2011年01月30日
シンプルだが強い信念
ドーハの悲劇といえば、もう17年も前の1993年秋に、ワールドカップアメリカ大会予選の終了間際にイラクに追いつかれて、本選出場を逃したことを言う。僕はそれを大阪から高知行きのフェリーのなかで観ていた。ほかの乗客に頼んで、チャネルを替えてもらったことを今でも思い出す。サッカーをみて熱狂し、そして落胆したのはあれが初めてだったかもしれない。
そのドーハで行われたアジアカップ2011カタールは、見事に日本チームが優勝して幕を閉じた。長谷部のキャプテンシーを感じたシリア戦以後、大量点を取ったサウジ戦を除いては、どの試合も厳しい試合ばかりだった。開催国カタール戦の数的不利な状況での逆転、終了間際に追いつかれおそらくは集中力が切れそうになったはずの準決勝韓国戦、そしてボールの転がり方が少しでも変わっていたなら、3-0くらいで負けていたかもしれないはずのオーストラリア戦。どれも激闘で、他を圧倒するほどの力を今の日本チームは持っていない。
しかし、だ。
このチームはこれまでになく強いと感じられる「何か」がある。それは、負けないと思わせる何かだ。本田流に言えば、「もっている」ということなのだろうが、確かにそう思える何かがある。このチームは、確かに本田、香川、長友などタレントがこれまでよりも充実しているが、それでも彼らではない選手が途中から出てきてヒーローになる。中田英の登場以来良くも悪くもとらわれていた、傑出したタレントとそこから生み出されるワンプレイに依存するサッカーからの完全脱却を果たした。
その片鱗は既に南アフリカワールドカップから現れてはいたのだが、イタリア人監督ザッケローニは更にそれを進化させた。
ザッケローニ・ジャパンが次のステージを目指すうえで必要だったのは、何よりも南アフリカ・ワールドカップの成果の否定だった。それは、自分たちより強いと想定する相手に対して守備的に展開し、逆襲するサッカーからの脱却だ。これを続けている限り、世界のトップ20には入れない。そう自覚することからのスタートだった。もしも、日本代表が世界のトップ20の常連化する時代が来るなら、少なくともこの大会は「次に何を目指すのか、どうすればそれが得られるのか」を選手が自覚するエポックメイキングな大会となったかもしれない。
それよりも何よりも強く感じたのは、ザッケローニの采配、強運そしてそれを支える、あるいはそれに裏打ちされる「自分を選んだメンバーへの信頼」だ。この大会を通じて、選手を腐らせてしまいかねない選手交代は絶対にしなかった。
象徴的なのは、ゴールキーパー川島の扱いだ。ベルギー移籍後からこの大会に入るまで、この大会でもグループリーグ1戦目でどちらかというと精細を欠く印象(おそらくはそれは印象という言葉が適切だと思うが)を与え、2戦目で不運な退場をしたあと、控えゴールキーパー西川がきわめて安定したプレイをしたため、決勝リーグは「西川」という選択もあったはずだ。ましてや、決勝トーナメント第1戦カタール戦で吉田退場後、致命的なミスを犯したために、少なくとも韓国戦以降は「西川」という選択はあった。しかし、ザッケローニはそれをしなかった。結果論を言えば、韓国戦とオーストラリア戦は川島の活躍なしにはあり得なかった勝利だ。
ほかにも同じ議論は、第1、2戦で活躍できなかったFW前田やカタール戦で不用意なファウルを犯し絶体絶命状況をつくってしまった吉田にもあてはまる。しかし、ザッケローニはそのような交代はしなかった。これまでの日本チームでは、こうしたこだわりがどちらかというと裏目に出るケースが多く、マスコミも我々ファンもすぐに交代だとムードをつくってしまう。しかし、ザッケローニはそれをしなかった。彼自身がインタビューで「私は日本語が読めないから、川島が日本のマスコミにたたかれていたことを知らない」と一笑に付したが、これはよほどの信念がないと出来ないことだ。シンプルだが、強い信念。それが強運を呼び込む。
大会のMVP本田に異論がないが、実は長友の活躍がなければこの優勝はありえなかったと思うサポーターは多いだろう。決勝戦でザッケローニは、香川の代役・藤本のアウト、DF岩政インという勝負采配に出た。これにより、長友が活性化した。本人もスイッチが入ったと言っていた。しかし、すでに100分あまり走り回り、あの1対1、あの正確なクロスをあげる長友は、確かにすごい。それゆえに、この大会のもう一枚は長友とザッケローニが抱き合う写真を選択した。
もちろんあとの一枚は、この長谷部の写真だ。次のステージはもうすぐ目の前にある。満足感よりも期待感をつのらせる3週間あまりの大会が終わった。カタール・ドーハの地で、カップを高々と掲げるキャプテン長谷部の姿を見ながら、ドーハの悲劇は完全に払拭されたことを強く感じた。
そのドーハで行われたアジアカップ2011カタールは、見事に日本チームが優勝して幕を閉じた。長谷部のキャプテンシーを感じたシリア戦以後、大量点を取ったサウジ戦を除いては、どの試合も厳しい試合ばかりだった。開催国カタール戦の数的不利な状況での逆転、終了間際に追いつかれおそらくは集中力が切れそうになったはずの準決勝韓国戦、そしてボールの転がり方が少しでも変わっていたなら、3-0くらいで負けていたかもしれないはずのオーストラリア戦。どれも激闘で、他を圧倒するほどの力を今の日本チームは持っていない。
しかし、だ。
このチームはこれまでになく強いと感じられる「何か」がある。それは、負けないと思わせる何かだ。本田流に言えば、「もっている」ということなのだろうが、確かにそう思える何かがある。このチームは、確かに本田、香川、長友などタレントがこれまでよりも充実しているが、それでも彼らではない選手が途中から出てきてヒーローになる。中田英の登場以来良くも悪くもとらわれていた、傑出したタレントとそこから生み出されるワンプレイに依存するサッカーからの完全脱却を果たした。
その片鱗は既に南アフリカワールドカップから現れてはいたのだが、イタリア人監督ザッケローニは更にそれを進化させた。
ザッケローニ・ジャパンが次のステージを目指すうえで必要だったのは、何よりも南アフリカ・ワールドカップの成果の否定だった。それは、自分たちより強いと想定する相手に対して守備的に展開し、逆襲するサッカーからの脱却だ。これを続けている限り、世界のトップ20には入れない。そう自覚することからのスタートだった。もしも、日本代表が世界のトップ20の常連化する時代が来るなら、少なくともこの大会は「次に何を目指すのか、どうすればそれが得られるのか」を選手が自覚するエポックメイキングな大会となったかもしれない。
それよりも何よりも強く感じたのは、ザッケローニの采配、強運そしてそれを支える、あるいはそれに裏打ちされる「自分を選んだメンバーへの信頼」だ。この大会を通じて、選手を腐らせてしまいかねない選手交代は絶対にしなかった。
象徴的なのは、ゴールキーパー川島の扱いだ。ベルギー移籍後からこの大会に入るまで、この大会でもグループリーグ1戦目でどちらかというと精細を欠く印象(おそらくはそれは印象という言葉が適切だと思うが)を与え、2戦目で不運な退場をしたあと、控えゴールキーパー西川がきわめて安定したプレイをしたため、決勝リーグは「西川」という選択もあったはずだ。ましてや、決勝トーナメント第1戦カタール戦で吉田退場後、致命的なミスを犯したために、少なくとも韓国戦以降は「西川」という選択はあった。しかし、ザッケローニはそれをしなかった。結果論を言えば、韓国戦とオーストラリア戦は川島の活躍なしにはあり得なかった勝利だ。
ほかにも同じ議論は、第1、2戦で活躍できなかったFW前田やカタール戦で不用意なファウルを犯し絶体絶命状況をつくってしまった吉田にもあてはまる。しかし、ザッケローニはそのような交代はしなかった。これまでの日本チームでは、こうしたこだわりがどちらかというと裏目に出るケースが多く、マスコミも我々ファンもすぐに交代だとムードをつくってしまう。しかし、ザッケローニはそれをしなかった。彼自身がインタビューで「私は日本語が読めないから、川島が日本のマスコミにたたかれていたことを知らない」と一笑に付したが、これはよほどの信念がないと出来ないことだ。シンプルだが、強い信念。それが強運を呼び込む。
大会のMVP本田に異論がないが、実は長友の活躍がなければこの優勝はありえなかったと思うサポーターは多いだろう。決勝戦でザッケローニは、香川の代役・藤本のアウト、DF岩政インという勝負采配に出た。これにより、長友が活性化した。本人もスイッチが入ったと言っていた。しかし、すでに100分あまり走り回り、あの1対1、あの正確なクロスをあげる長友は、確かにすごい。それゆえに、この大会のもう一枚は長友とザッケローニが抱き合う写真を選択した。
もちろんあとの一枚は、この長谷部の写真だ。次のステージはもうすぐ目の前にある。満足感よりも期待感をつのらせる3週間あまりの大会が終わった。カタール・ドーハの地で、カップを高々と掲げるキャプテン長谷部の姿を見ながら、ドーハの悲劇は完全に払拭されたことを強く感じた。
Posted by 仲村オルタ at 17:24
この記事へのコメント
熱〜っ!いやあ、燃えてはりますな。ええことです。私も引火しそうです。
観客席はしょぼかったけど、なかなか楽しいアジアカップでしたね。中東諸国がもうちょっと頑張ったら、もっとおもしろかったでしょう。
ザッケローニはなかなかの頑固者のようで、南米選手権ではどういう采配を取るのか、意地悪なサッカー評論家さん達が手ぐすねを引いて待っております。
またヒートアップした文章を御待ちしております!
観客席はしょぼかったけど、なかなか楽しいアジアカップでしたね。中東諸国がもうちょっと頑張ったら、もっとおもしろかったでしょう。
ザッケローニはなかなかの頑固者のようで、南米選手権ではどういう采配を取るのか、意地悪なサッカー評論家さん達が手ぐすねを引いて待っております。
またヒートアップした文章を御待ちしております!
Posted by 中川チェアマン at 2011年02月05日 19:29
いや、いや、チェアマン、じきじきのコメントとはお恥ずかしい。アジアカップは結果オーライなのですが、実に楽しかったです。
明日は本部近辺まで桜を見にいきますので、本部でキャンプをはるサンフレッチェを見に行こうかとも考えています。
明日は本部近辺まで桜を見にいきますので、本部でキャンプをはるサンフレッチェを見に行こうかとも考えています。
Posted by 仲村オルタ at 2011年02月05日 22:33