Purple Reign

仲村オルタ

2010年11月20日 22:10



 ラスベガスのホテルで、偽プリンスのショウを見た。
 偽プリンスとはいえ、別に欺いているわけではない。そっくりさんの偽物として、本物プリンスにトリビュートするショウなのだ。その名も"Purple Reign"。"Reign"は統治などの意味があるが、"rain"と同じ音なのだ。
 僕はラスベガスでダイビングの展示会に出展するためにこの町にやってきた。空港からコンベンションセンターへ直行し、展示を終えると、食事を終えて、夜ホテルにチェックインした。ホテルは"Hooters"というところで、カジノはあるものの高級ホテルではない。ホットパンツにシャツという出で立ちの、健康的なコスチュームで有名なレストランの系列だ。台北に店があったが、結局赴任前に二度ほど連れて行ってもらっただけで、三年間の赴任中は一度もいかなかった。ネットで予約したホテルはとてもリーズナブルな値段だ。場末感もそこそこ漂い、悪くない。バンガローの二階だったが、駐車場に面した窓が閉まらなかった。安全性に問題ありかと思ったが、どうせ一晩だ。楽しもうと思い、偽プリンスのショウに出掛けた。料金は三十ドルあまり。
 百名ほどのキャパシティのクラブホールでショウは始まった。本物のプリンスだったら感涙必至のショウとなるだろう。一曲目は"Let's Go Crazy"。登場と同時になぜか笑いが起こった。偽プリンスはたしかにとてもよく似ているのだが、背丈が微妙に本物プリンスより高く、なりきり度合いが百パーセントでないように見えるので、どこか滑稽なのだ。それでも、曲が"Kiss""1999""Little Red Corvette""Raspberry Beret"と80年代のヒット曲を次々と繰り出し、会場も、そして僕も大興奮。足を縦に広げて、床にしゃがみこむプリンスダンスも連発するし、シニカルでファニーなMCも結構本物っぽく、これがいちいち楽しいのだ。途中から、モーリス・ディのそっくりさん(こちらはちょっと貫禄が足りない)や、ジェロームのそっくりさんまで現れ、The Timeのナンバーを何曲もプレイする。結構マニアックなのだ。
 フロアを見ているうちに、僕は不思議な感覚に囚われた。
 観客には黒人もいれば、白人も、ヒスパニックもいる。アジア人は僕だけだったかもしれない。みな同じように楽しみ、興奮し、身体を弾ませ、奇声をあげる。年代は僕とたぶんそれほど変わらないのだろう。此処にいる誰もが、同時代に同じ音楽を聴き、熱狂したのだ。偽物プリンスの耳馴染みのある曲に興奮し、同時にあの素晴らしき時代に想いをはせる。なんと素晴らしいことだろう。
 ラストはもちろん"Purple Rain"。僕は感動に身体が震えた。なんと素晴らしいことか。僕らが過ごしてきた時代はこんなにも美しかったのか。
 90分ほどのショウが終わり、部屋に戻っても、しばらくは眠れなかった。それは興奮のためか、あるいは切なさのためか。

公式サイト

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