2013年12月30日
2013年極私的映画ベスト10
毎年続けている映画ランキングである。2012年12月~2013年11月公開の映画を対象に、あくまでも個人的に面白いもの、よいものをランキングしてみた。毎年同じ事を書いているが、映画も、美術も、小説も、結局はおもしろいかおもしろくないしかない。それが持論だ。
10.ライフ・オブ・パイ Life of Pi(監督:アン・リー)★★★
台湾人監督アン・リーの最新作。アカデミー賞でも監督賞などを受賞した。家族と動物と船で移住の旅に出ている最中に、嵐に遭遇し、生存したトラと漂流して生き残った少年の物語。パイの物語は尋常ではないが、生き残った者は強く生きなければならない、という強いメッセージがある。ただ、IMAX3Dでみたが、映像的快楽は予想ほどではなかった。
9.ベルリン・ファイル 베를린(監督リュ・スンワン)★★★
韓国映画。北朝鮮スパイと韓国スパイの戦いをベルリンを舞台に展開する。緊張感溢れる脚本。最後のまとめは大味だが、いまや国と国の諜報戦ものが少なくなっている状況では、この緊張感を描きだすシチュエーションはkoreaしかない。シュリに出ていたスパイの後日談として見ても面白い。韓国映画を積極的に支持するつもりはないが、よいものはよいし、見習わなければならない、と思う。
8.ハッシュパピー バスタブ島の少女 Beasts of the Southern Wild(監督:ベン・ザイトリン)★★★
新人監督のベン・ザイトリンが弱冠29歳で手がけ、低予算のインディペンデント作品ながらも、第85回アカデミー賞で作品賞ほか4部門にノミネートされたドラマ。ライフ・オブ・パイに通じるところはある。米ルイジアナ州の湿地帯にある世間から隔絶された「バスタブ」と呼ばれる小さなコミュニティーに嵐がやってきて、少女の運命は動き出す。どこまでが現実で、どこからが少女の空想か。6歳の少女の演技にも驚くが、ラストの力強い行進はこの映画全体を象徴し、強い印象を胸に残す。秀作。
7.君と歩く世界 De rouille et d'os (監督:ジャック・オーディアール)★★★
原題「錆と骨」。両脚を失い絶望したシャチ調教師の女性が、五歳の男の子と暮らす不器用なストリートファイターの男との出会い、互いに再び人生に希望を見出していく姿を描いたドラマ。ラスト10分あまりの胸の潰れそうな展開が強烈に印象に残っている。女性の立場からセックスを愛ではなく、生きる喜びとして描いたことも印象的だった。
6.ワールド・ウォーZ World War Z (監督:マーク・フォスター)★★★1/2
人間を凶暴化させる未知のウイルスの感染原因を解き明かそうと、感染者と非感染者の死闘が繰り広げられる世界各地を駆ける元国連捜査官の物語。恐ろしいまでの緊張感に満ちた映画だった。大げさではなく、早く席を立ちたいと思った。原作はゾンビとの戦い方を描くモキュメンタリーで、この支持者に映画は不評だ。原作はまだ読んでいないが、サスペンス映画としては王道すぎる王道のサスペンスだった。
5.エリジウム Elysium(監督:ニール・ブロムカンプ)★★★1/2
第9地区のニール・ブロムカンプの新作。地球を脱出しエリジウムに移住した富裕層へ挑戦する男の物語。冒頭の地上の描写が圧巻。理想の楽園エリジウムとの対比に呆然となる。ストーリーは極めてオーソドックスだが、ガジェット、世界観、ラストの処理の仕方ともに好みだ。個人的には第9地区よりも好きだ。自作の参考とするためにビジュアルガイドを購入した。
4.オブリビオン oblivion(監督:ジョセフ・コシンスキー)★★★★
「トロン:レガシー」のジョセフ・コシンスキーの新作。タイトルがなぜ「忘却」なのか、その意味を考えると実に深い。今年はSF映画をたくさん見た。SFはその世界観をいかにつくりあげるかが重要なのだとこの映画をみて改めて思う。この映画のあと「トロン:レガシー」をみたが、これも良かった。飛行船、内装など洗練されたデザインはとても美しい。
3.コズモポリス Cosmopolis(監督:デヴィッド・クローネンバーグ)★★★★
ドン・デリーロがポール・オースターに捧ぐとした小説を、クローネンバーグが監督した。気に入らないはずがない。クローネンバーグは去年のユングとフロイトの話が不発だったので、久しぶりに「イグジステンズ」のあの乾いた質感の映画を見た気がしてただ、ただ嬉しくなった。「途中、デモのシーンで巨大ネズミのオブジェを高く掲げるシーン。あの空虚で、ナンセンスで、カラカラに乾いた画面の質感はクローネンバーグにしか撮れない」。前半まとめで書いたが、まさにそのとおりだ。文体があるように、映像体がある。それを体現する恐ろしき70歳である。
2.悪の法則 The Counselor(監督:リドリー・スコット)★★★★
11月に駆け込みで見たが、物語全体よりも、物語のなかにでてくる脇役(というかそこしか出てこないので端役)のマフィア実力者のセリフだけでものすごいインパクトがある。セリフというのは重要だと思った。コーマック・マッカーシーの脚本を読んだが、物語ではなくセリフだけで世界を語るやり口はともすれば直接的になりすぎるのだが、これほど効果的に使うのはすごいなと思った。リドリー・スコットでももちろんよかったが、もしこれをデヴィッド・リンチが監督したなら、すごい物語になったような気がする。
「こうすればよかったなんてことは言わない。これこれのことをしちゃいけなかったなんてことも。おれにわかるのはあんたが自分のした間違いを何とかしようとしている世界は、あんたが間違いをしてしまった世界とは別の世界だってことだ。あんたは今自分が十字路に立って進むべき道を選ぼうとしていると思っている。でも選ぶことなんてできない。受け入れるしかない。選ぶのはもうとっくの昔にやってるんだから」
1.クラウド・アトラス Cloud Atlas(監督:ラナ&アンディ・ウォシャウスキー、トム・ティクヴァ)★★★★
マッハGOGOで不発だったウォシャウスキー姉弟(兄弟がいつのまにか変わっていた)がラン・ローラ・ランのドイツ人監督トム・ティクヴァと組み、デヴィッド・ミッチェルの小説を、6つの物語を並行に描くグランドホテル形式で仕上げた大作。「火の鳥」を確かに彷彿とさせる。自分は自分だけのものではないという壮大な宇宙感のもと、因果応報、輪廻転生を描く。複雑な映画が流行らないのはあまり良い傾向ではない。脳天気な映画も悪くはないが、やはり作り手の端くれとしては、独自の世界を作り出す物語を選びたいと思う。
いつもの年ならこれで終わりなのだが、今年はどうしても語らなければならない映画が二本ある。個人的思いが強すぎて順位にはいれようがないが、忘れることのできない二本だ。特別枠といえるだろうか。
特別枠1 Beat Child ベイビー大丈夫か~(監督:佐藤輝)
奇跡の映画だ。あの最悪で最高の夜を思い出し、泣いた。ほんとうにDVD化しないのだろうか。それなら毎年どこかで必ず上映してほしい気はする。
http://alt.ti-da.net/e5513375.html
特別枠2 パシフィック・リム Pacific Rim(監督:ギレルモ・デル・トロ)
台湾行きの飛行機内で鑑賞。海の底の時空の裂け目から怪獣が現れ、その時空の裂け目なるものに核爆弾を投入する、という現実とSF設定の混在をまったく受け入れることができず、ドドーン、ズカーンという映像にも美しさもカタルシスを感じることもなく(飛行機内の画面だから仕方ないが)、個人的にはまったく合わない映画だ。だが、この映画は盟友てふてふPのお気に入りだった。「思い切りやっちゃったー感が好きでした。ストーリーも悪くないと思うし」と1ヶ月あまり前(それは死の1ヶ月あまり前でもある)のメールでそう伝えていた。僕が「ダークナイト」が好きだというとPは「うーん」というし、映画のほうの「ワールドウォーz」が良かったというとPはまた「うーん」という。思えば、Pちゃんとは映画や創作の趣味嗜好はまったく合わなかった。正直なところ、Pちゃんの描く小説の世界に、僕は厳しいことばかり話をしていた。Pちゃんは年上だから気を使ったのか、いつも僕の創作に対しては「いいっすよ、ぜったいいけますよ」と励ましてくれた。今年二回くらい「Pちゃんと創作の趣味ってまったくあわないな」と言い合った。それでも盟友にかわりはない。もうPちゃんはいないと思うとやはりたまらなく寂しい。この映画を今後見ることがあれば、Pちゃんを思い出すだろうな。
Pちゃんがやり遂げられなかった世界で、僕はもう少しあがいてみるよ。
10.ライフ・オブ・パイ Life of Pi(監督:アン・リー)★★★
台湾人監督アン・リーの最新作。アカデミー賞でも監督賞などを受賞した。家族と動物と船で移住の旅に出ている最中に、嵐に遭遇し、生存したトラと漂流して生き残った少年の物語。パイの物語は尋常ではないが、生き残った者は強く生きなければならない、という強いメッセージがある。ただ、IMAX3Dでみたが、映像的快楽は予想ほどではなかった。
9.ベルリン・ファイル 베를린(監督リュ・スンワン)★★★
韓国映画。北朝鮮スパイと韓国スパイの戦いをベルリンを舞台に展開する。緊張感溢れる脚本。最後のまとめは大味だが、いまや国と国の諜報戦ものが少なくなっている状況では、この緊張感を描きだすシチュエーションはkoreaしかない。シュリに出ていたスパイの後日談として見ても面白い。韓国映画を積極的に支持するつもりはないが、よいものはよいし、見習わなければならない、と思う。
8.ハッシュパピー バスタブ島の少女 Beasts of the Southern Wild(監督:ベン・ザイトリン)★★★
新人監督のベン・ザイトリンが弱冠29歳で手がけ、低予算のインディペンデント作品ながらも、第85回アカデミー賞で作品賞ほか4部門にノミネートされたドラマ。ライフ・オブ・パイに通じるところはある。米ルイジアナ州の湿地帯にある世間から隔絶された「バスタブ」と呼ばれる小さなコミュニティーに嵐がやってきて、少女の運命は動き出す。どこまでが現実で、どこからが少女の空想か。6歳の少女の演技にも驚くが、ラストの力強い行進はこの映画全体を象徴し、強い印象を胸に残す。秀作。
7.君と歩く世界 De rouille et d'os (監督:ジャック・オーディアール)★★★
原題「錆と骨」。両脚を失い絶望したシャチ調教師の女性が、五歳の男の子と暮らす不器用なストリートファイターの男との出会い、互いに再び人生に希望を見出していく姿を描いたドラマ。ラスト10分あまりの胸の潰れそうな展開が強烈に印象に残っている。女性の立場からセックスを愛ではなく、生きる喜びとして描いたことも印象的だった。
6.ワールド・ウォーZ World War Z (監督:マーク・フォスター)★★★1/2
人間を凶暴化させる未知のウイルスの感染原因を解き明かそうと、感染者と非感染者の死闘が繰り広げられる世界各地を駆ける元国連捜査官の物語。恐ろしいまでの緊張感に満ちた映画だった。大げさではなく、早く席を立ちたいと思った。原作はゾンビとの戦い方を描くモキュメンタリーで、この支持者に映画は不評だ。原作はまだ読んでいないが、サスペンス映画としては王道すぎる王道のサスペンスだった。
5.エリジウム Elysium(監督:ニール・ブロムカンプ)★★★1/2
第9地区のニール・ブロムカンプの新作。地球を脱出しエリジウムに移住した富裕層へ挑戦する男の物語。冒頭の地上の描写が圧巻。理想の楽園エリジウムとの対比に呆然となる。ストーリーは極めてオーソドックスだが、ガジェット、世界観、ラストの処理の仕方ともに好みだ。個人的には第9地区よりも好きだ。自作の参考とするためにビジュアルガイドを購入した。
4.オブリビオン oblivion(監督:ジョセフ・コシンスキー)★★★★
「トロン:レガシー」のジョセフ・コシンスキーの新作。タイトルがなぜ「忘却」なのか、その意味を考えると実に深い。今年はSF映画をたくさん見た。SFはその世界観をいかにつくりあげるかが重要なのだとこの映画をみて改めて思う。この映画のあと「トロン:レガシー」をみたが、これも良かった。飛行船、内装など洗練されたデザインはとても美しい。
3.コズモポリス Cosmopolis(監督:デヴィッド・クローネンバーグ)★★★★
ドン・デリーロがポール・オースターに捧ぐとした小説を、クローネンバーグが監督した。気に入らないはずがない。クローネンバーグは去年のユングとフロイトの話が不発だったので、久しぶりに「イグジステンズ」のあの乾いた質感の映画を見た気がしてただ、ただ嬉しくなった。「途中、デモのシーンで巨大ネズミのオブジェを高く掲げるシーン。あの空虚で、ナンセンスで、カラカラに乾いた画面の質感はクローネンバーグにしか撮れない」。前半まとめで書いたが、まさにそのとおりだ。文体があるように、映像体がある。それを体現する恐ろしき70歳である。
2.悪の法則 The Counselor(監督:リドリー・スコット)★★★★
11月に駆け込みで見たが、物語全体よりも、物語のなかにでてくる脇役(というかそこしか出てこないので端役)のマフィア実力者のセリフだけでものすごいインパクトがある。セリフというのは重要だと思った。コーマック・マッカーシーの脚本を読んだが、物語ではなくセリフだけで世界を語るやり口はともすれば直接的になりすぎるのだが、これほど効果的に使うのはすごいなと思った。リドリー・スコットでももちろんよかったが、もしこれをデヴィッド・リンチが監督したなら、すごい物語になったような気がする。
「こうすればよかったなんてことは言わない。これこれのことをしちゃいけなかったなんてことも。おれにわかるのはあんたが自分のした間違いを何とかしようとしている世界は、あんたが間違いをしてしまった世界とは別の世界だってことだ。あんたは今自分が十字路に立って進むべき道を選ぼうとしていると思っている。でも選ぶことなんてできない。受け入れるしかない。選ぶのはもうとっくの昔にやってるんだから」
1.クラウド・アトラス Cloud Atlas(監督:ラナ&アンディ・ウォシャウスキー、トム・ティクヴァ)★★★★
マッハGOGOで不発だったウォシャウスキー姉弟(兄弟がいつのまにか変わっていた)がラン・ローラ・ランのドイツ人監督トム・ティクヴァと組み、デヴィッド・ミッチェルの小説を、6つの物語を並行に描くグランドホテル形式で仕上げた大作。「火の鳥」を確かに彷彿とさせる。自分は自分だけのものではないという壮大な宇宙感のもと、因果応報、輪廻転生を描く。複雑な映画が流行らないのはあまり良い傾向ではない。脳天気な映画も悪くはないが、やはり作り手の端くれとしては、独自の世界を作り出す物語を選びたいと思う。
いつもの年ならこれで終わりなのだが、今年はどうしても語らなければならない映画が二本ある。個人的思いが強すぎて順位にはいれようがないが、忘れることのできない二本だ。特別枠といえるだろうか。
特別枠1 Beat Child ベイビー大丈夫か~(監督:佐藤輝)
奇跡の映画だ。あの最悪で最高の夜を思い出し、泣いた。ほんとうにDVD化しないのだろうか。それなら毎年どこかで必ず上映してほしい気はする。
http://alt.ti-da.net/e5513375.html
特別枠2 パシフィック・リム Pacific Rim(監督:ギレルモ・デル・トロ)
台湾行きの飛行機内で鑑賞。海の底の時空の裂け目から怪獣が現れ、その時空の裂け目なるものに核爆弾を投入する、という現実とSF設定の混在をまったく受け入れることができず、ドドーン、ズカーンという映像にも美しさもカタルシスを感じることもなく(飛行機内の画面だから仕方ないが)、個人的にはまったく合わない映画だ。だが、この映画は盟友てふてふPのお気に入りだった。「思い切りやっちゃったー感が好きでした。ストーリーも悪くないと思うし」と1ヶ月あまり前(それは死の1ヶ月あまり前でもある)のメールでそう伝えていた。僕が「ダークナイト」が好きだというとPは「うーん」というし、映画のほうの「ワールドウォーz」が良かったというとPはまた「うーん」という。思えば、Pちゃんとは映画や創作の趣味嗜好はまったく合わなかった。正直なところ、Pちゃんの描く小説の世界に、僕は厳しいことばかり話をしていた。Pちゃんは年上だから気を使ったのか、いつも僕の創作に対しては「いいっすよ、ぜったいいけますよ」と励ましてくれた。今年二回くらい「Pちゃんと創作の趣味ってまったくあわないな」と言い合った。それでも盟友にかわりはない。もうPちゃんはいないと思うとやはりたまらなく寂しい。この映画を今後見ることがあれば、Pちゃんを思い出すだろうな。
Pちゃんがやり遂げられなかった世界で、僕はもう少しあがいてみるよ。
Posted by 仲村オルタ at 22:08