2014年05月02日

「新しき世界」レビュー

 遅ればせながら、「新しき世界」を観た。韓国フィルム・ノワール。ハリウッドによるリメイクも決まったらしい。去年みたスパイ映画「ベルリン・ファイル」を観たときも思ったが、韓国映画は脚本をしっかり書こうという姿勢を強く感じる映画が多い。以下、後半に厳密に言えばネタバレあり。


予告編

(ストーリー)eiga.comより
韓国最大の犯罪組織に潜入捜査して8年がたつ警察官ジャソンは、自分と同じ中国系韓国人で組織のナンバー2であるチョン・チョンが自分に対して信頼を寄せていることを知り、組織を裏切っていることに複雑な思いを抱く。しかし、警察の上司カン課長の命令には従うしかなく、葛藤する日々を送っていたある日、組織のリーダーが急死。後継者争いが起こる。カン課長はその機に乗じて組織の壊滅を狙った「新世界」作戦をジョンソンに命じるが……。

「新しき世界」レビュー


 ヤクザ組織への潜入刑事モノというのは、ああ、またかと思われがちなテーマで、作り手的には避けたいのが普通だろう。香港映画「インファナル・アフェア」の成功により、ハリウッドによるリメイク、テレビドラマのリメイク、その他亜流の潜入ものなど世に溢れた。実際にはそんなに多くあるわけではないのかもしれないが、あまりにも特異なテーマであることと、「インファナル・アフェア」が素晴らしすぎたことから、その思われるのだろう。
 そこでこの映画だ。「インファナル・アフェア」+「ゴッドファーザー」と言われるが、そこに「monga モンカ」のテーマを色濃くねりこんでいる。緊張感もあり、男の哀切が漂う。だが、映画が進行しても、何処か物足りなさを感じている。潜入刑事もの=辞めたいのに辞めさせてもらえない潜入刑事の苦悩という「インファナル・アフェア」の文脈で見ているからだろう。冒頭の拷問、ドラム缶シーンより、裏切りの代償を印象づけられているのだから、それも仕方がない。
 しかし、後半一気にテーマは義兄弟の愛に収束する。
 何よりも素晴らしいのは、義兄チョン・チョンと病室で対話するシーンだ。実の弟のように面倒を見ていたジャソンに裏切られたことを知るチョン・チョン。瀕死の義兄は、揺れる潜入刑事ジャソンに「オレがもし生き残ったら、オマエはオレを許せるか?」と訊いた。この一言にやられた。普通、この場面では「オレがオマエを許せるか」の文脈で語られることはあっても、こんな台詞は書けない。この矛盾に満ちた一言で、この映画のテーマが突然浮かび上がる。
 そしてラストシーンだ。6年前に、義兄弟がチンピラだったころの回想シーン。回想シーンだけ、ジャソンは本当に楽しそうに笑っている。そして、エンドタイトル。終わったあとも、この回想シーンとあの台詞を何度も思い出す。
 もし映画に一貫するテーマが義兄弟の愛なら、前半にきちんとエピソードをいれるのが常套手段だろう。ふたりはふざけあってはいるが、そんなに絆が深いとは思えない。
 しかし、見終わったあとに、ああ、この映画は義兄弟の愛を描いたものだったのだ、とわかったときの、腑に落ちた感触は本当に手に取ることができるほど生々しい。
 脚本家(=監督)は、観客が「インファナル・アフェア」を見ていることを前提に、それを逆手にとり、あえてエピソードを封印したのか、あるいはチョン・チョンのキャラクター設定をあのようにしたのか。このミスリードが意図的なものだとすれば、恐ろしく高度なテクニックだと驚愕した。
 韓国と日本の二国間関係は一時期の韓流ブームが嘘のように冷え込んでいる。それゆえに、こうした良質な映画が広く紹介されないのは実に不幸なことだと思う。韓国の映画界は、5000万人の国内市場ではペイしないと考え、きちんと脚本を書いて、きちんと映画をつくって、世界市場に売りだそうという意図が明確にあらわれているような気がする。そういう意味では世界標準を目指して造られている。映画さえも、中途半端な日本市場に支えられ、ガラパゴス化しているのかと思うと、実に嘆かわしいかぎりだ。

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Posted by 仲村オルタ at 22:10
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台湾より沖縄復帰後1年で関西へ。まさかの東京暮らしを経て、流れ流れて今は沖縄暮らし。
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