することになったので、
また新しい刺激を期待し、この仕事に臨みたいと思う。

３）
　あとは、８月にピンチヒッター的に携帯サイト向け
注文小説の仕事をした。これは仕事を受ける前に予想
していた以上に、かなり苦労したし、そのぶん多くの
ことを学んだ気がする。テーマは「怖い話」。原稿用
紙２枚×４回分という分量の制約があり、また個人的
には霊魂を畏怖する気持ちが強すぎて内容的に勝
手に制約をつけてしまい、ああだこうだと悩みながら
なんとかリリースした。あたりまえのことだが（しかし
それが難しいのだが）、怖い話というのは、怖くなけれ
ばまったく意味がないので、そのあたりも苦労したと
ころだ。怖い話をいろいろと読んだり、映画をみたり
して、夜なにかが集まってきそうな気配に少しびびり
ながら、書いた夏の日のことを今もときどき思い出す。
このような機会を与えてくださったＭ氏にあらためて
感謝したい。

４）
　自分自身の作品としては＃５「豚とてるりん」、　
＃６「死の舞踏」とも、未完のまま放り出している。
「豚とてるりん」はてるりんの葬儀に向かう道で不意
に思い浮かんだ情けない男の話、「死の舞踏」は前島
アートセンターの屋上から眼下に広がる低いビルや地
面を見つめているうちに思い浮かんだ話だ。これで
＃１「上等な人生　石と拳銃」とあわせて、３作放り
出していることになる。来年からは５５０枚のエンタ
ーテイメント長編にとりかかる。未完の小説について
は、いずれも愛着のある話なので、長編の合間に書き
進めて仕上げたいと思っている。タイトルについては、
地元の文学賞をもう一度狙うよりも、お笑いで言えば
Ｍ１級の（お笑いに喩えるのもへんな話だが）メジャ
ータイトル奪取に照準を絞りたいと思う。

５）
　私の小説とは直接関係のない話だが、去る１１月に
行われたwanakioのオークションで照屋勇賢氏の紅型作
品を落札した。彼の代表作と言われる「結ーい、結ーい」
の麻布（あさぬの）版だ。偶然にも、今年の仲村オル
タの原稿料総計と同額で落札することになった。ニュー
ヨーク在住のアーティスト勇賢氏は、その作品センス、
創作衝動すべてが素晴らしく、ウチナーンチュはもっと
期待し、もっと誇りに思ってほしいアーティストだと
思う。話をしていても、静かに語るその言葉はいつも
熱を帯び、そしてアーティストとしての明確なビジョ
ンと強い意志に満ちあふれているので、わたしも刺激を
受けるばかりだ。日光の影響が気になるので、どうや
って額装しようか悩んでいてまだ何もしていないが、
来年の早いうちにきちんと額装し、仲村オルタの成果
と可能性の象徴として、仕事場に飾ろうと思う。

　来年もよろしくお願い申し上げます。みなさん良い
お年を。