てふPナイトVol.1

仲村オルタ

2014年12月24日 23:13

「僕らが死んだ人に対してできることといえば、少しでも長くその人のことを記憶しておくくらいです。でもそれは口で言うほど簡単ではありません」
(「女のいない男たち」収録「独立器官」 村上春樹)

 我々の大切な友人であり、僕にとっては同士であり戦友である作家てふてふPが死んで一年が過ぎた。僕は僕らのやり方で、奴をこの夜の街に迎えたかった。
 奴の行きつけの店のひとつだった竜宮通りにあるRockBar黒にて、てふPの追悼イベントを開いた。僕が言い出しっぺではあるが、黒の松浦さんも協力してくれた。イベントといっても何をするわけでもない。Pの思い出話をネタに、インダストリアル・メタル、テクノ、アンビエントなどPの好きだった音楽を聴きながら酒を飲むだけだ。
 決して多くの人数が集まったわけじゃない。いつもの辺境同盟の面子のほかは、クラブDJ、小説講座の生徒たち、かつてPと同じ琉球新報小説賞を受賞した人、周年祝いにPが花を持って訪れたバーマスター(もちろん女性)、幼なじみの古書商い、そしてPちゃんの実弟。Pが好きだったこの夜の街に彼を迎えるには十分な人数が集まった。



 皆それぞれにPの思い出話を語る。小説講座の話、クラブイベントでクネクネと踊る奇妙なダンス(通称Pダンス)の話、思い込んだら猪突猛進な恋愛話、ふられた話やある特定の種類のひとたちにやたらとモテた話、それを自虐的に語るPの様子などなど。
 Pはほとんど何も否定しない。「いいですね~これ」「それは素晴らしい」と、誰かの提示したものを受け入れて、あの人懐こい笑顔で笑う。みんなPのことが好きなんだなと思うと、僕も嬉しくなる。
 何よりも僕はこのささやかな追悼の夜に、Pの4つ離れた弟が参加してくれたことが嬉しかった。彼は僕らの意図を完全に理解してくれた。「こんな場を企画してもらって本当にありがとうございます。今日は僕の知らないアニキの話をきけてよかった。アニキも喜んでます」と涙声で言った。性格も見た目も違い、ぱっと見の印象ではあまり兄弟らしくないかもしれないが、Pが弟のことを大切にしていたことも誇りに思っていることも知っていたし、弟もアニキを頼りにしていた。僕はPと弟Nの関係が羨ましかった。彼と彼を誘ってくれたDJ・Sに深く感謝したい。
 てふてふPは小説家としては決して成功したわけではないし、彼が小説家を目指したことで自らバイトと執筆のハードボイルドな人生を選び、結果的にそれがこんな早い死につながったのも事実だろう。親の立場からするとやりきれないことに違いないが、今年年初に僕らが実家を訪ねたとき、いろいろな人が死んだあとPの家を訪てきたり手紙をくれることに、息子の知らぬ一面を教えられるようで嬉しく思うとおっしゃっていた。
 これまで互いに知らなかったひとたちがこうしてそれぞれのPとのつながりを語りあうことで、また新たな人のつながりができる。笑いあり、少しの怒りと涙あり。第1回てふPナイトは盛大に、慎ましやかに、夜更け過ぎに終わった。僕は、出来る限り毎年この集いを続けていきたいと思う。参加してくれた皆も、残念ながら今年は参加できなかった仲間も、きっと同じ気持なのだろうと思う。Pちゃん、ありがとう。

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