2019年極私的映画ベスト20 その3(10位から1位と特別枠2)

仲村オルタ

2020年01月01日 00:00

 2019年の極私的映画ランキング、いよいよトップ10。と、その前に特別枠から。

◆特別枠2 ブレードランナーIMAX 監督:リドリー・スコット
 新聞やテレビの今年の沖縄の十大ニュースに選ばれないが、極私的には「沖縄にIMAX映画館が登場」がトップ10の上位に入る。そのおかげでこの歴史的名作をIMAXで見ることができたし、スター・ウォーズ新作もIMAXで見た。客足不調が言われるパルコ・シティだが、なんとかこの映画館だけでも残ってほしい。
 公開当時には世間の評価もそれほど高くなかったとされるリドリー・スコットのこの傑作SFノワールハードボイルドだが、IMAXで観て、重低音に圧倒され、吸い込まれるような漆黒の黒さに目を見張り、レプリカントの悲哀に心をかき乱される。個人的にはカタギ仕事のゴタゴタで何もかもうんざりしていた時期に観ただけに、その創作意欲と完成度にあらためて感動し、救われた1本だった。


第10位 ジョーカー ★★★+ 監督:トッド・フィリップス
 実は今年最高の期待作だった。評判もいい。R15にも関わらず興行収入もいい。しかし、極私的には泣けなかったし、感情移入できなかった。ジョーカーは狂気そのものであり、バットマンと対をなすものであり、意味や動機づけを行うことは興ざめな気がしたのがひとつ(それでいてブルース・ウェインを出すのはフェアじゃない気がした)。バットマンもジョーカーも同じ狂気であり、その裏表でしかない。それを裏だけ強調されても、なにか足らないのだ。あとは精神疾患を抱えるものを笑い、追い詰めていくその展開に、興ざめしたのだ。この映画は不条理ではない。ジョーカーには狂気に走る理由がある。その根本が疾患であるというのは、創作的にどうかとは思う。この映画のあちこちにあるように、現実と幻想がもっと複雑に入り乱れて、意味を求めず、感情を求めつづければ、傑作になったのかもしれない。極私的には今年もっとも残念な一本でもある。


第9位 ブラック★クランズマン ★★★+ 監督:スパイク・リー
 スパイク・リーの復活?作。白人至上主義団体(KKK)に潜入する黒人警官の話だ。80年代終わりから、90年代初頭にかけて、何本も傑作を生み出し時の人となったスパイク・リーも、しばらく名前を聞かなくなる。2006年に傑作「インサイド・マン」を撮るが、フローティング・ドリーショットhttps://alt.ti-da.net/e11018441.html 以外は、スパイク・リーらしさを感じない。ここしばらくは日本で公開もされなかった。そこへこの傑作がリリースされた。久しぶりにアカデミー賞も受賞し、授賞式でもスピーチした。スパイク・リーは作品賞を受賞した「グリーン・ブック」を批判したというが、確かにブラック・クランズマンのほうが創造欲に満ちた良作だ。


第8位 火口のふたり ★★★+ 監督:荒井晴彦
 今年も観た日本映画は数本もないが、このR18映画は極私的に創作意欲がかきたてられるものだった。映画鑑賞直後に白石一文著の原作も読む。全編にわたり濡れ場が多いが、綺麗だとは思えても、あまりいやらしくはない。あまりエロすぎるように撮らないのもテクニックなのだろう。結婚直前の女と、離婚して身体の言い分から遠ざかっていた男。身体の言い分をきいて、ふたりは退廃的で破滅的な数日間を、食って、寝て、やりまくる。本能の前に、道理はただ平伏すしかない。これも登場人物の少ない戯曲的な映画だ。荒井晴彦監督は、自身で脚本を書いて撮った作品を何本か観てみたい。


第7位 移動都市/モータル・エンジン ★★★+ 監督:クリスチャン・リヴァース
 ピーター・ジャクソン製作・脚本、ロード・オブ・ザ・リングなどで特殊効果を務めたクリスチャン・リヴァースの初長編監督作品となった本作は、総じてあまり評判はよくない。だが、つまらなかったかというとそうでもないし、移動都市と反移動都市連盟の戦争も迫力があり、復活者シュライクのキャラクターも実にいい。
https://alt.ti-da.net/e10981883.html


第6位 ジョン・ウィック チャプター3 パラベラム ★★★+ 監督:チャド・スタエルスキ
 2015年に公開されたジョン・ウィックを観て、誰がシリーズ化されることを予想しただろう。死んだ奥さんから送られた愛犬を殺された元殺し屋が、個人的な復讐だけでなく組織そのものを破滅させる、というよくありがちとも言えるストーリーで、たしかにGun-FU(ガンフー)と言われるアクションは新鮮だったが、ごくごく普通の映画だった。それがまさかのチャプター2、そしてチャプター3と、2年に1本のペースで順調に製作されており、本数を重ねるごとに、キャラクターが増え世界観がより厚くなる。ガンフーもさらに好調で、特に本作ではなぜかニューヨークを馬に乗りながらガンアクションするシーンが馬鹿馬鹿しくて最高だった。


第5位 サマー・オブ・84 ★★★1/2+  監督:RKSS
 フランソワ・シマール、アヌーク・ウィッセル、ヨアン=カール・ウィッセルら、カナダの映像制作ユニット「RKSS(ROADKILL SUPERSTARS)」が、1980年代のホラー映画、サスペンス、スラッシャー、そして青春映画にオマージュをささげた映画『サマー・オブ・84』。
 思わぬ衝撃作だった。後味の悪い映画として有名なものは、セブン、ミストなどが挙げられると思うが、個人的にはこの映画のラストの展開はセブン以来久しぶりの「トラウマ級」の衝撃だった。少年少女の連続誘拐殺人事件を解決しようとする少年たちのseek&find。物語は予定調和として落ち着くかと思った矢先に、まさかの展開に度肝を抜かれる。このエンディングを見つけ出したことが、この若き映像作家たちの勝利だろう。全編を貫くダークなテクノもいい。


第4位 アリー スター誕生 ★★★1/2+ 監督:ブラッドリー・クーパー
 破滅的な主人公(たいていは男、そういえば破滅的な女主人公の物語はないのかも)の物語が、どうやら個人的なツボらしい。自己犠牲というには身勝手な選択だが、自己の破滅は相手を思ってのことだ。
 去年のボヘミアン・ラプソディー以来、音楽映画が多く公開されており出来もいいのだが、このリメイク版スター誕生も傑作だった。レディー・ガガの歌と演技も良かったが、驚いたのはブラッドリー・クーパーの歌だ。音楽はもちろん素晴らしかったが、プロットも良かった。もっと身勝手に描くことができたアリーを動かない北極星とした設定も成功している。


第3位 バーニング(劇場版) ★★★★ 監督:イ・チャンドン
 村上春樹作「納屋を焼く」を韓国の映画監督イ・チャンドンが脚本、監督をつとめたこの映画は、短編ゆえの「放り出し」感を生かしたまま、90分の映画としての創造性を両立させている。納屋ではなくビニールハウスを焼くのだが、村上春樹の世界観を尊重し、離れないまま、独自の作家性を描く。セリフ、映像、小道具などいろいろなものがなにかのメタファーと思える。「蜜柑があると思うのではなく、ないということを忘れればいい」、世話を頼まれた姿を見せない猫、子供の頃に落ちた存在しない井戸、リトル・ハンガーとグレート・ハンガー、何度もかかってくる無言電話そしてビニールハウスを焼くという趣味。マイルス・デイヴィス「死刑台のエレベーター」をBGMに、沈みゆく夕日に向かって、上半身裸でグレート・ハンガーの踊りを踊るヘミのシルエットの美しいこと。映像の美しさもあり、何度も観返してみたい傑作だ。


第2位 ローマ Roma ★★★★ 監督:アルフォンソ・キュアロン
 アルフォンソ・キュアロンはこの極私的ランキングでは1位の常連だ。寡作だが、2007@年のトゥモロー・ワールド、2012年ゼロ・グラビティ と年間1位を取り続けている。映像のセンス、ストーリーテリング、エンターテイメントと作家性の両立そのすべてにおいて、現代を代表する映画監督であることは異論はあるまい。
 NETFLIXにて公開されたこのローマも素晴らしかった。全編モノクロの美しいプリント、構図や映り込みタイミングなどが完璧に計算されたカメラワーク、淡々と進むなか突如として感情があふれるクライマックス(もちろん号泣した)。この映画こそIMAXでみたいが、最近はスコセッシもコーエン兄弟もみんなNETFLIXで映画を撮る。製作者にとっては儲かり、作家にとってはいろいろな自由度があるのだろうと思う。もしも、この映画を映画館で観たなら、あの波打ち際のシーンを大画面で観ていたなら、3作連続1位だったかもしれない。そう思える傑作。


第1位 ロケットマン Rocektman ★★★★ 監督:デクスター・フレッチャー
 2位のローマと迷ったあげく、結局エルトン・ジョンの半生を描いたミュージカル・ファンタジーを年間1位に選んだ。映画としてはローマのほうが評価も高いのだろうが、心にズシンとくる影響力は個人的にはこの映画のほうが強い。エルトン・ジョンの音楽が素晴らしいのは言うまでもないが、この映画の根底にある孤立、孤独に共感するからだろう。映画を観終えても、音楽を何度も聞くことで、またこの映画に戻ってくる。たいていのものを手に入れた天才ロック・スターも、おそらくは本当に欲しいものは手に入れられない。タロン・エジャトンの演技もよかった。


 来年はYouTuberにつづき、この映画評論もプロジェクト化しようか思案中。

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