伊勢へ

仲村オルタ

2007年01月07日 21:35

 大荒れの天気のなか、ふと思い立って伊勢へ行った。

 長い長い帰省も今日が最終日で、僕はただひとりで、インターネットの繋がらないコールドスポットで、執筆あるいは執筆準備に集中したかった。本も読みたかった。今年に入って読み始めた目取真俊の「虹の鳥」も読み終えてしまいたかった。

 僕はパブリックスペースで執筆することが多い。電車の中か、コーヒーショップが最も集中できる。もちろんiPODは必需品だ。

 電車に乗って日帰りできる場所なら何処でも良かったのだが、かれこれ4年あまり前に住んでいた津に、少し気になる用事があったのと、三重に1年半あまり住んでいたのに、伊勢神宮にきちんとお参りしたことがなかったのとで、伊勢を選んだ。僕は神道を信仰しているわけではないが、神社の森の澄んだ空気はとても気持ちがいいと思う。



 前に此処に来るまで知らなかったのだが、伊勢神宮には式年遷宮という行事がある。20年に一度、社殿をそっくり建て替えてご神体を移動するのだ。神殿そのものを建替えるので、容易いことではなく、6年後の次回の遷宮にかかる費用は550億を超えるという。お参りのあと、遷宮先の予定地を横目に見て内宮を後にした。



 そのあと、おかげ横丁で伊勢うどんを食べた。伊勢うどんは、醤油がそのままかけてあるような濃い汁のかかったうどんだ。



 以前僕はこの伊勢うどんを、伊勢市内の町の定食屋で食べて、あまり美味しくいただけなかった記憶がある。なんで醤油だけで食べなあかんねん、と思ったもんだが、今日食べた伊勢うどんはとても美味しかった。ああ見えて、黒い汁には、煮干、昆布などの味が隠されているという。

 ひととおり、散策した後、電車を乗り継いで名古屋に戻った。

 今朝、駅に向かう途中で、車に轢かれて死んだ猫を、鴉が群れになって、啄(つい)ばんでいるのを見た。そのことが直接的な引き金となって、僕は今年書くはずの1本目の恐怖小説の書き出しを、往復の車内で書いてみた。まだ使い宛のはっきりしない文章の断片にすぎない。しかし、冒頭のイメージを具体化するだけで、物語が予想もしない方向に動き出すことがある。

 死んだ猫は不幸だが、心のなかで手を合わせつつも、受けたインスピレーションをそのまま文章化する。仲村オルタの2007年は、今日本格的に始動した。

 風に弱いというセントレア発那覇行きの今日の便は欠航になったようだ。飛行機が飛びさえすれば、明日沖縄に戻る。

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