2015年12月30日

2015年極私的映画ベスト10

 今年もベスト10を選ぶ季節がやってきた(対象作品 日本公開年月日が2014.12.1~2015.11.30までのもの)。DVD、映画館あわせ、昨年よりは少ない30本強を鑑賞。今年の後悔は、1位、2位に選んだ映画を映画館でみることが出来なかったことだ。あいかわらず興行的に絶好調な日本映画では、「バケモノの子」「屍者の王国」「ハーモニー」のアニメーション3作を見た。「バケモノ」はよかったが、「おおかみこども」を超えられず、ランクインできず。「屍者」「ハーモニー」2作は、伊藤計劃原作の二本だが、少女マンガ的作画ではなく、もっとハードボイルドな絵と世界を作ってほしかったと思う。

○特別枠 デュランデュラン アンステージド 監督:デヴィッド・リンチ
2015年極私的映画ベスト10
 2011年に行われたデュラン・デュランのライブを、デヴィッド・リンチ監督した少し風変わりなライブフィルムが、今年になって公開された。80年代にニュー・ロマンティックの雄も、すっかりおじさんバンドではあるが、どこか物悲しい音は健在だ。リンチは、光と偶像的なモチーフをつかって、自身がデュラン・デュランに描くイメージを投影する。デュラン・デュランの熱狂的なファンにはあまり響かなかったようだが、適度なファンであり、またリンチ・フリークの私にはとても新鮮に映った。ほかとは一線を画する印象的なライブフィルムだった。

○特別枠 マップ・トゥ・ザ・スターズ 監督:デヴィッド・クローネンバーグ
 もうひとりのデヴィッドである、クローネンバーグの新作。批評家的には悪くないのだが、極私的にはクローネンバーグの粘着性とオフビートさが不発であまりヒットせず。ランクインできなかったので、リンチと仲良くならんで特別枠とした。前作「コズモポリス」は傑作。極私的に、クローネンバーグ最高傑作は「イグジステンズ」だ。
2015年極私的映画ベスト10


第10位 ターミネーター:新起動/ジェニシス ★★★ 監督:アラン・テイラー
2015年極私的映画ベスト10
 シュワルツェネッガーが復活し、シリーズ5本目で実質第一作のリブートとなるこの映画は、興行的にも、批評家的にもあまり芳しくはないのだが、極私的には、シリーズを通して見ている観客を裏切る「ある設定」に清々しさを感じてランクインとなった。シュワルツェネッガーが悪役、良い役双方のアイデアはすでに実現しているので、シュワルツェネッガー復活を前提に5作目を新しく作る立場としては、あの重要なキャラクターを犠牲にせざるをえなかったのだろう。それが気に入るか、気に入らないかでこの映画の評価は決まる。B級感は拭えないが、面白く見た。

第9位 バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) ★★★+ 監督:アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ
2015年極私的映画ベスト10
 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の新作でありアカデミー賞作品賞、監督賞を受賞した本作は、期待したほどのパフォーマンスではなかったというのが正直なところ。全編を通して切ない話だが、ワンカット・ショットやドラムスだけの斬新なBGMなど、監督の個性が前面に出過ぎて、肝心な主題にはいりこんでいけなかったのが原因ではないかと思う。もう一度DVDで落ち着いてみたら、評価が変わるのかもしれない。

第8位 キングスマン ★★★+ 監督:マシュー・ヴォーン
2015年極私的映画ベスト10
 キック・アスやガイ・リッチー作品のプロデユースで知られるマシュー・ヴォーン監督の新作。ポスターなどから、コリン・ファースが主役と思いきや、スカウトされた若いスパイが主役だと後半で気づいた。過剰な残酷シーンはお約束で、不道徳とは思えないが、嫌いな人はおそらくそれが嫌いなのだろう。ほかにもイギリス的なブラックユーモアなど、Xメンのプリクエル版には盛り込めないような要素もあり、この路線で新たなジャンルをつくってほしいと思う。

第7位 インヒアレント・ヴァイス ★★★1/2- 監督:ポール・トーマス・アンダーソン
2015年極私的映画ベスト10
 トマス・ピンチョン原作をPTAが映画化。主役のホアキン・フェニックスのオフビート感が絶妙で、全編が主人公同様にドラッグでラリった質感の映画となった。「内在する欠陥」は男の誰もがもっているものであり、男の悲しい性を感じる。ピンチョンの原作は、まわりくどくてきちんと読むことができなかった。監督PTAもそうなのだが、好き嫌いが別れる作家ということなのだろう。

第6位 ホビット 決戦のゆくえ ★★★1/2 監督:ピーター・ジャクソン
2015年極私的映画ベスト10
 ピーター・ジャクソン監督のライフワーク最終章。長い物語だが、絶妙なプロットのためか、あるいは画面から伝わる熱さのためか、あまり気にならない。ロード・オブ・ザ・リングがフロドの物語であって、同時に人間の王アラゴルンの帰還の物語であるように、ホビットもビルボの物語であると同時に、ドワーフの王トーリンの復活の物語でもある。ピーター・ジャクソンは正直なところ、このふたつの物語以外ではあまりぱっとしないのだが、次作はどうするのだろう。

第5位 ジュラシック・ワールド ★★★1/2 監督:コリン・トレヴォロウ
2015年極私的映画ベスト10
 ジュラシック・パークシリーズの4作目。シリーズ第1作のインパクトは、スピルバーグ自らつくった2作目、製作にのみ関与した3作目で失われていったのだが、この4作目はあれほど事件を起こして開園するはずない、とスタッフも観客もみなそう思っていた前提をあっさりと覆し、開園している状況から提示することで、シリーズのリブートを図った。怪獣映画と揶揄する声もあるが、緊張感も映画的快楽もある良作だ。監督コリン・トレヴォロウはスター・ウォーズ・エピソード9の監督に抜擢されているらしい。これは期待できる。

第4位 シン・シティ 復讐の女神 ★★★1/2 監督:ロバート・ロドリゲス&フランク・ミラー
2015年極私的映画ベスト10
 10年ぶりの新作は、前作ほどのインパクトはないものの、十分に快作だった。原作者が脚本と監督(の一部)を担うことは、ともすれば思い入れが強すぎて失敗しがちだが、ロドリゲスのリードもあってかこのシリーズにかぎっては成功している。もう一本分くらいつくる原作は残ってそうだが、実現するかどうか。役者では、エヴァ役のエヴァ・グリーンが素晴らしかった。

第3位 マッドマックス 怒りのデスロード ★★★1/2+ 監督:ジョージ・ミラー
2015年極私的映画ベスト10
ジョージ・ミラー監督のライフワークであり、27年ぶりの新作。シンプルな「行きて帰りし物語」を、独自のおバカな世界観でガンガン突っ走る。世紀末的なライダーたちには、お抱えのロック・ギタリストがいる。作られた兵士の開放譚もある。27年前のパート3の消化不良を払拭した。次作もあるらしいが、もう一本おなじような高級B級映画をつくることができるかどうかは懸念もある。

第2位 セッション(Whipplash) ★★★1/2+ 監督:デミアン・チャゼル
2015年極私的映画ベスト10
 矛盾する言い方だが、予定調和的などんでん返しが溢れるなかで、この映画のラストの展開を予想できた観客がいただろうか。鬼コーチとの和解でもなく、成功でもなく、挫折でもなく、そのいずれでもありうるラストの展開。脚本家としても監督としてもほとんどキャリアのない30歳の新鋭は、この映画の成功で自由と制約を同時に得た。次の展開が楽しみだ。

第1位 アメリカン・スナイパー ★★★★ 監督:クリント・イーストウッド
2015年極私的映画ベスト10
 80を過ぎてなお、これほどの創作を残す驚くべき集中力。スナイパーとしての「アメリカの正義」に寄り添いながらも、タカ派、ハト派のどちらに与することなく、妻を思う夫として、子を思う父としての視点で、どちらかといえば淡々とまとめあげる。クリント・イーストウッドには、「ミリオンダラー・ベイビー」というなんともやるせない悲劇の傑作があるが、極私的にはそれを超えたキャリア最高傑作だと思う。

  • LINEで送る

同じカテゴリー(映画レビュー)の記事

Posted by 仲村オルタ at 16:02
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

マイアルバム
プロフィール
仲村オルタ
仲村オルタ
職業:書き物一切。
職人のごとくただ書くのみ(としたい)。
公式サイト alt99.net
台湾より沖縄復帰後1年で関西へ。まさかの東京暮らしを経て、流れ流れて今は沖縄暮らし。
オーナーへメッセージ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 11人
アクセスカウンタ