2014年12月30日

2014年極私的映画ベスト10

 毎年恒例(?)の映画ランキング。2013.12~2014.11日本公開作品を対象としている。今年は400枚書いて捨てるなど、自作の執筆が行きつ戻りつの膠着状態だったので(毎年同じことを書いているような気がする、それだけ長く時間をかけられるの実に贅沢な話だが)、それを打開するためにも映画をたくさん見た。DVDを含めれば40本あまり見ている。とはいえ、文句なしNo.1と推せるほどの突き抜けた映画があるかといえば、そういうわけではなく、結局No.1に選んだのは、去年12月に公開されたキュアロン監督のあの映画だった。監督買いをしている好きな監督作品が順当に6本入っている一方で、中島哲也監督や脳や電脳をテーマとしたSF作品(オール・ユー・ニード・イズ・キル、トランセンデンス、ルーシーなど)がやや期待はずれだったことは残念だった。また、世間は日本映画比較優位だが、僕がハリウッド映画世代だからか安易とも思えるテーマに食傷ぎみなのか、やはり日本映画をあまり見ようとは思えない。今年見たのは、3本(永遠の0、渇き。、紙の月)だったが、極私的にランキングする作品はなかった。

特別枠
○Room237 監督 ロドニー・アッシャー
 スタンリー・キューブリックの傑作ホラー「シャイニング」を、オタク的な視点で解説し、その謎を紐解くカルト・ドキュメンタリー映画。そりゃないやろ、というような笑ってしまうような解説(というか解釈)が多発し、終始笑いを抑えきれない。が、この映画の作者はいたって真面目で、キューブリック愛にあふれていることがよくわかる。それゆえに、好感のもてるドキュメンタリーとなっている。だが、ランキングしようがない。
2014年極私的映画ベスト10

○サイン・オブ・ザ・タイムズ Sign 'O' the Times 監督 プリンス
 1987年に公開された映画のリマスター版。劇場で見るのはこれがはじめてだ。言うまでもなく、プリンスの傑作アルバム(最高傑作と呼ぶファンも多い)サイン・オブ・ザ・タイムズの映画だ。前作「アンダー・ザ・チェリームーン」でこけたプリンスが、ドラマ仕立てながらライブの臨場感にこだわりロックアーティストとしての原点にかえった傑作。できれば爆音でIMAXでみたかった。リバイバル公開ということもあるが、どちらかというと好きすぎて、ランキングしようがない。
2014年極私的映画ベスト10

10位 キック・アス ジャスティス・フォーエバー kick-ass 2 監督ジェフ・ワドロウ ★★★-
 前作は2011年の極私的No.1だった。続編の本作は、ぎりぎりトップ10入り。"ヒット・ガール"クロエ・グレース・モレッツは相変わらず爽快だが、画面全体ではどこかキレがない。筋肉ムキムキとなったキック・アスに象徴されるようにオルタナティブな映画の続編は必然的にノーマルとなる、というジンクスどおりなのか。監督がかわったゆえの必然か。ほかに、10位候補としては、ダラス・バイヤーズ・クラブや、herがあったが、キャラクターへの愛着の分だけ、この映画のほうがハナ差で逃げ切った。
2014年極私的映画ベスト10

9位 インターステラー Interstellar 監督クリストファー・ノーラン ★★★
 嫌いな映画ではない。が、中途半端な映画だとは思う。徹底的に理詰めでいくかとおもいきや、ディテールで感情を前面に出してごまかしているような気がしてならない。また人類愛と家族愛が文脈のなかで混同しているように思える。ノーランにしては雑な映画だという印象だ。親子の絆がテーマなら、科学的論拠を無視したが感動的なアルマゲドンのほうが泣けるし(当時実際不覚にもボロボロ泣いた)、宇宙と心をテーマにしたカルト映画なら傑作2001年宇宙の旅(2001: A Space Odyssey)に遠く及ばない。嫌いな映画ではない。だが、個人的には残念な映画だった。
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8位 ニンフォマニアックVol.1/Vol.2  Nymphomaniac 監督ラース・フォン・トリアー ★★★
 本作は2009年『アンチクライスト』、2011年『メランコリア』に続くトリアーの「鬱三部作」の最終作らしい。しかも前後編合計4時間の鬱超大作だ。だが、この映画はいつものトリアー映画のように落ち込むラストではない(やりきれないラストではあるが)。ユマ・サーマン演じるH夫人パートが象徴するようなコメディ大作なのかもしれない。個人的には「アンチクライスト」がやはり好きだ。
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7位 インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌 Inside Llewyn Davis 監督 ジョエル&イーサン・コーエン ★★★+
 事件らしい事件もなく、感情の起伏も葛藤らしき葛藤もないこの映画はああ、このまま終わっていくかな、こんな映画を作ることができるコーエン兄弟はやはり幸せだなと思い油断していると、ラストシークエンスに度肝を抜かれる。この映画は時系列的にどこがはじまりでどこが終わりかわからない。それがこの映画の作り手が仕掛けたキィだ。ああやっぱりうまいなと改めて思った。
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6位 オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ 監督ジム・ジャームッシュ ★★★1/2
 こちらも何も起こらない。葛藤も起伏もないか、あるいはあっても重要なドラマ要素にならない。たいせつな友人が亡くなっても、たいした悲しみもない。プロットポイントもミッドポイントもまったく気にしていない。しかし、うまい。吸血鬼映画というジム・ジャームッシュらしくないモチーフを借りて、美しく整えられた画面構成や、気を許すとふっとずらしてみせるオフビート感覚は、ジャームッシュそのものだ。久しぶりにジャームッシュらしい映画をみた気がする。吸血鬼たちが血を飲んだあとうっとりするシーンの絵の美しさにはこちらまでうっとりしてしまうほどだ。
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5位 ホビット 竜に奪われし国 The Hobbit: The Desolation of Smaug 監督ピーター・ジャクソン ★★★1/2
 ピーター・ジャクソンのライフワークとなったホビットの1本目は、ロード・オブ・ザ・リングの1本目と同様に、背景説明やキャラクター説明に時間を要するためか、あまり刺激的とはいえなかった。その続編である本作は映画館での鑑賞を迷ったが、観に行ってこれは正解。説明も世界設定もなく本編に突入する。ベネディクト・カンバーバッチが声を吹き替えた竜(スマウグ)のキャラクターが秀逸。サディスティックなまでのクリフハング感もいい。ちなみに今年12月公開の完結編「決戦のゆくえ」は更に良かった。ピーター・ジャクソンのクリエイターとしての執念を見たような気がした。
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4位 マチェーテ・キルズ Machete Kills 監督ロバート・ロドリゲス ★★★1/2
 デヴィッド・リンチがメジャー映画から半ば引退している現在で、なんの不安も不満もなく好きなように映画をつくっている(と思われる、もちろんそんなことはないのだろうが)監督の代表がロドリゲスだろう。そもそもグラインドハウスというおバカ映画のなかで、さらにおバカな架空映画の予告編として作られた「マチェーテ」は、その予告編になぞって作られた前編「マチェーテ」だけに飽きたらず、続編まで作ってしまった。これがまたいい。徹底的にバカバカしい。やりたい放題やっても面白いのは、たぶんそれが極私的なツボにはまっているからだろう。さらに続編らしきSFの予告編まで真面目に作っている。が、この傑作でやめておいたほうが無難だとは思う。
2014年極私的映画ベスト10

3位 新しき世界 監督パク・フンジョン ★★★1/2+
 インファナル・アフェア+ゴッドファーザー+チング。監督(脚本家でもある)はこれらの映画をすべて見ている観客を想定し、その高水準をクリアし、いろいろな意味で予想や期待を裏切ることに成功している。脚本を書いた出世作「悪魔を見た」は胸糞わるく、あまり好きにはなれなかったが、これからも「韓国のタランティーノ」との呼声に応えるような、良質の犯罪映画を作ってほしいと思う。脚本の勝利だろう。感心すると同時に、ヒットはしているがガラパゴス化している日本映画の将来を激しく憂う。
2014年極私的映画ベスト10

2位 複製された男 Enemy 監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ ★★★1/2+
 ドッペルゲンガーの話。原作の原題はThe Doubleだが、映画の原題はEnemy(敵)となっている。大学の歴史講師アダムは、なにげなく鑑賞した映画の中に自分と瓜二つの俳優を見つける。興味を持ったアダムはその俳優アンソニーの居場所を突き止める。その後2人は顔、声、生年月日などすべてが一致することを知る。やがてアダムの恋人メアリー、アンソニーの妻ヘレンを巻き込み、運命の歯車は狂い始める。本作は語られ尽くした感のあるテーマを、背景や説明を省いた不条理ミステリーとして描き成功した。”蜘蛛"が何を象徴するのか。どのような意図で配置されているか。作り手の意図を考えると、とてもおもしろい。
 今年公開された映画で、この映画と比較されたポール・ハギスの「サード・パーソン」は、同様に不条理ミステリーだが、作家の意図が途中で判明してしまう分だけ、好奇心も薄れてしまった。
2014年極私的映画ベスト10

1位 ゼロ・グラビティ Gravity 監督 アルフォンソ・キュアロン ★★★1/2+
 前作Children of men(トゥモロー・ワールド)も2006年のナンバー1だったアルフォンソ・キュアロン。最初この映画をみたときには、思ったよりも映画的快楽が足りない気がしていた。が先に書いたように、「インターステラー」をみたときにこの映画の珠玉な出来栄えに改めて感心した。ラストシーンのあの力強い一歩は、このシーンのためにすべてのシーンがあると思わせるほどインパクトがある。やはりこの映画は「ゼロ・グラヴィティ」ではなく、「グラヴィティ」であるべきなのだ。
 また、宇宙は無音、闇、それゆえに恐怖というスタイルは、のちに公開されるこの種のモチーフ映画に受け継がれるのではないか(インターステラーも意識しているように思える)。 No.1にするつもりはなかったが、11月にインターステラーをIMAXで観て、この映画の宇宙シーンの緊迫感、完成度を見直し、改めてすごい映画だと思い直した。CG映画のエポックメイキングとなった「アバター」に匹敵するほどのIMAX映画の傑作だと思う。
2014年極私的映画ベスト10


 2015年もよろしくお願いいたします。

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Posted by 仲村オルタ at 00:05
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台湾より沖縄復帰後1年で関西へ。まさかの東京暮らしを経て、流れ流れて今は沖縄暮らし。
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