キャプテンシー

仲村オルタ

2011年01月16日 18:47

 高校時代、ラグビー部でキャプテンだった僕はよく「キャプテンシー」という言葉を耳にした。キャプテンらしくプレイし、キャプテンらしくチームを統率する。結論的に言えば、僕はキャプテンの責務を十分に果たしたとは言えない。怪我も多かったし、結局自分を殺して、チームを統率する方法論をつきつめることもなかった。気迫さえあれば、チームは自ずと付いてくるのだと勘違いしていたと思う。
 アジアカップ2011カタールのグループリーグ第2戦、シリア戦を見た。夜中に行われた試合としては、アドレナリン噴出のおさまらぬ、(結果的には)起きていて後悔しない試合だった。少なくとも1戦目よりは格段にチームもよくなった。fifaランク100位そこそこのチームに苦戦することがどんなものか、という評価はもちろん必要だ。だが、ここではそれを置いておこう。
 先制点のゴールは素晴らしかった。本田、香川、松井というタレントがかみ合い、長谷部がたたき込んだ。
 このときも長谷部はまずはじめに、バックスタンド側でアップしていた控え選手のところへ行って、チームを鼓舞した。このときも、ああすごいな、いいキャプテンだな、と思ったものだ。
 しかし、長谷部のキャプテンシーを感じたのは、なんといっても川島退場を招いた疑惑の判定時だった。解説の松木氏をして「なんなんすか、これは?」と言わしめたあのプレイは、やはりどう考えてもオフサイドだろう。チームは混乱し、我も我もと主審(イラン人)や線審に詰め寄る。そのなかで長谷部も、チームを抑えつつ抗議をしていたが、それでもすぐには事態は落ち着かなかった。それもそうだ。もしこの試合を引き分けたら、自力で決勝トーナメントへ進む可能性がなくなるのだ。
 結局、川島は退場となり、シリアにペナルティーキックが与えられる。
 その直後だ。審判に腰にそっと手をやり話をする長谷部の姿をとらえた。最後には笑みをこぼすのだが、つられたように審判も笑った。その笑みをカメラはとらえていた。
 シリアはPKを決めるが、その約五分後、岡崎がペナルティエリアで(うまく)倒され、PKを獲得する。それを持ってる男本田が決めて、日本は結果的に勝った。
 もしも川島退場時に一方的に審判に抗議し、審判に不快な思いだけを持たせていたら、あのファウルはファウルとなっただろうか。もとはといえば自身の不用意なバックパスが招いた惨事とはいえ、審判と落ち着いて談笑する長谷部の姿は、キャプテンとしてゲームの流れを呼び込むために必要な行為だった。僕は感動すら覚えた。8年前のアジアカップでも、冷静にpkのゴールサイド変更を申し出た当時のキャプテン宮本のことが話題になったが、あれ以来のキャプテンたるキャプテンを見たような気がする。ワールドカップでもキャプテンだったが、さらにもう一世代引き継ぐことを自覚し、更に成長したような気がする。
 もしも、この先どこかで躓き、たとえアジアカップが取れなかったとしても、長谷部という真のキャプテンを得たことは、次のワールドカップに向けて大きな収穫だろう。キャプテンシーというのは周りの選手が認めてこそはじめてキャプテンシーとなるからだ。アジアカップ獲得まであと(最大)4試合。「このままでは取れる気がしない」と試合後長谷部自身は語っていたが、長谷部がカップを手にして、高く掲げる姿を強くイメージし、残りの試合を精一杯応援しようと思う。





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